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はじめに
網脂(あみあぶら)という食材をご存知でしょうか?フランス語で「クレピーヌ(crépine)」と呼ばれるこの食材は、牛や豚、羊などの内臓を包む薄い膜状の脂肪です。レースのように美しい網目模様を持つことから、英語では「lace fat(レース脂肪)」とも称されます。
一般家庭ではあまり馴染みがないかもしれませんが、プロの料理人には、肉料理の仕上がりを劇的に向上させる「秘密兵器」として重宝されています。パテやソーセージ、ハンバーグなど、さまざまな料理で活躍するこの食材について、詳しく見ていきましょう。
網状の脂肪が持つ独特の構造
網脂は、動物の内臓、特に胃や腸などの消化器官を覆う薄い膜です。医学的には「大網(たいもう)」と呼ばれる組織で、内臓を保護し、脂肪を蓄える役割を果たしています。この膜には結合組織に脂肪が網目状に沈着しており、その見た目から「網脂」という名前が付けられました。
厚さはわずか数ミリ程度で、透明感のある白色をしています。触れると柔らかく、伸縮性があり、破れやすいため取り扱いには注意が必要です。脂肪含有量は約90%と非常に高く、加熱すると溶け出して料理に豊かな風味を与えます。
牛、豚、羊のいずれの網脂も料理に使用されますが、それぞれ風味や脂肪の質に微妙な違いがあります。豚の網脂は比較的入手しやすく、クセが少ないため、初めて使う方にもおすすめです。羊の網脂は独特の風味があり、ラム料理との相性が抜群ですね。
世界各地で受け継がれる調理技法
網脂の使用は、古くから世界各地の料理文化に根付いています。特にヨーロッパでは、中世の時代から肉料理の調理技法として確立されてきました。
フランス料理では「クレピネット」という、網脂で包んだ肉料理が伝統的に作られています。ボルドー地方では、トリュフを加えた豚肉のクレピネットを牡蠣と一緒に供する習慣があり、一見意外な組み合わせながら、その調和の取れた味わいは多くの美食家を魅了してきました。
キプロスにはソーセージの「シェフタリア」、イタリアでは豚レバーを網脂で包んだ「フェガテッリ」が、イギリスでは「ファゴット」と呼ばれる肉団子料理に網脂が使われます。各地域で網脂を使った独自の料理が発展しているんですね。
料理を格上げする三つの効果
網脂が料理に与える効果は、単なる脂肪の追加以上のものがあります。まず第一に、保湿効果です。脂肪分の少ない赤身肉やジビエ、レバーなどを調理する際、網脂で包むことで、加熱中に肉が乾燥するのを防ぎます。網脂が溶け出しながら肉の表面を覆い、継続的に「バスティング(油を塗る作業)」を行っているような状態になるのです。
第二に、風味の向上です。脂肪は風味の運び手であり、「脂肪=風味」という料理の基本原則を体現しています。網脂が溶けることで、肉本来の旨味に加えて、脂肪特有のコクと香ばしさが加わります。
第三に、形状の保持です。網脂は天然のケーシング(包材)として機能し、ひき肉や細かく刻んだ具材を包んで形を整えることができます。ソーセージやパテ、ハンバーグなど、成形が必要な料理において、網脂は調理中の型崩れを防ぎ、美しい仕上がりを実現します。
これら三つの効果が組み合わさることで、網脂を使った料理は、ジューシーで風味豊か、そして見た目にも美しい一品に仕上がるのです。
各国料理に見る多彩な使い方
網脂の活用法は、地域や料理の種類によって実に多様です。
フランス料理では、前述のクレピネットのほか、パテ・ド・カンパーニュ(田舎風パテ)の表面を網脂で覆う技法が一般的です。これにより、パテの表面が乾燥せず、しっとりとした食感が保たれます。また、ローストする際に脂肪の少ない肉を網脂で包むことで、高級レストランのような仕上がりを家庭でも再現できます。
中華料理では、網脂を使った揚げ物が特徴的です。具材を網脂で包んでから揚げることで、外はカリッと、中はジューシーな食感のコントラストが生まれます。網脂が溶けて具材に染み込むことで、独特の香ばしさと旨味が加わるのです。
