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私は、私がイタリアで見てきた料理を作り続けていきたい

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清水美絵|カンティーナ アルコ

京都の食の台所「錦市場」の1本北側、蛸薬師通りにある「カンティーナ アルコ」は、清水美絵さんがオーナーを務めるレストランです。「カンティーナ」とは、酒場やワインショップなどを意味するイタリア語で、南イタリア料理と南イタリアのワインを深夜まで楽しめる「大人の酒場」として、同じ飲食店人の同業者たちも閉店後に通う人気店です(コロナ禍は時間を変更して営業中)。

イタリアでアーチを意味する「アルコ」の名の通り、アーチ形の梁が印象的な店内は、南イタリアの現地のレストランのイメージそのもの。「南イタリアの人や現地で滞在経験のある人に『懐かしい』と言ってもらえるようなお店にしたかったんです」というほど、清水シェフ自身も大いに南イタリアに魅了されています。

毎日でも食べられる南イタリア料理に魅了される

清水シェフがイタリア料理に出会ったのは、20代の初め。京都​調理師学校を卒業後の就職先が、一乗寺で1990年にオープンした老舗イタリア料理店「トラットリア アンティコ」でした。イタリア料理をやりたいという思いよりも、漠然と「洋食をやりたい」くらいにしか思っていなかった清水シェフは、入社2年目に社内研修でイタリア・トスカーナ州のシエナに行く機会を得ます。

城壁がきれいな街で人もやさしい。さらに、肉料理もおいしくて、なんて素敵な町なんだろうと、イタリアが大好きになりました。イタリア好きの橋本オーナーに連れていってもらっていたので、田舎ばっかりを巡れたのもよかったんだと思います。観光地を中心に巡るツアーだったらまた違っていたと思うんです

研修旅行以来、清水シェフはイタリア語を習いはじめ、お金を貯めればイタリアを(ときには一人で)旅するようになります。そのなかで、人の明るさと、毎日食べても飽きない料理とワインがある南イタリアに惹かれていきます。

初めてナポリにいったときに料理のおいしさにはまったんです。トスカーナなど北イタリアの料理もおいしいと思ったんですけど、毎日食べて生活したいと思ったのは南イタリア。トマトとニンニク、オリーブオイルがベースで、たとえばお肉をみても、鳥肉だったらムネ、豚肉だったらバラじゃなくてモモを使うような、全体的にあっさりと脂っぽくない料理が多いのも、健康的に感じました

そして料理の勉強をかねたイタリア留学を決意。トスカーナの語学学校に通いながら、研修先のレストランは南イタリアのお店を希望します。当時のイタリアは、不安定な社会情勢を受けて、失業者も多く外国人を雇いにくい状況で、受け入れ先を探すのに苦労したというが、なんとかカンパーニャ州の港町、ソレントのレストラン「カルーソ」で働くことになりました。

8、9カ月の間研修に入って学んだのは、イタリアの料理人たちの人生の楽しみ方、生きていく楽しみ方だったと思います。もちろん料理でも学んだことはありますよ(笑)。ただ調理技術でいえば、日本のレストランの方が細かい仕事は多く、クオリティも高かったと思います。そのなかで、素材のもっているもともとのポテンシャル、そういったものをどうおいしくしていくかというイタリア料理の考え方を学べたのは良かったです。私は、引き算していくのがイタリア料理だと感じました

性料理人としての不安。動けるうちに独立する

研修から帰国し、2014年に30代前半で「カンティーナ アルコ」をオープンさせます。

オープン当時は「30代になったばかりでの独立は早すぎる」という意見もあったと清水シェフは当時を振り返ります。そして「自分がもし男性だったら、もう一度イタリアを見たいと思ったかもしれない」と。正直な気持ちも吐露します。

しかし、女性がオーナーシェフを務めるイタリア料理店は、日本では実はそれほど多くはありません。そして、50代や60代で現役で料理されている料理人はもっと少ない。女性が長くお店を続けていくための前例がないのなら、体力あるうちに早くから始めた方がいいのではないかと思ったといいます。

私の料理は、見たものを中心に作る料理です。レストランのシェフのように自分を表現するというよりは、自分の記憶のなかの料理を作り上げることをしています。『自分が食べてきたものがこうだったから』ということであれば、私ははっきりと言えるので、迷ったりすることもない。それは、確実にお店を続ける自信にもなっています。イタリアで食べた料理がおいしかったから、その味に近づけるように作り上げていく。そのことを、ずっと続けています

今回、シェフレピに提供したパスタ「シャラティエッリ」も、イタリア留学の際の研修先「カルーソ」のシェフから学んだものです。シャラティエッリは、ユネスコの世界遺産にも指定されている景勝地、アマルフィー海岸があるソレント半島一体でよく食べられていて、卵やバジル、牛乳、チーズが入る手打ちパスタです。塩やレモンの皮を入れるのは、カルーソのシェフ流で、お店ごとに少しずつレシピが異なります。清水シェフは、現地で学んだシェフのレシピそのままを受け継いでいます。

カルーソでは、今回のアクアパッツァのレシピで魚を抜いて貝類だけをパスタのソースに使ったりしていましたが、本来は別々に出させるパスタとメイン料理を1つのお皿に盛る『ピアット・ウニコ』のスタイルで楽しんでもらいたいなと思い、お魚を1匹まるごと使っています。シェフレピのキットを作ったあとも、このレシピでもう一度アクアパッツァだけを作ってもらってもいいですし、お好みの茹でたショートパスタを入れてピアット・ウニコの仕立てにしてもらってもいい。何度でも楽しんでもらえるレシピだと思います

支店やプロデュース店を増やしていくことよりも、京都で何十年も続く老舗のイタリア料理店になりたいと清水シェフ。そのためにも毎年イタリアに行ってエネルギーをもらったり、新しいレシピを教わりにいったりするのも、自分自身にとって大事な仕事だといいます。

コロナが落ち着いたら、年に1度のお店のスタッフを連れてのイタリア研修を再開させたいです。モリーゼ州とかまだ行っていない場所もありますし。若いスタッフに、私が20代のときに得た歓びを感じて欲しいですし、私がそれをしてあげる番なんだと思っています。現地では、マンマ(イタリア語でお母さん)に料理を教えてもらって、なるべく現地のものをそのまま持ち帰ってくる。そしてそこに手を加えすぎずに料理するお店のコンセプトを続けていきたいです

清水美絵●しみず・よしえ
京都市生まれ。手に職を付けたいと高校卒業後、京都調理師専門学校へ。卒業後、京都・一乗寺の老舗イタリアン「トラットリア アンティコ」に入社。社内研修の一貫でトスカーナ州シエナを訪れたことがきっかけでイタリアに魅了される。以来、イタリア旅行をしながらイタリア料理を学ぶ。1年間のイタリア留学では、南イタリアのカンパーニャ州でレストランに入って研修をする。帰国後、2014年に京都・蛸薬師通りに自身がオーナーシェフを務める「カンティーナ アルコ」をオープンさせた。

カンティーナ・アルコ 店舗サイト
清水シェフ Instagram

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