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かんすいとは?中華麺に欠かせない食品添加物の正体と歴史

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はじめに

「かんすい」という言葉を聞いて、すぐにピンとくる方はどれくらいいるでしょうか?ラーメン好きの方なら、もしかしたら耳にしたことがあるかもしれません。かんすいは、中華麺特有のあの独特な風味、コシのある食感、そして黄色みを帯びた色合いを生み出す立役者です。炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを主成分とするアルカリ塩水溶液で、食品添加物の一種として分類されています。

この記事では、かんすいの正体から歴史的背景、そして中華麺における役割まで、包括的に解説していきます。

中華麺の魂を形作るアルカリ塩水溶液

かんすいとは、中華麺などの製造に使用されるアルカリ塩水溶液のことです。「梘水」「鹹水」「乾水」「漢水」など、さまざまな漢字表記がありますが、いずれも同じものを指しています。現代の中国では簡体字の「碱水」、台湾では繁体字の「鹼水」が標準的な表記となっています。

小麦粉にかんすいを混ぜることで、麺に柔らかさと弾力性が生まれます。これは単なる水分補給ではなく、化学的な反応によるものです。アルカリ性のかんすいが小麦粉のグルテンに作用し、麺の構造を変化させるのです。その結果、あのプリプリとした食感と、噛みごたえのあるコシが実現されます。

さらに、かんすいは麺に独特の風味と香りをもたらします。この香りは好みが分かれるところですが、多くのラーメンファンにとっては「中華麺らしさ」を感じさせる重要な要素でしょう。また、小麦粉に含まれるフラボノイド色素がアルカリと反応することで、あの特徴的な黄色い色合いが生まれるのです。

内モンゴルの偶然から始まった製麺革命

かんすいの起源は中国に遡ります。中国古代の文献『本草綱目』には、塩辛い義の「鹹」とは別の概念として記述されており、古くから特別な物質として認識されていたことがわかります。

最も興味深いのは、中国の内モンゴル自治区で偶然発見されたという製麺技法です。この地域には、ミネラルを豊富に含んだ塩湖のアルカリ塩水(鹹水)が存在していました。ある時、この水を使って麺を作ったところ、通常の水で作った麺とは明らかに異なる食感と風味が生まれたのです。これが、かんすいを使った製麺技法の始まりだと言われています。

元来、中国では草や木の根を燃やした後の灰を水に溶かし、煮詰めた上澄み液が使われていました。これは灰汁と呼ばれ、主成分は炭酸カリウムです。また、ミネラルを多く含んだ井戸水も利用されていました。自然の恵みを活用した、先人の知恵と言えるでしょう。

この製麺技法は麺類の伝播とともに日本にも広がり、現在では日本のラーメン文化に欠かせない要素となっています。中国から伝わった技術が、日本独自のラーメン文化を支える基盤となったわけです。

麺に魔法をかける三つの効果

かんすいが中華麺にもたらす効果は、大きく分けて三つあります。

第一に、食感の向上です。かんすいのアルカリ性が小麦粉のグルテンを強化し、麺に独特の弾力性とコシを与えます。茹でても伸びにくく、しっかりとした噛みごたえが持続するのは、このかんすいの働きによるものです。ラーメンを食べたときの「ツルッ」とした喉越しと「モチッ」とした食感、あれこそがかんすいの真骨頂ですね。

第二に、風味と香りの付与です。かんすい独特の香りは、中華麺の個性を決定づける重要な要素です。この香りには好みが分かれますが、多くの人にとっては「ラーメンの香り」として記憶されているはずです。ただし、使いすぎると苦味や臭気が強くなるため、適切な配合が求められます。

第三に、色合いの変化です。小麦粉に含まれるフラボノイド色素がアルカリと反応することで、麺は美しい黄色に変化します。この色は視覚的な食欲を刺激し、料理全体の印象を左右します。白い麺と黄色い麺では、同じスープでも受ける印象が大きく異なるのではないでしょうか?

