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はじめに
イタリア南部の港町ナポリには、クリスマスシーズンになると食卓に必ずと言っていいほど登場する特別なサラダがあります。それが「インサラータ・ディ・リンフォルツォ(Insalata di Rinforzo)」です。直訳すると「補強のサラダ」という、一風変わった名前を持つこの料理は、茹でたカリフラワーにオリーブ、アンチョビ、ケッパーなどを加え、白ワインビネガーとオリーブオイルでマリネした伝統料理。素朴ながらも滋味深い味わいは、ナポリの人々にとって冬の風物詩となっています。
私が初めてこの料理を口にしたのは、シェフレピでの撮影で訪れた京都のイタリア料理店、Cantina Arco(カンティーナ アルコ)、清水シェフの作ったサラダ・リンフォルツォでした。実際にイタリアのマンマから教わったというレシピは、素朴ながらも、パクパクと夢中で食べ進めてしまう魅力がありました。
ナポリの食卓を支える「補強」の意味
インサラータ・ディ・リンフォルツォは、イタリア・ナポリを発祥とするマリネサラダで、「リンフォルツォ(Rinforzo)」とはイタリア語で「補強」「強化」を意味する言葉です。この料理名には様々な説があるようですが、その中でも特に面白い由来をご紹介します。
一つ目は、清水シェフに教わったのですが「リンフォルツォ(補強する)」の名の通り、ビタミンたっぷりの野菜で寒い冬を元気に乗り越えようというもの。実際にカリフラワーにはビタミンが豊富に含まれています。
二つ目は、食べた分だけ新しい材料を「補強」しながら、何日も食べ続けられるというもの。クリスマスから年明けにかけて、このサラダは大きな器に作り置きされ、毎日具材を継ぎ足していくそうです。マリネ液に漬かったカリフラワーは日を追うごとに味が馴染み、むしろ美味しくなっていく。この継ぎ足し文化こそが、「リンフォルツォ」という名前の核心なのかもしれません。
1800年代から続く冬の伝統
この料理の歴史は古く、1800年代の文献にもその記録が残されています。当時のナポリは、ブルボン家の統治下にあり、庶民の食生活は決して豊かとは言えませんでした。しかし、地中海の恵みである新鮮な野菜と、保存食であるオリーブやアンチョビを組み合わせることで、冬の長い期間を乗り切る知恵が生まれたのです。
特にカリフラワーは、冬のナポリで手に入りやすい野菜でした。白く美しい花蕾は、クリスマスの雪を思わせる清らかさがあり、祝祭の食卓にふさわしいとされました。また、酢漬けにすることで保存性が高まり、年末年始の忙しい時期に何度も調理する手間を省けるという実用的な利点もあったのです。
ナポリの家庭では、クリスマスが近づくと母親や祖母が大きなボウルいっぱいにこのサラダを仕込みます。代々受け継がれてきたレシピは、各家庭で微妙に異なり、それぞれの「我が家の味」が存在するのです。
酸味と塩気が織りなす冬の味わい
インサラータ・ディ・リンフォルツォの最大の特徴は、その爽やかな酸味と複雑な塩気のバランスにあります。主役のカリフラワーは、塩を加えた湯で茹でられ、ほどよい歯ごたえを残した状態で仕上げられます。この食感が、マリネ液を吸収しながらも野菜本来のシャキシャキ感を保つ秘訣なのです。
そこに加えられるのが、グリーンオリーブとブラックオリーブ。それぞれ異なる風味を持つオリーブが、サラダに深みを与えます。さらにアンチョビの塩気と旨味、ケッパーの独特な酸味と苦味が加わることで、単純なようで実に奥深い味わいが生まれるのです。
白ワインビネガーとオリーブオイルのマリネ液は、これらの食材を一つにまとめる接着剤のような役割を果たします。ビネガーの酸味が全体を引き締め、オリーブオイルが各素材をまとめる。この絶妙なバランスこそが、何日経っても飽きずに食べ続けられる理由なのでしょう。
冷蔵庫でよく冷やしたこのサラダを白ワインと共にいただくと、地中海の風を感じるような爽快感があります。
家庭ごとに異なる「我が家のリンフォルツォ」
ナポリの各家庭では、基本のレシピを守りながらも、独自のアレンジが加えられています。ある家庭ではピクルス(ジャルディニエーラ)をたっぷり加え、別の家庭ではローストした赤パプリカを入れることもあります。また、ゆで卵のスライスを添える家庭や、ツナやバッカラ(干し鱈)を加えてボリュームアップさせる家庭もあるのです。
この多様性こそが、インサラータ・ディ・リンフォルツォの魅力の一つ。決まったレシピに縛られることなく、各家庭の好みや手に入る食材に応じて自由にアレンジできる柔軟性が、この料理を長く愛される存在にしているのでしょう。
