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ぜんざいとは?出雲発祥の甘味の歴史と地域による違いを解説

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はじめに

冬の寒い日に、ほっこりと温まる一杯のぜんざい。砂糖でじっくり煮込んだ小豆の甘さと、柔らかな餅の食感が絶妙に調和した、日本の伝統的な甘味です。鏡開きの日に家族で囲んだり、甘味処で一息ついたりと、日本人の暮らしに深く根付いています。

この記事では、ぜんざいの起源や歴史、地域による呼び方や定義の違い、そして特徴的な材料や味わいについて詳しく解説します。実は「ぜんざい」と「おしるこ」の違いは地域によって異なり、沖縄では全く別の姿で親しまれているのをご存知でしょうか?

私も初めて出雲地方の由来を知ったとき、神事と結びついた深い歴史に驚きを隠せませんでした。単なる甘味ではなく、日本の文化や信仰と密接に関わる食べ物だったのです。

出雲の神事から生まれた甘味

ぜんざいは、島根県の出雲地方を発祥とする和菓子です。小豆を砂糖で甘く煮込み、餅や白玉団子、栗の甘露煮などと共に供される温かい甘味として知られています。一般的には小豆の粒が残った状態で提供されるのが特徴で、その素朴な見た目と優しい甘さが多くの人々に愛されてきました。

温かくして食べるのが一般的ですが、季節や地域によっては冷やして楽しむこともあります。家庭で作られることも多く、それぞれの家庭で砂糖の量や小豆の煮加減が異なるため、独自の味わいを楽しめるのも魅力の一つです。

和食の甘味として位置づけられるぜんざいは、特に冬の季節に親しまれ、正月の鏡開きの際には寺院や家庭で振る舞われる風習が今も残っています。

「神在餅」が訛って「ぜんざい」に

ぜんざいの語源には主に二つの説があります。

一つ目は、仏教用語の「善哉(ぜんざい・よきかな)」に由来するという説です。一休宗純がこの食べ物を初めて口にした際、その美味しさに「善哉」と叫んだことから名付けられたとされています。「善哉」とは仏が弟子を褒める際に使う言葉で、サンスクリット語の「sadhu(素晴らしい)」の漢訳です。

もう一つは、出雲地方の神事に起源を求める説です。出雲地方では旧暦の10月、全国の神々が集まる「神在祭(かみありさい)」が執り行われます。この神事で振る舞われた「神在餅(じんざいもち)」の「じんざい」が訛り、「ぜんざい」へと変化したと考えられています。

島根県松江市鹿島町の佐太神社は「ぜんざい発祥の地」として知られ、松江藩の地誌『雲陽誌』にも「神在餅」についての記述が残されています。実際、出雲地方では正月に小豆汁の雑煮を食べる習慣があるなど、小豆との結びつきが強い地域です。

神前に供えた餅自体が「善哉」であり、この餅を食べるための小豆料理も「善哉」と呼ぶようになったという説もあります。いずれにせよ、神事と深く結びついた食べ物であることは間違いないでしょう。

ツヤのある小豆と餅のコントラスト

ぜんざいの最大の特徴は、砂糖でじっくり煮込んだ小豆の粒が残っていることです。漉し餡ではなく粒餡の状態で提供されるため、小豆本来の食感と風味を楽しめます。砂糖で煮た小豆にはツヤがあり、白い餅や黄色い栗の甘露煮とのコントラストが美しく、見た目にも食欲をそそります。

温かい汁気のある状態で供されることが多く、冬の寒い日に体を温める効果があります。甘さは砂糖の量で調整でき、家庭によって甘さの度合いが異なるのも特徴的です。

餅は焼いてから入れることもあれば、そのまま煮込むこともあります。焼いた餅は香ばしさが加わり、煮込んだ餅は柔らかくとろけるような食感になります。白玉団子を使う場合は、もちもちとした弾力が楽しめます。

栗の甘露煮を添えると、小豆の甘さとは異なる上品な甘みが加わり、より豪華な印象になります。シンプルながらも奥深い味わいが、ぜんざいの魅力と言えるでしょう。

関東と関西、沖縄で全く違う「ぜんざい」

ぜんざいは地域によって定義や呼び方が大きく異なります。この違いを知ると、日本の食文化の多様性が見えてきて興味深いですね。

関西地方では、粒餡を用いた温かい汁物を「ぜんざい」と呼び、漉し餡を用いた汁物は「汁粉(おしるこ)」と呼び分けます。つまり、粒があるかないかで区別しているわけです。汁気のない餡を用いたものは「亀山」や「小倉」と呼ばれています。

関東地方では、この区別が逆転します。関東では汁気のない餡そのものを「ぜんざい」と呼び、汁気のあるものは粒餡でも漉し餡でも「おしるこ」と呼ぶことが多いのです。これは西日本から東日本へと伝播する過程で、ぜんざいと汁粉の区別が正しく伝わらなかったためと言われています。

九州地方では基本的に関西と同様で、漉し餡を使った汁気のあるものを「おしるこ」、粒餡で汁気のあるものを「ぜんざい」と呼びます。ただし一部地域では、餅入りを「おしるこ」、白玉団子入りを「ぜんざい」と区別する場合もあり、その逆のケースもあるようです。

