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アカモクとは?万葉時代から続く海藻の魅力と食べ方

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はじめに

アカモクという海藻をご存知ですか?スーパーや飲食店で見かける機会が増え、気になっていた方も多いのではないでしょうか。近年では花粉症の症状を緩和することでも話題になっていますね。実はこの海藻、日本では古くから親しまれてきた伝統食材なのです。東北地方では「ギバサ」や「ギンバソウ」、新潟県では「ナガモ」と呼ばれ、地域によって異なる名前で愛され続けてきました。
独特のネバネバとした食感と、くせのないさっぱりとした味わいが特徴のアカモク。めかぶよりもあっさりとしていながら、シャキシャキとした歯ごたえも楽しめる、魅力的な海藻です。
初めてアカモクを食べたとき、その粘りの強さに驚いたのを覚えています。めかぶとはまた違う、海の香りと共に広がる繊細な旨味。一口食べただけで、なぜこれほど長い間愛され続けてきたのか、その理由が何となく理解できました。

日本書紀と万葉集に刻まれた海藻の記憶

アカモクの歴史は、想像以上に古く深いものです。日本書紀や万葉集には「なのりそ」という言葉が登場しますが、これこそがアカモクやホンダワラ類を指す古語だと考えられています。
「なのりそ」は「告げないでください」という意味を持ちます。日本書紀には、天皇が詠んだ歌を他人に聞かせてはいけないと戒めた場面があり、そこで「浜藻」のことを「なのりそ藻」と呼ぶようになったという由来が記されています。万葉集でも、「言ってはいけない」という意味と「海藻」という意味を掛けた掛詞として使われています。
さらに遡れば、島根県出雲地方の猪目洞窟から、縄文・弥生時代の遺物と共にホンダワラ類の海藻が発見されています。つまり、日本人は先史時代からアカモクを食べていた可能性があるのです。
飛鳥時代の大宝律令(701年)では、租税として徴収する海産物29種類のうち、海藻が8種類を占めていました。海藻がいかに日本人の生活に深く根付いていたかが分かりますね。

漁師を悩ませる「邪魔モク」から食卓の主役へ

アカモクは生命力が非常に強く、冬から春にかけて急速に成長します。12月には数センチメートル程度でも、1月以降に急速に伸長し、2〜3月には10メートル近くにまで達することもあります。
この成長の速さが、時に漁業者を悩ませてきました。春先に海面を覆い、船の運行を妨げたり、漁網や養殖施設に絡みついたりするため、「邪魔モク」や「ダメモク」と揶揄され、厄介者扱いされることもありました。
しかし、日本海沿岸や東北地方では、古くから「神馬草(ギバサ、ギンバソウ)」として食用に利用されてきました。冬の厳しい環境では、ワカメや昆布が育ちにくいため、アカモクは貴重な海藻だったのです。
近年では、その栄養価が見直され、三陸地方では東日本大震災からの漁村復興にも一役買っています。かつて「邪魔モク」と呼ばれた海藻が、今では地域の宝として輝いている。歴史の皮肉というか、むしろ人々の知恵の積み重ねが実を結んだと言えるかもしれません。

ネバネバとシャキシャキ、二つの食感が織りなすハーモニー

アカモク最大の特徴は、なんといってもその食感です。刻んで熱を加えると、非常に強い粘りを生じます。この粘りの主成分はフコイダンという多糖類です。フコイダンはアレルギー症状を和らげると考えられており、マウスでの実験によると花粉症の症状が1/3に減少するというデータもあるようです。
三陸アカモクの場合、海藻特有のくさみが少なく、めかぶよりもさっぱりとした塩味と旨味が特徴です。ネバネバとした粘りの中に、シャキシャキとした歯ごたえもあり、この二つの食感が同時に楽しめるのが魅力です。
3月頃から繁殖のための生殖器官が発達し、この時期に刻むと特に強い粘りが見られます。アカモクの旬は3月頃から5月頃(岩手県沿岸の場合)で、この時期のものが最も美味とされています。
味や風味は控えめで、どのような料理にも合わせやすいのも特徴です。特に麺類との相性は良好で、うどんやそうめんに添えると、のど越しと食感の両方を楽しむことができます。

