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チミチュリソースとは?アルゼンチン発祥の万能ソースの魅力を解説

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はじめに

チミチュリソース。この名前を聞いて、すぐにピンとくる方はまだ少ないかもしれません。しかし、南米アルゼンチンでは、食卓に欠かせない国民的な調味料として親しまれています。

鮮やかなグリーンの色合いと、ハーブとにんにくが織りなす香り高い風味が特徴のこのソースは、肉料理との相性が抜群です。アサードと呼ばれる焼肉料理や、ステーキ、さらには屋台で売られるチョリパンにも使われるなど、アルゼンチンの食文化に深く根付いています。

本記事では、チミチュリソースの起源や歴史、その特徴、地域による違い、そして伝統的な作り方まで、詳しく解説していきます。

南米が生んだグリーンの宝石

チミチュリソース(スペイン語:chimichurri)は、アルゼンチンを代表する調味料です。「チミチュリ」とも呼ばれ、現地では単に「チミ」と愛称で呼ばれることもあります。

その正体は、新鮮なハーブをふんだんに使った、オイルとビネガーベースのソース。パセリやコリアンダー(パクチー)といった香草類に、にんにく、オリーブオイル、ワインビネガーや酢を加え、細かく刻んで混ぜ合わせたものです。

見た目は鮮やかなグリーン。香りはハーブの爽やかさとにんにくの力強さが同居し、味わいは酸味と塩気、そしてハーブの風味が複雑に絡み合います。オイルのコクが全体をまとめ上げ、肉料理に添えると、その脂っこさを軽やかに中和してくれるのです。

アルゼンチンでは、このソースなしでアサード(焼肉)を楽しむことは考えられないほど。家庭ごとに微妙にレシピが異なり、それぞれの家の味が存在します。まるで日本の味噌汁のように、各家庭に受け継がれる味があるのですね。

パンパの大地が育んだ味の物語

チミチュリソースの起源については、いくつかの説が存在します。最も有力なのは、19世紀のアルゼンチンで生まれたという説です。

当時、アルゼンチンのパンパと呼ばれる大草原地帯では、牧畜業が盛んでした。ガウチョと呼ばれるカウボーイたちが、広大な草原で牛を追い、夜になると焚き火を囲んで肉を焼いて食べる。そんな生活の中で、シンプルな肉料理に風味を加えるために生まれたのがチミチュリソースだと言われています。

名前の由来も興味深いものがあります。一説には、イギリス人の「Jimmy McCurry」という人物の名前が訛ったものだとか。また別の説では、バスク語で「混ぜ合わせたもの」を意味する言葉が語源だとも言われています。真相は定かではありませんが、いずれにせよ、多様な文化が交差するアルゼンチンらしい、国際色豊かな背景を感じさせますね。

20世紀に入ると、チミチュリソースはアルゼンチン全土に広まり、国民的な調味料としての地位を確立しました。アサードという食文化と共に発展し、今では南米各国にも広がっています。ウルグアイやパラグアイ、さらにはペルーやチリでも、それぞれの国のスタイルでチミチュリが楽しまれているのです。

ハーブが奏でる香りの交響曲

チミチュリソースの最大の特徴は、何と言ってもその鮮烈なハーブの香りです。パセリやコリアンダーといった香草が主役となり、にんにくの刺激的な風味がアクセントを加えます。

味わいの構成要素を分解してみましょう。まず、ビネガーがもたらす酸味。これが肉の脂っこさを切り、口の中をさっぱりとさせてくれます。次に、オリーブオイルのまろやかなコク。これがハーブとにんにくの風味を包み込み、全体に一体感を与えます。そして、塩気が味を引き締め、時には唐辛子のピリッとした辛味が加わることも。

色は鮮やかなグリーン。これは新鮮なハーブをたっぷりと使っている証です。テクスチャーは、細かく刻まれたハーブが印象的なオイルベースのソース。ペースト状ではなく、やや粗めの質感が特徴的です。

このソースの素晴らしい点は、肉料理との相性の良さにあります。ステーキやチョリソー、鶏肉のグリルなど、どんな肉にも合うのです。脂の多い肉には酸味が効いて爽やかに、淡白な肉には風味を加えて奥行きを出してくれます。

