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はじめに
「蜜焼き」と聞いて、どんな料理を想像するでしょうか?和菓子のような甘い焼き物?それとも蜂蜜を使った照り焼き?実は、この料理はフレンチの名店『LA BONNE TABLE』の中村和成シェフが生み出した、まったく新しいスタイルの肉料理なのです。
中国料理の「焼味(シャオウェイ)」という調理技法にヒントを得ながら、フレンチの感性で再構築されたこの料理は、鶏肉や豚肉を砂糖と醤油のマリネ液に漬け込んで焼き上げるというシンプルな手法ながら、驚くほどしっとりとした食感と深い味わいを実現しています。本記事では、この革新的な料理の魅力を、その誕生背景から調理法の特徴まで詳しく紐解いていきます。
私もこの料理が大好きで、シェフレピのレッスン撮影で中村シェフから教わって以来、自宅でも何度もリピートしています。
異文化が交差する一皿の誕生
蜜焼きは、日本のフレンチシーンに新風を吹き込んだ中村和成シェフによって考案されたオリジナル料理です。その誕生には、中国料理の伝統的な調理技法「焼味(シャオウェイ)」からヒントを得たという背景があります。
焼味とは、肉を甘辛いタレに漬け込んでから炙り焼きにする中国料理の技法で、叉焼(チャーシュー)や焼鴨(ローストダック)などが代表的な料理として知られています。中村シェフはこの技法に着目し、フレンチの視点から再解釈することで、まったく新しい料理を生み出したのです。
興味深いのは、この料理が単なる模倣ではなく、フレンチの技術と感性を融合させた「創造」であるという点です。中国料理の焼味が香辛料や五香粉などで複雑な香りを構築するのに対し、蜜焼きは砂糖、醤油、塩というミニマルな材料構成で、素材の味わいを最大限に引き出すアプローチを取っています。
砂糖が生み出す魔法のような食感
蜜焼きの最大の特徴は、何と言ってもそのしっとりとした食感です。この独特の食感は、砂糖を肉の重量の10%という大胆な比率で使用することで生まれます。
砂糖には保水性があり、肉のタンパク質と結合することで水分を閉じ込める働きをします。これにより、加熱しても肉汁が逃げにくくなり、驚くほどジューシーに仕上がるのです。まるで肉の内側に「水分の膜」を作るような効果と言えるでしょうか。
さらに、砂糖は加熱によってカラメル化し、肉の表面に美しい照りと香ばしさをもたらします。この照りは単なる見た目の美しさだけでなく、甘みと香ばしさが複雑に絡み合った味わいの層を形成します。醤油の塩気と旨味、砂糖の甘みとコク、そして焼成による香ばしさ——これらが一体となって、シンプルながら奥深い味わいを生み出すのです。
また、砂糖と塩による浸透圧の作用で、肉の繊維がほぐれ、柔らかくなる効果も見逃せません。比較的短い漬け込み時間でも、肉の内部まで味が染み込み、均一な味わいに仕上がります。
保存性の高さも蜜焼きの大きな魅力です。砂糖と塩の持つ防腐効果により、冷蔵庫で数日間保存しても味が落ちにくく、むしろ時間が経つことで味が馴染んで美味しくなるという特性があります。作り置き料理としても優秀ですね。
鶏と豚、それぞれの個性を引き出す
蜜焼きは主に鶏もも肉と豚バラ肉で作られますが、それぞれの肉質に応じて異なる魅力を発揮します。
鶏もも肉の蜜焼きは、鶏肉特有の繊細な旨味を砂糖と醤油が優しく包み込むような味わいが特徴です。鶏もも肉は適度な脂肪を含むため、焼成時に脂が溶け出し、マリネ液と混ざり合って濃厚なソースのような役割を果たします。皮目をパリッと焼き上げれば、外はカリッと、中はしっとりという理想的な食感のコントラストが生まれます。
一方、豚バラ肉の蜜焼きは、より力強い味わいが魅力です。豚バラ肉の豊富な脂肪が砂糖と醤油のマリネ液と絡み合い、濃厚でコクのある仕上がりになります。脂身と赤身が層になった豚バラ肉の構造が、焼成時に美しい断面を作り出し、視覚的にも食欲をそそります。
