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はじめに
ハワイに旅行に行くと必ずと言っていいほど、一度は目にする揚げ菓子「マラサダ」。その素朴な見た目からは想像もつかないほど、奥深い味わいと歴史を持っています。外側はカリッと香ばしく、中はふわふわの食感。グラニュー糖がたっぷりとまぶされたこの菓子は、ハワイのベーカリーや朝食のテーブルで欠かせない存在です。
一見すると普通のドーナツに見えますが、実はそのルーツはヨーロッパのポルトガルにあります。なぜポルトガルの伝統菓子が、太平洋の真ん中にあるハワイでこれほど愛されているのでしょうか。その背景には、サトウキビ農園で働く移民たちの物語が隠されていました。
ポルトガルの家庭菓子が海を渡った物語
マラサダの起源は、ポルトガルのアソーレス諸島やマデイラ島にあります。現地では「マラサーダシュ」と呼ばれ、謝肉祭(カーニバル)の時期に欠かせない伝統的な揚げ菓子として親しまれてきました。キリスト教の四旬節(レント)前の火曜日に食べる習慣があり、これは四旬節の前にラードや砂糖などの贅沢品を使い切るための知恵でもありました。
1878年9月29日、マデイラ島からハワイのホノルルへの入植が行われました。サトウキビ農園の労働者として移住したポルトガル人たちは、故郷の味であるマラサーダシュをハワイに持ち込んだのです。彼らの多くはカトリック教徒であり、宗教的な背景を持つこの菓子をプランテーションで働く他の人種の移民たちにも分け与えました。こうして、ポルトガルの家庭菓子がハワイ全土に広がっていったのですね。
現在では、ハワイには多くのマラサダ専門のパン屋が存在します。ポルトガルから遠く離れたこの島で、移民たちの想いと共に受け継がれてきた味わい。歴史を知ると、一口食べるごとにその重みを感じてしまいますね。
外はカリッと中はふわふわ、シンプルだからこそ奥深い
マラサダの最大の特徴は、なんといってもその食感です。外側は油で揚げられてカリッと香ばしく、中はしっとりとふわふわ。この対照的な食感のハーモニーが、多くの人を魅了してやみません。グラニュー糖がたっぷりとまぶされた素朴な見た目は、カラフルなトッピングや斬新なフレーバーを持つ現代のドーナツとは一線を画しています。
一般的なドーナツとの違いは、生地の構造にもあります。マラサダには穴がなく、丸いフォルムが特徴です。イースト発酵させた生地を油で揚げるため、ドーナツよりも軽やかで、食べた瞬間に”ふわっ”と広がるような食感を楽しめます。揚げたてをすぐに食べるのが最も美味しく、時間が経つと食感が変わってしまうため、ハワイの専門店では揚げたてを提供することにこだわっています。
名称の由来も興味深いものです。ポルトガル語で「mal」(不十分な)と「assadas」(焼けた)の2語からなり、直訳すると「充分に火が通っていない」「焼けていない」という意味になります。これは、アソーレス諸島のマラサーダシュの中心部が白っぽく、火が通っていないように見えることからの命名だとか。でも、実際には中までしっかりと火が通っており、その名称とは裏腹に、ふわふわの食感が楽しめるのです。
大西洋から太平洋へ、そして世界各地へ
マラサダは、ポルトガル本土でも類似の菓子が食べられています。ポルトガルでは「フィリョス」、ポーランドでは「ポンチキ」、ドイツでは「ベルリーナー」と呼ばれる揚げ菓子があり、それぞれの国で親しまれています。ヨーロッパ各地で広く食されてきた宗教的背景の強い家庭菓子が、移民と共に海を渡り、新しい土地で独自の進化を遂げたのですね。
ハワイでは、伝統的なグラニュー糖をまぶしたプレーンなマラサダだけでなく、カスタードクリームやチョコレート、フルーツなどを詰めたバリエーションも登場しています。それでも、多くの人は昔ながらのプレーンスタイルを好むと言います。シンプルだからこそ、生地の美味しさが際立つのでしょう。
アソーレス諸島には、さらにユニークな食べ方があります。モラセス(糖蜜)をかけて食べるのが現地流。甘さに深みが加わり、また違った味わいが楽しめるそうです。ハワイのマラサダ専門店でも、時折この食べ方を提供するところがあるとか。伝統を守りつつ、新しい楽しみ方も提案されているのですね。
揚げたてを食べる幸せ、素材の旨味を堪能
マラサダの基本的な材料は、小麦粉、卵、砂糖、イースト、牛乳、そしてたっぷりのグラニュー糖です。シンプルな素材だけで作られるため、それぞれの材料の品質が味を左右します。特に、揚げ油の鮮度と温度管理が重要で、適切な温度で揚げることで外はカリッと、中はふわふわの食感が生まれます。
ハワイのベーカリーや専門店では、朝食やおやつの時間に合わせて揚げたてを提供しています。注文を受けてから揚げるスタイルの店も多く、熱々の状態で手に取れるのが魅力です。電子レンジで再加熱することもできますが、砂糖を吸収してしまい、香りや歯触りが揚げたてとは若干異なってしまいます。やはり、現地で揚げたてを食べるのが一番ですね。
ポルトガル系の家庭では、四旬節前の火曜日に家族みんなでマラサダを作る伝統があります。最年長の女性(主に母か祖母)が調理し、年長の子供が温かいマラサダを砂糖の中で転がして手伝うのが一般的です。家族の絆を深める料理として、今も受け継がれているのですね。
揚げる瞬間が勝負、伝統の技を受け継ぐ
マラサダ作りで最も重要なのは、生地の発酵と揚げ加減です。イーストでしっかりと発酵させた生地は、指で押すとゆっくりと戻る弾力があります。適切な大きさに成形したら、170〜180度の油で丁寧に揚げていきます。生地が油に触れた瞬間に”じゅわっ”と音を立てて膨らみ始め、きつね色になるまで両面を均等に揚げます。
揚がったマラサダは、すぐにグラニュー糖をまぶします。熱々のうちに砂糖を絡めることで、砂糖が少し溶けてキャラメルのような風味を生み出すことも。この一手間が、マラサダの魅力をさらに引き立てているのですね。
ハワイの専門店では、熟練の職人が毎日大量のマラサダを揚げ続けています。観光客だけでなく、地元の人々も日常的に食べるほど愛されているこの菓子。その裏には、何十年も積み重ねてきた職人技があるのです。
まとめ
マラサダは、ポルトガル発祥の揚げ菓子がハワイで独自の進化を遂げた、歴史と文化が詰まったスイーツです。1878年にサトウキビ農園の労働者として移住したポルトガル人たちによって持ち込まれ、プランテーションで働く様々な人々に分け与えられることで、ハワイのローカルフードとして定着しました。
外はカリッと中はふわふわの食感、グラニュー糖の甘さが絶妙にマッチした素朴な味わいは、一度食べると忘れられない魅力があります。ハワイを訪れる機会があれば、ぜひ揚げたてのマラサダを味わってみてください。その一口に、移民たちの想いと歴史が込められていることに気づくはずです。