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はじめに
正月のおせち料理を開けたとき、黒豆の脇にちょこんと添えられた真っ赤な巻貝のような食べ物を見たことはありませんか?それがチョロギです。「丁呂木」「長老木」「千代老木」など、さまざまな漢字が当てられるこの不思議な食材は、中国原産のシソ科植物の塊茎で、江戸時代から日本で親しまれてきました。
独特の形状と鮮やかな赤色が印象的なチョロギですが、その正体や味わい、なぜおせち料理に使われるのかを知る人は意外と少ないかもしれません。本記事では、チョロギの定義から歴史、特徴、食べ方まで、この縁起物の魅力を余すところなくお伝えします。
巻貝のような姿の正体:チョロギという植物
チョロギは、シソ科の多年草植物の地下茎にできる塊茎を食用とする野菜です。学名はStachys sieboldiiといい、れんこんやしょうがと同じように、土の中で育つ部分を食べます。
収穫したばかりのチョロギは真っ白で、長さ1〜3cm程度の巻貝やイモムシのような独特の形をしています。通常7〜8節のくびれがあり、各節には退化した鱗状葉と芽が見られます。おせち料理でよく見かける真っ赤なチョロギは、この白い塊茎を梅酢に漬けて色付けしたものなんです。
植物としてのチョロギは、茎が直立して高さ30〜60cmほどに育ち、初夏から夏にかけて淡紫紅色のシソ科特有の唇形の花を咲かせます。地下では夏期に長い地下茎を伸ばし、その先端に11〜12月ごろ塊茎を形成します。
名前の由来には諸説あり、中国語の「朝露葱(チョウロネギ)」が日本語読みされたという説や、韓国語でミミズを意味する「チョンロイ(チーロンイ)」から転じたという説があります。いずれも、あの独特な形状から連想された名前だと考えられているんですね。
江戸時代に伝来した長寿の象徴
チョロギの歴史は古く、中国の華南または華北が原産とされ、中国では8世紀の医方書『本草拾遺』に記録が残っています。日本への伝来は江戸時代で、1675年の黒川道祐『遠碧軒記』が初出とされています。
1697年の宮崎安貞『農業全書』や1704年の貝原益軒『菜譜』にも記載があり、『農業全書』では「甘露子」「草石蚕」として栽培法を述べて栽培を奨励していました。当時はまだ一般に普及していなかったようですが、江戸中期の1735年には備前・和泉・紀州・加賀・越中・米沢などの各藩でテウロギの名で栽培されていた記録が残っています。
明治期になると根菜として栽培法が紹介され、栽培が容易で珍妙な形であることから全国各地で栽培されるようになりました。
チョロギが縁起物として重宝されるようになったのは、その名前と形状に由来します。「長老木」「長老喜」「長老貴」「千代老木」など、長寿を連想させる漢字が当てられ、正月のおせち料理に欠かせない存在となりました。俵の形にも見立てられ、豊作や繁栄の願いも込められているんです。
興味深いことに、チョロギは1882年にフランスとイギリスに伝わり、当時は将来を有望視された野菜として栽培されました。1888年にはアメリカにも伝わり、「チャイニーズ・アーティチョーク」と呼ばれて今も栽培されています。
淡泊でクセのない味わいとシャキシャキ食感
チョロギの最大の特徴は、その独特な形状と淡泊な味わいです。生の状態では若干のエグみを感じることもありますが、苦さや辛さはほとんどありません。生でかじるとカリカリ、シャキシャキとした食感があり、熱を通すとさつまいもやゆり根、ニンニクのようなホクホクした食感に変化します。
梅酢漬けにしたチョロギは、生姜のようにピリッと辛い味がします。この梅酢の酸味と塊茎の淡泊さが絶妙にマッチして、おせち料理の箸休めとして最適なんです。