さらに、魚のムニエルや野菜のグリルにも使えるという万能性。アルゼンチンでは、パンに塗って食べることもあるそうです。

国境を越えて広がる味のバリエーション

チミチュリソースは、アルゼンチンを起源としながらも、南米各国でそれぞれ独自の進化を遂げています。

アルゼンチンのチミチュリは、パセリを主体としたグリーンタイプが主流です。にんにく、オレガノ、オリーブオイル、ワインビネガーまたは白ワイン、塩、黒胡椒、そして時には唐辛子を加えます。家庭によってはレモン汁を加えることも。

ウルグアイでは、アルゼンチンとほぼ同じスタイルですが、やや辛めに仕上げる傾向があります。唐辛子の量を増やし、パンチの効いた味わいにするのが特徴です。

ペルーでは、コリアンダー(パクチー)の使用量が多くなります。ペルー料理全般にコリアンダーが多用されることから、チミチュリもその影響を受けているのでしょう。より爽やかで、エスニックな風味が強調されます。

また、色による分類も存在します。一般的なグリーンチミチュリに対し、レッドチミチュリと呼ばれるバリエーションもあります。これは赤パプリカやトマトを加えたもので、見た目も味わいも異なる別物と言えるかもしれません。

刻んで混ぜるだけのシンプルな魔法

チミチュリソースの伝統的な作り方は、驚くほどシンプルです。特別な調理技術は必要ありません。必要なのは、新鮮な材料と、少しの手間だけ。

基本的な材料は以下の通りです:

作り方の手順を見ていきましょう。

まず、パセリとコリアンダーをよく洗い、水気をしっかりと切ります。茎の部分も使えますが、硬い部分は取り除いてください。これを細かくみじん切りにします。包丁で丁寧に刻むのが伝統的な方法ですが、フードプロセッサーを使う場合は、回しすぎてペースト状にならないよう注意が必要です。

次に、にんにくも細かくみじん切りにします。ここで一工夫。にんにくを少量のオリーブオイルで軽く加熱すると、辛味が和らぎ、香りが立ちます。ただし、生のままでも構いません。生の方がパンチが効いた味わいになります。

ボウルに刻んだハーブとにんにくを入れ、オレガノ、塩、黒胡椒を加えます。唐辛子を使う場合は、種を取り除いて細かく刻んで加えてください。

そこにオリーブオイルとビネガーを注ぎ、よく混ぜ合わせます。全体が均一になるまで、スプーンでしっかりと混ぜてください。

ここからが重要なポイント。すぐに使うこともできますが、冷蔵庫で数時間から一晩寝かせると、味が馴染んで格段に美味しくなります。ハーブとにんにくの風味がオイルに移り、全体が調和するのです。

保存は冷蔵庫で1週間程度可能です。オイルが固まることがありますが、常温に戻せば元に戻ります。使う前に軽く混ぜてから使用してください。

まとめ

チミチュリソースは、アルゼンチンが世界に誇る万能調味料です。ハーブとにんにくの香り高い風味、酸味とオイルのバランス、そして肉料理との抜群の相性。これらすべてが、このソースを特別なものにしています。

19世紀のパンパの大地で生まれ、ガウチョたちの食卓を彩ったこのソースは、今や南米全域に広がり、それぞれの国で独自の進化を遂げています。グリーンタイプ、レッドタイプ、パセリ主体、コリアンダー主体。バリエーションは豊富ですが、その根底にあるのは「シンプルな材料で最高の味を引き出す」という哲学です。

作り方も驚くほど簡単。新鮮なハーブを刻み、にんにくとオイル、ビネガーを混ぜるだけ。特別な技術は必要ありません。それでいて、肉料理の味わいを劇的に変える力を持っているのです。

ステーキやチョリパン、グリルチキン、魚のムニエル。様々な料理に添えて、南米の風を感じてみてはいかがでしょうか。一度その魅力を知れば、あなたの食卓にも欠かせない存在になるはずです。

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