ジビエ料理においても、網脂は欠かせません。鹿肉や猪肉など、脂肪分が少なく加熱すると硬くなりがちなジビエを、網脂で包んでローストすることで、驚くほど柔らかくジューシーに仕上がります。
家庭料理では、ハンバーグに網脂を使う方法が人気を集めています。通常のハンバーグを網脂で包んで焼くだけで、レストランのような本格的な味わいになります。網脂が溶けて肉汁を閉じ込め、表面はカリッと香ばしく、中はふっくらジューシーに。一度試したら、もう普通のハンバーグには戻れないかもしれませんね。
下処理から調理までの実践ガイド
網脂を使う際には、適切な下処理が重要です。市販されている網脂の多くは塩漬けされているため、使用前に必ず塩抜きを行う必要があります。
下処理の手順は以下の通りです。まず、網脂を冷水に浸し、30分から1時間ほど置いて塩を抜きます。水を2〜3回替えながら、塩気が抜けるまで繰り返してください。塩抜きが終わったら、キッチンペーパーで優しく水気を拭き取ります。この時、網脂は非常に破れやすいので、丁寧に扱いましょう。
包み方のコツですが、網脂を広げて、その上に具材を置きます。網脂は伸縮性があるので、具材の形に合わせて優しく包み込んでください。重なり合う部分は、加熱すると自然に接着するため、特別な処理は不要です。ただし、あまり厚く重ねすぎると脂っこくなるので、一重から二重程度が適切です。
調理方法は料理によって異なりますが、基本的には中火から強火で加熱します。網脂は加熱すると溶け出すため、最初は中火でじっくりと焼き、表面がカリッとしてきたら火を強めて仕上げるとよいでしょう。オーブンでローストする場合は、180〜200度で焼き上げます。
網脂から出る脂は、料理の旨味成分が溶け込んだ貴重なソースの素になります。捨てずに、ソース作りに活用するのもおすすめです。
入手方法と保存のポイント
網脂は一般的なスーパーマーケットではあまり見かけない食材ですが、入手方法はいくつかあります。
精肉店での注文が最も確実な方法です。特に、内臓肉を扱っている精肉店や、業務用食材を扱う店舗では、事前に注文すれば取り寄せてもらえることが多いです。「網脂が欲しい」と伝えれば用意してくれますね。
業務スーパーやハナマサなどの業務用食材店でも、取り扱いがある場合があります。冷凍コーナーをチェックしてみてください。
オンラインショップも便利な選択肢です。専門の食肉通販サイトでは、冷凍の網脂を購入できます。まとめ買いすれば、必要な時にいつでも使えて便利ですね。
保存方法ですが、生の網脂は傷みやすいため、すぐに使わない場合は冷凍保存が基本です。使いやすい大きさに切り分けてラップで包み、冷凍用保存袋に入れて冷凍庫へ。冷凍状態であれば、半年ほどは保存可能です。使用する際は、冷蔵庫でゆっくり解凍するか、冷水に浸けて解凍してください。
塩漬けの網脂は、塩が防腐剤の役割を果たすため、冷蔵庫で数週間保存できます。ただし、塩抜き後は日持ちしないので、その日のうちに使い切るか、冷凍保存してください。
まとめ
網脂は、牛や豚、羊の内臓を包む網状の脂肪で、フランス語では「クレピーヌ」と呼ばれる特別な食材です。その最大の魅力は、肉料理をジューシーに仕上げ、豊かな風味を加え、美しい形を保つという三つの効果にあります。
世界各地の料理文化において、網脂は古くから重要な役割を果たしてきました。フランスのクレピネット、中国の網油巻など、地域ごとに独自の調理法が発展し、今日まで受け継がれています。
家庭で使う際には、塩抜きなどの下処理が必要ですが、その手間を補って余りある美味しさが得られます。ハンバーグやパテ、ローストなど、さまざまな料理に応用できる汎用性の高さも魅力です。
入手には少し工夫が必要ですが、精肉店での注文や業務用食材店、オンラインショップなどを活用すれば、決して手に入らない食材ではありません。冷凍保存も可能なので、一度購入すれば、いつでも本格的な肉料理に挑戦できます。
網脂を使った料理は、プロの技術を家庭に持ち込む素晴らしい方法です。この繊細で美しい食材を通じて、料理の新たな可能性を発見してみてはいかがでしょうか。きっと、あなたの料理のレパートリーを豊かにしてくれるはずです。