炭酸塩とリン酸塩の絶妙なバランス

現代のかんすいは、主に炭酸カリウムと炭酸ナトリウムを主成分としています。これらは天然の鹹水に含まれていた成分を人工的に再現したものです。

日本で販売されているかんすいには「固形かん水」と「液体かん水」の二種類があります。どちらも基本的には炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物で、場合によってはリン酸塩が配合されていることもあります。リン酸塩には、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、リン酸塩など、さまざまな種類が存在します。

炭酸カリウムと炭酸ナトリウムの配合比率によって、麺の特性は大きく変わります。炭酸カリウムが多いと麺は硬くなり、炭酸ナトリウムが多いと柔らかくなります。

製麺業者は、作りたい麺の種類に応じて、この配合を微調整しているのです。

興味深いことに、炭酸水素ナトリウム(重曹)も製麺時にかん水の代わりに使用できます。炭酸ガスによる気泡を含むことがありますが、同様の効果が得られるため、家庭で中華麺を作る際の代用品として知られています。

地域が育んだかんすいの多様性

かんすいの使い方は、地域によって独自の発展を遂げています。

中国では、西北部の中心都市である甘粛省蘭州の名を冠した「蘭州拉麺」が全国的に消費されています。また、香港やマカオなど広東を中心に食べられている「生麺(サーンミン)」には、かんすいの他にアヒルの卵なども練り込まれており、独特の風味を生み出しています。

日本では、長崎市内にある3軒の業者でのみ生産されている「唐灰汁(とうあく)」という特殊なかんすいが存在します。これは炭酸ナトリウムを主成分として人工的に調合された薬品で、一般的なかん水よりも炭酸ナトリウムの割合が多く、約9割を占めます。長崎ちゃんぽんや唐灰汁ちまきの製造に用いられており、長崎の食文化を支える重要な存在です。

沖縄では、ガジュマルやデイゴなどの灰を用いた「木灰そば」が作られています。これは植物の灰を水に溶かし、煮詰めた上澄み液を使用するもので、かんすいの代用として機能します。主成分は炭酸カリウムで、沖縄そば独特の風味を生み出しています。

このように、各地域の食文化や入手可能な材料に応じて、かんすいの使い方は多様に発展してきました。地域性が生み出す味の違い、これこそが食文化の豊かさですね。

中華麺だけじゃない、かんすいの活躍の場

かんすいの用途は、実は中華麺の製造だけにとどまりません。

ワンタンの皮作りにもかんすいは使用されます。ワンタンの皮特有のツルッとした食感と透明感は、かんすいによってもたらされています。また、中華まんじゅうの生地にも使われることがあり、ふっくらとした仕上がりに貢献しています。

さらに興味深いのは、スルメのような乾物を、ほぼ生に近い状態に戻すときにもかんすいが使用されることです。アルカリ性の性質が、乾燥した食材の繊維を柔らかくし、水分を吸収しやすくするのです。

ただし、かんすいには副作用もあります。独特の臭気と苦味が発生するため、使用量には注意が必要です。適切な量を守ることで、これらの副作用を最小限に抑えつつ、かんすいの恩恵を最大限に享受できます。

安全性を守る厳格な規制の歴史

かんすいの安全性については、日本では厳格な規制が敷かれています。

1957年に食品衛生法によって規制される前は、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)など、食用に向かない原料を使った粗悪なかん水が出回ることもありました。水酸化ナトリウムは洗濯用に安価で手に入ったため、戦前から終戦後しばらくは中華麺の製造に普通に使われていたのです。しかし、健康への影響が懸念されたため、現在では厳しい条件がつけられ、使用例は少なくなっています。

こうした経緯から、現在では日本食品添加物協会が発行する「かんすい確認証」を添付しないと、かん水として販売できなくなっています。この制度により、消費者は安心してかんすいを使用した製品を楽しむことができるようになりました。

食品添加物として販売されるかんすいについては、炭酸カリウムやポリリン酸カリウムなど他のアルカリ成分であっても「かんすい」と表示することが認められています。ただし、これらはすべて食品衛生法の基準をクリアしたものであり、安全性は保証されています。

私たちが日常的に食べているラーメンの安全性は、こうした厳格な規制によって守られているのです。

まとめ

かんすいは、中華麺特有の風味、食感、色合いを生み出す、まさに「麺の魂」とも言える存在です。

中国の内モンゴル自治区で偶然発見された製麺技法は、長い歴史を経て日本のラーメン文化に欠かせない要素となりました。炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを主成分とするこのアルカリ塩水溶液は、小麦粉のグルテンに作用し、麺に独特の弾力性とコシを与えます。

現代では、厳格な食品衛生法の規制のもと、安全性が保証されたかんすいが流通しています。地域によって独自の発展を遂げたかんすいの使い方は、各地の食文化の豊かさを物語っています。

次にラーメンを食べるとき、あの黄色い麺の背後にあるかんすいの働きを思い出してみてください。一杯のラーメンに込められた歴史と科学、そして職人の技に、きっと新たな感動を覚えるはずです。

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