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あけびとは?秋の山の恵みと食文化を解説

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はじめに

秋の山を歩いていると、紫色の果実がパックリと口を開けて、白い果肉を覗かせている光景に出会うことがあります。それが「あけび」です。都会のスーパーではあまり見かけないため、高級食材のようなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、日本の山野に広く自生する身近な秋の味覚なのです。

果肉はゼリー状で甘く、黒い種がぎっしりと詰まった独特の姿。果皮は炒め物や揚げ物に、新芽は山菜として、蔓はかご細工にと、あけびは日本人の暮らしに様々な形で寄り添ってきました。本記事では、あけびの起源や特徴、食文化における役割について詳しくご紹介します。

秋の山が育む紫色の宝石

あけびは、アケビ科アケビ属に属するつる性の落葉低木です。東アジア原産で、日本では本州(青森県以南)、四国、九州に広く分布し、朝鮮半島や中国にも自生しています。平地から山地まで、日当たりのよい山野、河畔、道端、雑木林などで樹木に巻き付いて成長します。

果実は長楕円形で、長さは約10cm程度。熟す前は緑色ですが、秋の9月から10月にかけて旬を迎えると、淡灰紫色や薄紫、ピンク、黄褐色など、種類や系統によって多彩な色に変化します。そして最大の特徴は、熟すと果皮が縦に割れて、中の乳白色半透明の果肉と黒い種子を露出させること。この様子から「開け実(あけみ)」と名付けられたと言われています。

漢字では「木通(もくつう)」または「通草」と書きます。これはあけびの蔓に空洞があり、空気が通ることに由来するそうです。地方によってはアケビカズラ、アケビヅル、アクビ、キノメ、ヤマヒメ、サンジョなど、様々な方言名で呼ばれてきました。

日本には主に3種類のあけびが存在します。小葉が5枚の「アケビ」、小葉が3枚で幅が広い「ミツバアケビ」、そしてその両者の自然交配種である「ゴヨウアケビ」です。商業栽培では、品質に優れたミツバアケビ由来の品種が多く用いられています。

日本の食文化に根付いた歴史

あけびは日本に古来から自生しており、長い歴史の中で日本人の暮らしと深く結びついてきました。江戸時代には、あけびの種から油を採取していたという記録も残っています。果実だけでなく、春には新芽を山菜として、秋には果実や皮を食用に、そして蔓は編んでかごや魚籠などの細工物に利用するなど、あけびは捨てるところのない貴重な資源でした。

興味深いのは、これほど身近な植物でありながら、商業的に栽培されるようになったのは比較的最近のことだという点です。わざわざ買わなくても、秋になれば山に入れば普通に果実が生っているほど身近だったため、栽培の必要性が低かったのでしょう。

商業栽培が本格化したのは約30年ほど前。天童市の団体が山から採取した良質のあけびを関東方面に出荷し、高く評価されたことがきっかけでした。以降、山形県の村山地域や置賜地域が主産地となり、現在では全国生産量の約8割から9割を山形県産が占めています。特に白鷹町のあけびは有名です。

見た目も味も個性的な果実

あけびの最大の特徴は、その独特な外観と食感にあります。果実は卵のような形をしており、熟すと果皮が縦に割れて、まるで笑っているかのように口を開けます。中から現れるのは、乳白色のゼリー状の果肉。その中に黒い小さな種がぎっしりと詰まっており、果肉の白さが際立ちます。

果肉は甘味があり、そのまま口に含んで食べます。種は口に残るので出すのが一般的ですが、柔らかいため一緒に食べることも可能です。食感はプチプチとしており、独特の食体験を提供してくれます。甘さは控えめで上品。派手さはありませんが、秋の山の恵みを感じさせる素朴な味わいです。

果皮も食用になります。少し苦味がありますが、炒め物や揚げ物、肉詰めなどにすると、その苦味がアクセントとなり、大人の味わいを楽しめます。特に味噌炒めや天ぷらは、あけびの皮を使った代表的な料理として知られています。