カリフラワーが主役の素朴な食材構成
インサラータ・ディ・リンフォルツォの基本的な材料は、驚くほどシンプルです。主役となるのは、もちろん新鮮なカリフラワー。白く締まった花蕾を持つものが理想的で、小房に分けて茹でることで、マリネ液がよく染み込むようになります。マリネしたパプリカや、キュウリも定番です。
オリーブは、グリーンとブラックの両方を使うのが伝統的。グリーンオリーブは爽やかな塩気と若々しい風味を、ブラックオリーブは熟成された深い旨味をもたらします。アンチョビは旨味と塩味の土台の役割ですね。
ケッパーは、地中海料理に欠かせない食材。その独特な酸味と花のような香りが、サラダ全体に華やかさを添えます。
調味料は、白ワインビネガー、オリーブオイル、塩、黒胡椒というシンプルなもの。しかし、この素朴な組み合わせこそが、素材の味を最大限に引き出す秘訣なのですね。高価な食材や複雑な調味料を使わずとも、選び抜かれた素材と適切な調理法があれば、心に残る一皿が生まれる。これこそがナポリ料理の真髄と言えるでしょう。
時間が味を育てる伝統的な調理法
インサラータ・ディ・リンフォルツォの調理法は、その名前が示す通り「補強」の精神に基づいています。まず、カリフラワーを小房に分け、塩を加えた湯で茹でます。まだ歯ごたえが残る程度が理想的です。茹ですぎると、マリネ液を吸収したときに崩れてしまうため、この加減が重要なのです。
茹で上がったカリフラワーはザルに上げて水気を切り、ボウルに移して白ワインビネガーを回しかけます。温かいうちに行うことで、ビネガーがよく馴染みます。しっかりと冷めたら、オリーブ、ケッパー、アンチョビ、ピクルスを加えます。オリーブオイルを回しかけ、塩と黒胡椒で味を調えます。
全体をよく混ぜ合わせたら、冷蔵庫で少なくとも数時間、できれば一晩寝かせます。この時間が、各食材の味を一つにまとめ、調和させる大切なプロセス。翌日、さらに翌々日と、日を追うごとに味が馴染み、深みが増していくのです。
そして、食べた分だけ新しいカリフラワーやオリーブを「補強」していく。この継ぎ足しの文化が、料理名の由来であり、ナポリの家庭で代々受け継がれてきた知恵なのです。大きな器に作り置きされたサラダは、クリスマスから年明けまで、家族が集まるたびに食卓に登場し、会話の中心となります。
まとめ
インサラータ・ディ・リンフォルツォは、ナポリのクリスマスから年始にかけて欠かせない伝統料理です。「補強」という独特な名前には、栄養を補強する役割と、食べた分を継ぎ足しながら長く楽しむという二つの意味が込められています。1800年代の文献にも記録が残るこの料理は、カリフラワーを主役に、オリーブ、アンチョビ、ケッパー、ピクルスなどを白ワインビネガーとオリーブオイルでマリネした、シンプルながら奥深い味わいのサラダです。
時間をかけて味を馴染ませ、日ごとに新しい食材を加えていく調理法は、ナポリの人々の暮らしの知恵そのもの。家庭ごとに異なるレシピは、それぞれの家族の歴史と伝統を物語っています。冬の地中海の恵みを凝縮したこの一皿は、遠く離れた日本の食卓でも、ナポリの温かな家族の風景を思い起こさせてくれることでしょう。
さいごに
シェフレピでは、京都のイタリア料理店、Cantina Arco(カンティーナ アルコ)の清水シェフによる、「カリフラワーとアンチョビのサラダ・リンフォルツォ」のレッスンを公開しております!
クリスマスの時期にはお店でも実際に提供されているというこの料理を、ご自宅でも再現することができます。
ぜひこの機会にチェックしてみてください!
カリフラワーとアンチョビのサラダ・リンフォルツォ/Cantina Arco 清水美絵
京都の南イタリア料理店「カンティーナ・アルコ」の清水シェフから教わる、『サラダ・リンフォルツォ』。毎年イタリアを訪れ、現地の郷土料理を学び続ける清水シェフが、イタリアのマンマから代々受け継がれてきたレシピを教わったときの感動をそのままに、お店でも実際に提供している人気の一皿をご家庭で再現できるレッスンです。 今回学ぶ『サラダ・リンフォルツォ』は、ナポリのクリスマスに欠かせない伝統料理。「リンフォルツォ(補強する)」の名の通り、ビタミンたっぷりの野菜で寒い冬を元気に乗り越えようという、マンマの愛情が詰まったサラダです。カンティーナ・アルコでも特に女性に大人気の一品。 カリフラワーは芯に少し硬さが残る程度に茹で、温かいうちに白ワインビネガーで下味をつけることで、しっかりと味が馴染みます。パプリカはオーブンでローストし、皮をむいてマリネに。そのまま食べてもおいしく、おつまみにもぴったり。アンチョビの旨味、オリーブやケッパーの塩気、パプリカの甘みが一体となった華やかな一皿の完成です。