地域ごとに息づく、アカモクの多様な顔

アカモクは地域によって異なる名前で呼ばれ、それぞれ独自の食文化を育んできました。
秋田県では成熟期のものを収穫して湯に通し、包丁で細かく刻んで強い粘りを出す加工方法が受け継がれています。この加工方法は、県北部の八峰町が発祥地とも考えられており、文化庁の食文化「知の活用」振興事例にも認定されました。
山形県では「ギンバソウ」、新潟県では「ナガモ」と呼ばれ、それぞれの地域で好まれる調理法があります。新潟県では、ゆでて味つけしたものをおかずや酒の肴として楽しんでいます。
日本海に面する地域では、冬の貴重な海藻として大切にされてきました。かつては「ダメモク」と揶揄された地域でも、今では神事に使われることもあります。一つの海藻が、これほど多様な顔を持つとは驚きです。
また、アカモクを干して束ねたものを、稲の束である「穂俵(ホダワラ)」に見立てるようになり、そこから「ホンダワラ」という名前がついたとも言われています。縁起物としても用いられてきたのですね。

茹でて刻む、シンプルな下ごしらえ

アカモクの調理法は、実にシンプルです。基本的には「茹でて刻む」だけで、とても簡単に下ごしらえができます。
まず、アカモクをよく水洗いし、真ん中にある固く長い茎を取り除きます。茎の上部から下に向かって指でしごくようにすると、節から葉を含む小さな茎が取れます。この部分が可食部です。
取り出した可食部を再度水洗いし、たっぷりの熱湯で数秒から数十秒ゆがきます。ざるにあけて水道水をかけ流して冷やすと、多量のねばねばが出てきます。これで下ごしらえは完了です。
すでに下処理された市販品も販売されているので、手軽に楽しみたい方はそちらを利用するのも良いでしょう。

酢味噌や麺類との相性は抜群

下ごしらえしたアカモクは、様々な料理に活用できます。
最も一般的なのは、お吸い物にそのまま入れたり、酢味噌や酢醤油で味付けして食べる方法です。ネバネバとした食感と、さっぱりとした味付けがよく合います。
麺類との相性も抜群です。うどんやそうめんに添えると、ツルリとのど越しとシャキシャキとした食感の対比が楽しめます。最近では、アカモクの粉を練り込んだ蕎麦やパスタ、うどんも開発されています。
天ぷらにするのもおすすめです。ネバネバとした食感が、サクサクの衣と対比的で、新たな美味しさを発見できるでしょう。
ご飯に混ぜて混ぜご飯にしたり、サラダのトッピングにしたりと、アイデア次第で様々な楽しみ方ができます。くせが少ないため、和食だけでなく、洋食や中華にも意外と合うのです。

まとめ

アカモクは、日本書紀や万葉集に登場する「なのりそ」として、日本人に古くから愛されてきた海藻です。縄文時代から食用とされてきた可能性もあり、日本人と海藻の深い関係を物語っています。
かつては「邪魔モク」と呼ばれ、漁業者を悩ませる存在だったアカモク。しかし、東北地方や日本海沿岸では「ギバサ」「ナガモ」などの名前で、冬の貴重な海藻として大切にされてきました。今では、その栄養価と食感が見直され、全国各地で親しまれる食材となっています。
近年では、フコイダンという成分が花粉症の症状を緩和することでも注目の食材です。
ネバネバとシャキシャキという二つの食感、くせのないさっぱりとした味わい、そしてどんな料理にも合わせやすい万能性。アカモクには、現代の食卓に新たな風を吹き込む魅力が詰まっています。まだ食べたことがない方は、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。きっと、その食感の奥深さに引き込まれるはずです。

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