春には新芽も山菜として利用されます。新潟県ではキノメ、コノメ、山形県ではモエ、モイ、ヤマヒメなどと呼ばれ、地域によって様々な名前で親しまれてきました。

あけびは見た目のインパクトが強いため、初めて見る方は「これ、本当に食べられるの?」と驚かれることも多いでしょう。でも、一度味わえば、その素朴な甘さと独特の食感の虜になるはずです。

種類によって異なる個性

日本に自生するあけびには、主に3つの種類があり、それぞれに特徴があります。

アケビは、小葉が5枚集まった掌状複葉を持ち、葉縁には鋸歯がなく全縁です。花は淡紫色で、雌花と雄花が同じ株につきます。果実は熟すと淡灰紫色や黄褐色に色づき、縦に裂開します。

ミツバアケビは、小葉が3枚でアケビより幅が広く、縁には大きな波状の鋸歯があります。雄花雌花ともに濃紫色であることで見分けられます。果実はアケビより大きく、着色も良いとされ、商業栽培ではミツバアケビ由来の品種が多く用いられています。北海道・東北地域にはアケビよりもミツバアケビが多く、蔓も太いのが特徴です。

ゴヨウアケビは、アケビとミツバアケビの自然交配種です。小葉は5枚ですが、ミツバアケビのように幅が広く、縁に大きな波状の鋸歯を持つなど、両種の特徴を受け継いでいます。雑種のため、果実ができにくく、できないものもあります。

これらの種類は往々にして混じって生育しており、区別せずに果実や新芽が食用として利用されることが多いようです。また、アケビ科には常緑のムベ(トキワアケビ)もあり、こちらは果実が熟しても裂開しないことでアケビと区別できます。

3葉種と5葉種では熟期が2〜4週間程度異なるため、栽培する際には注意が必要です。商業栽培では、安定した結実のために人工授粉を行うこともあります。あけびには自家不和合性があるため、他品種との混植が必要なのです。

果肉、皮、新芽まで楽しむ

あけびの魅力は、部位によって異なる味わいを楽しめることにあります。それぞれの部位には、独自の食べ方と調理法があるのです。

果肉は、そのまま生で食べるのが最も一般的です。果皮が割れたら、中の乳白色のゼリー状の果肉をスプーンですくって口に含みます。甘味があり、黒い種のプチプチとした食感が楽しめます。種は柔らかいので一緒に食べることもできますが、口に残った種を出すのが一般的な食べ方です。

果皮は、少し苦味がありますが、調理することで美味しくいただけます。代表的な料理は、果皮に肉や野菜を詰めて焼いたり蒸したりする「あけびの肉詰め」。他にも、細切りにして味噌炒めにしたり、天ぷらにしたりと、様々な調理法があります。苦味が気になる場合は、下茹でしてから調理すると和らぎます。

新芽は、春の山菜として珍重されます。天ぷらやおひたし、炒め物などにして食べられます。ほろ苦さと独特の風味があり、春の味覚として楽しまれています。

あけびは、蔓も利用価値があります。成熟した蔓は丈夫で柔軟性があり、かごや魚籠などの工芸品の素材として古くから利用されてきました。「あけび細工」として、今でも伝統工芸品として作られています。

また、あけびには薬草としての効能もあると言われています。蔓、葉、根、果実には様々な薬効があるとされ、民間療法で利用されてきた歴史があります。

このように、あけびは捨てるところがほとんどない、まさに山の恵みと言える植物なのです。

まとめ

あけびは、日本の山野に古来から自生し、日本人の暮らしと深く結びついてきた秋の味覚です。「開け実」の名の通り、熟すと果皮が割れて白い果肉を覗かせる独特の姿は、秋の風物詩として親しまれてきました。

果肉の優しい甘さ、果皮の大人の苦味、新芽の春の香り。部位によって異なる味わいを楽しめるあけびは、まさに捨てるところのない山の恵みです。商業栽培が始まったのは比較的最近ですが、山形県を中心に全国に出荷され、日本料理店などでも秋の一品として提供されるようになりました。

都会では馴染みが薄くなってしまったあけびですが、その素朴な味わいと独特の食感は、一度味わえば忘れられないものです。秋の味覚として、あるいは日本の食文化を知る食材として、あけびの魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。山に入れば今でも野生のあけびに出会えるかもしれません。そんな身近さも、あけびの魅力の一つなのです。

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