栄養面でも注目すべき点があります。チョロギの塊茎は、スタキオースというオリゴ糖を豊富に含み、このオリゴ糖は小腸では吸収されずに大腸まで届き、腸内細菌の餌となることが知られています。
現在、チョロギの主な産地は大分県竹田市、福島県二本松市(旧・東和町)、広島県東広島市(旧・福富町)などで、竹田市付近では300年以上栽培を続けてきたといわれています。
地域で異なる呼び名と食べ方
チョロギは地域によってさまざまな呼び名があります。和名では、その形からネジリイモ、ネジイモ、ホラガイイモなどの別名で呼ばれることもあります。漢字表記も「丁呂木」「草石蚕」「長老木」「長老喜」「長老貴」「千代呂木」「千代老木」「長老芋」「甘露子」「宝塔菜」など実に多彩です。
中国名は「甘露子」、英語名はChinese artichoke(チャイニーズ・アーティチョーク)やchorogi(チョロギ)、フランス語名はcrosne du japon(クロスヌ・デュ・ジャポン)などと呼ばれています。
食べ方も地域によって違いがあります。日本では梅酢で赤く染めたチョロギが最もポピュラーで、正月のお節料理にそのまま単品として用いられるほか、クワイや黒豆を煮たものに添えて供されることが多いです。西日本では焼いたものが箸休めに用いられることもあります。
その他の調理法としては、うま煮、天ぷら、吸い物・茶碗蒸しの具、祇園漬け、汁の実などが挙げられます。醤油漬け・塩漬け・梅酢漬けにしたものは長期保存が可能で、市販もされています。
アメリカでは、ジャガイモのように煮るか、フライにして食べられています。
各国でこれほど多様な食べ方があるのは、チョロギの淡泊な味わいがさまざまな調理法に適応できるからでしょうね。
梅酢漬けから天ぷらまで:多彩な調理法
チョロギの最も代表的な食べ方は、やはり梅酢漬けです。塊茎を塩漬けにした後、梅酢やシソ酢に漬けて赤い色をつけます。4〜5日ほど塩漬けにしてから梅酢に漬けるのが一般的で、この赤く漬けたチョロギが正月のお節料理によく用いられます。
生のチョロギを茹でたり、天ぷらにすると、ホクホクした食感になります。淡泊な味わいでクセがなく、サクサクとした歯触りがあるため、さまざまな料理に活用できるんです。
家庭で栽培する場合、日当たりのよい場所を選び、株間を十分とって種芋となる塊茎を植え付けます。ほとんど土質を選ばず栽培できますが、粘質土ではない有機質に富んだ土壌が適しています。春(4月ごろ)に種芋から苗を育成し、晩春に植え付け、晩秋(11月下旬から12月中旬)に収穫します。
栽培は容易にできますが、塊茎は掘り残しを生じやすく、草勢も強いため、一度栽培すると野生化しやすいという特徴があります。家庭菜園で育てる際は、この点に注意が必要ですね。
まとめ
チョロギは、中国原産のシソ科植物の塊茎で、江戸時代に日本に伝来した歴史ある食材です。独特の巻貝のような形状と淡泊な味わいが特徴で、「長老木」「千代老木」など長寿を願う漢字が当てられ、正月のおせち料理に欠かせない縁起物として親しまれてきました。
生の状態ではシャキシャキとした食感があり、熱を通すとホクホクした食感に変化します。最もポピュラーな食べ方は梅酢漬けで、その鮮やかな赤色と生姜のようにピリッと辛い味わいが、おせち料理の箸休めとして最適です。
栄養面では、オリゴ糖の一種であるスタキオースを豊富に含み、腸内環境を整える効果が期待できます。また、強壮作用や鎮咳作用があるとされ、古くから薬用としても利用されてきました。
日本だけでなく、フランスやアメリカでも食用とされ、各国で多様な調理法が生まれています。梅酢漬けから天ぷら、クリーム煮、サラダまで、その淡泊な味わいはさまざまな料理に適応できるんです。
見た目のインパクトから敬遠されがちなチョロギですが、その歴史と文化的背景を知ると、より一層味わい深く感じられるのではないでしょうか。