沖縄県の「ぜんざい」は、本土とは全く異なる姿をしています。砂糖や黒糖で甘く煮た金時豆にかき氷をかけた冷たいデザートで、夏の風物詩として親しまれています。白玉が入ることもあります。その起源については、緑豆と大麦を甘く煮て冷やした「あまがし」という食べ物が原型であるという説や、戦前の小豆のぜんざいがルーツであるという説など、複数の見解が存在します。戦後は金時豆で作られるようになり、冷蔵庫の普及と共にかき氷をのせるスタイルが定着しました。宮古島には「宮古あずき」と呼ばれる黒ささげを使った「宮古ぜんざい」もあります。

他にも、高知県の香長平野では水煮した鯛を丸ごと入れる「鯛ぜんざい」、抹茶の汁に小豆餡と白玉を加える「抹茶ぜんざい」など、地域独自のバリエーションが存在します。

小豆・砂糖・餅が織りなす優しい甘さ

ぜんざいの基本的な材料は、小豆、砂糖、そして餅または白玉団子です。シンプルな材料構成ですが、それぞれの素材の質と調理法が味を大きく左右します。

小豆は、乾燥小豆を一晩水に浸してから煮る方法が伝統的です。じっくりと時間をかけて煮ることで、小豆が柔らかくなり、甘みが引き出されます。缶詰の茹で小豆や粒餡を使えば、調理時間を大幅に短縮できるため、家庭では手軽な方法として人気があります。

砂糖は、上白糖やグラニュー糖が一般的ですが、黒糖を使うとコクのある深い甘さになります。砂糖の量は好みに応じて調整でき、甘さ控えめにすることで小豆本来の風味を楽しむこともできます。

は、角餅や丸餅を焼いてから入れるのが一般的です。焼くことで香ばしさが加わり、食感にもメリハリが生まれます。焼かずにそのまま煮込むと、餅が柔らかくとろけるような食感になります。白玉団子を使う場合は、もちもちとした弾力が特徴で、餅とは異なる食感を楽しめます。

栗の甘露煮を添えると、見た目が華やかになり、小豆とは異なる上品な甘みが加わります。栗の黄色と小豆の赤褐色、餅の白のコントラストが美しく、視覚的にも楽しめる一品になります。

これらの材料が織りなす優しい甘さと、温かさが心と体を癒してくれるのです。

小豆をじっくり煮込む伝統の技

伝統的なぜんざいの調理法は、乾燥小豆を一晩水に浸すところから始まります。水に浸すことで小豆が柔らかくなりやすくなり、煮る時間も短縮できます。

翌日、小豆を鍋に入れ、たっぷりの水で煮始めます。最初は強火で沸騰させ、アクが出てきたら丁寧に取り除きます。アクを取ることで、雑味のない澄んだ味わいになります。その後、弱火にしてじっくりと煮込みます。小豆が指で簡単につぶれるくらい柔らかくなるまで、1時間から1時間半ほど煮続けます。

小豆が十分に柔らかくなったら、砂糖を加えます。砂糖は一度に全量を入れるのではなく、数回に分けて加えるのがコツです。こうすることで、小豆が砂糖の浸透圧で硬くなるのを防ぎ、ふっくらとした仕上がりになります。砂糖を加えた後は、さらに10〜15分ほど煮て、味を馴染ませます。

餅は別に焼いておきます。オーブントースターや網で焼くと、表面がカリッと香ばしく、中はもちもちとした食感になります。焼いた餅を器に入れ、温かいぜんざいを注ぎます。

白玉団子を使う場合は、白玉粉に水を加えて耳たぶくらいの柔らかさに練り、丸めて沸騰したお湯で茹でます。浮き上がってきたら冷水に取り、水気を切ってからぜんざいに加えます。

栗の甘露煮を添える場合は、最後にトッピングとしてのせます。

現代では、圧力鍋を使えば小豆を短時間で柔らかく煮ることができ、炊飯器でも調理可能です。缶詰の茹で小豆や粒餡を使えば、さらに手軽に作れます。しかし、乾燥小豆からじっくり煮込む伝統的な方法は、小豆本来の風味と食感を最大限に引き出す技と言えるでしょう。

まとめ

ぜんざいは、出雲地方の神在祭に起源を持つ、日本の伝統的な甘味です。「神在餅」が訛って「ぜんざい」になったという説や、一休宗純が「善哉」と叫んだという説など、語源にも興味深い物語があります。

小豆を砂糖でじっくり煮込み、餅や白玉団子と共に供されるこの料理は、シンプルながらも奥深い味わいを持っています。砂糖で煮た小豆のツヤと、白い餅や黄色い栗とのコントラストは、視覚的にも美しく食欲をそそります。

地域によって定義が大きく異なるのも、ぜんざいの面白い点です。関西では粒餡の汁物を「ぜんざい」と呼び、関東では汁気のない餡を「ぜんざい」と呼びます。沖縄では冷たいかき氷スタイルで、夏の風物詩として親しまれており、その起源についても複数の説が語り継がれています。

伝統的な調理法では、乾燥小豆を一晩水に浸し、じっくりと煮込んで柔らかくし、砂糖を数回に分けて加えることで、ふっくらとした仕上がりになります。現代では圧力鍋や缶詰を使った手軽な方法もありますが、伝統的な方法は小豆本来の風味を最大限に引き出します。

冬の寒い日に体を温め、正月の鏡開きには家族で囲む。ぜんざいは単なる甘味ではなく、日本の文化や信仰、そして人々の暮らしと深く結びついた食べ物なのです。あなたも次の冬には、ぜんざいの温かさと優しい甘さを味わってみてはいかがでしょうか?

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