どちらの肉を選ぶかは好みの問題ですが、鶏もも肉はより軽やかで上品な味わい、豚バラ肉はガツンとした満足感のある味わいと言えるでしょう。
調理法の基本は共通していますが、豚バラ肉の場合は脂が多いため、焼成時に出る脂をこまめに拭き取ることで、よりクリアな味わいに仕上がります。また、鶏もも肉は比較的短時間で火が通りますが、豚バラ肉は厚みがあるため、じっくりと時間をかけて焼き上げることで、脂が適度に抜けて食べやすくなります。
極限まで削ぎ落とされた材料構成
蜜焼きのレシピを見て驚くのは、その材料の少なさです。基本的には肉、砂糖、塩、醤油の4つだけ。この潔いまでのシンプルさこそが、蜜焼きの本質を物語っています。
肉の重量に対して塩1%、砂糖10%、醤油10%という黄金比率は、中村シェフが試行錯誤の末に辿り着いた完璧なバランスです。この比率を守ることで、誰が作っても安定した美味しさを再現できるという再現性の高さも、この料理が広く支持される理由の一つでしょう。
砂糖は上白糖でもグラニュー糖でも構いませんが、それぞれ微妙に風味が異なります。上白糖はややコクのある甘さ、グラニュー糖はクリアな甘さを生み出します。醤油も濃口醤油が基本ですが、ものによって味わいが異なるため、使い慣れた醤油で作るのが良いでしょう。
漬けて焼くだけ、されど奥深い調理プロセス
蜜焼きの調理法は驚くほどシンプルです。しかし、そのシンプルさの中に、美味しさを最大化するための細やかな工夫が隠されています。
まず、豚バラ肉の脂身に包丁で格子状に切り込みを入れます。これにより、焼く際に余分な脂が溶け出しやすくなるのです。
次に砂糖と塩を揉み込みます。ボウルの中で肉と調味料がなじむまでしっかりと揉み込むことが、柔らかな仕上がりの第一歩です。
次に、ラップをかけて約1時間漬け込みます。塩と砂糖の浸透圧により、肉から余分な水分が出てきます。この時に出る水分が、塩と砂糖と混ざり合って軽くとろみがつき、まるで”蜜”のような状態になります。
漬け込みが終わり、しっかりと水分が出たら醤油を加えて絡めます。このまま焼いてももちろん問題ありませんが、ジップロックなどに入れてしっかりと空気を抜いて6時間〜数日間漬け込むことで、さらに味が染み込んで、より美味しく仕上がります。焼く際にはあらかじめ冷蔵庫から出して、肉を常温に戻しておきます。
焼成は、フライパンで表面を焼いてからオーブンで仕上げます。オーブントースターでも可能です。
焼き上がった肉は、少し休ませてから切り分けると、肉汁が落ち着いて切りやすくなります。断面から溢れる肉汁と、照りのある表面——この瞬間こそが、蜜焼きの最高の見せ場ですね。
マリネ液をそのまま煮詰めてタレにするのもポイントです。さらに中村シェフは、「デュカ」というミックススパイスを合わせてオリエンタルな味わいに仕上げていました。
まとめ
書いているそばから、思わず手を伸ばしたくなるほど食欲をそそられます。蜜焼きは、中村シェフが中国料理の伝統技法に着想を得て生み出した、まさに文化の交差点に立つ料理です。
砂糖、塩、醤油というミニマルな材料構成でありながら、肉のしっとりとした食感と深い味わいを実現するこの料理は、シンプルさの中に宿る奥深さを教えてくれます。鶏もも肉でも豚バラ肉でも、それぞれの個性を最大限に引き出す調理法は、家庭でも再現しやすく、作り置き料理としても優秀です。
漬けて焼くだけという手軽さでありながら、その仕上がりは名店の味わい。中村シェフの創造性と探究心が生んだこの料理は、料理における「引き算の美学」を体現していると言えるでしょう。あなたもぜひ、この新感覚の肉料理を味わってみてください。きっと、そのシンプルさと完成度の高さに驚かされるはずです。
さいごに
シェフレピでは、LA BONNE TABLE(ラ・ボンヌ・ターブル)中村シェフ直伝の、「豚バラ肉の蜜焼き」のレッスンを公開しております。ぜひこの機会にチェックしてみてください!