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【連載|料理上手になるには】第1章:「面倒くさい」を飼い慣らすことから始める

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

はじめまして。h.b.の名義でシェフレピへレシピ提供をしている枯朽の清藤洸希と申します。
「料理上手になるには」というテーマについて、自分なりに掘り下げて文章を書いていこうと思います。普段枯朽で提供している料理写真と共にどうぞお楽しみください。

料理上手の大前提

「料理上手になるにはどうしたらよいですか?」というざっくりした質問をよく受ける。
そんな時はいつも前提を聞くようにしている。
日々の献立に迷っている人、お店の味を家庭で再現したい人、進路に迷っている調理師学生ではそれぞれ答える内容が変わってくるからだ。

青森県の新郷村で育てられている銀の鴨のブーダンノワール
青森県の新郷村で育てられている銀の鴨のブーダン・ノワール

私が思う料理上手の3パターン

⚪家事としての料理上手

⚪趣味としての料理上手

⚪仕事としての料理上手

漠然と「料理上手になりたい!」と思い手当たり次第に勉強するより、まず自分がどこに類するのかを把握することが自分に合った料理上手への近道なのではないだろうか。

この連載では出来る限りの“料理上手”の細分化、それらの共通項、それぞれの勉強の進め方を考えていこうと思う。

金目鯛の松笠焼き、アンディーブをパプリカパウダーとカイエンヌと豆鼓をテンパリングした油でマリネして真空調理、白インゲン豆をチョリソーと豚足の煮汁、ローズマリー、オレンジで軽く煮たもの、カシューナッツのピューレ、ソースを金目鯛で作ったジュドポワソン(アメリケーヌに近い味)
金目鯛の松笠焼き。ソースは、金目鯛のアラや鱗から作ったジュ・ド・ポワソン(アメリケーヌに近い味)。付け合わせには、パプリカパウダーとカイエンヌ、豆鼓をテンパリングした油で真空調理したアンディーブ。チョリソーと豚足の煮汁、ローズマリー、オレンジで軽く煮た白インゲン豆。カシューナッツのピューレ。

料理って面倒くさい。これが大前提

第1章では私の思う料理上手の「共通項」全てのパターンに通ずる大前提の話をしたい。

料理上手と聞くと初めに味のことが頭に浮かぶと思うが、今回話す大前提はその前段階だ。

料理が嫌いな人にその理由を聞くとストレートに「面倒くさいから嫌い」と言われることがよくある。

料理を仕事にし、料理の楽しさを発信している側の人間としてそう言われることがショックかと聞かれると、全然そんなことはない。みんなが面倒くさいと思ってくれるから、その面倒臭さを担う飲食業界は重宝される。

そう、料理って面倒くさい。これが大前提だ。

長野県のキノコ鑑定士丸山さんの送ってくれた山獲れの天然きのこと黒文字の香りのフラン
長野県のキノコ鑑定士丸山さんの送ってくれた天然きのこと黒文字の香りのフラン(茶碗蒸しのようなもの)

面倒くささを飼い慣らそうと努力してる人

何を作るか考える、買い物に行く、重い荷物を持って帰る。ここまでで一苦労。

帰宅後、買った食材を冷蔵庫や乾物ゾーンなどそれぞれ適切な場所にしまう。これも地味に面倒くさい。

ビニール袋やマイバックだって畳んで収納せねばならない。ここからようやく調理を始められる。

飲食店にせよ家庭にせよ食事とは大体時間が決まっている。出来上がりの時間を逆算して料理を開始するのも慣れるまでコツが要る。

時間と戦いながら、家庭用3口コンロをフル稼働させ数品を同時に仕上げていく。

美味しい料理を食べる時間はあっという間に過ぎ、最後の最後に最も面倒くさい洗い物と片付けにボコボコにされる。

私が思う“料理上手”な人は味云々よりまずこの面倒くささを飼い慣らそうと努力してる人だ。面倒くさいことを「これは面倒くさいもの」と決めて諦めず、なるべく楽なように、なるべく楽しめるようにと考える人。

そういう人の調理場はいつも綺麗で整ってる。でも多分几帳面とか潔癖とかではなく面倒くさがりなんだと思う。“ずっと綺麗にしておく”のが結局一番楽だと知ってるのだ。

整理されていれば何かをいちいち探す手間もない。使った場所を綺麗にする、という小さな掃除を毎日しておけば極論大掃除という概念は生まれない。

「めちゃくちゃ面倒くさくならないように先にちょっと面倒くさいことをやっておく」

料理って準備も調理工程も片付けもそういう思考を持っておくだけでグンと楽になる気がする。

どんぐり(マテバシイ)のサブレ
マテバシイ(どんぐりの一種)を使ったサブレ

落ち着き方を覚えると色んなことが見えてくる

料理はマルチタスクだ。頭も調理場もぐちゃぐちゃになる。分かる。そんな時はちょっと深呼吸をして、調理途中のものは一回忘れて、目の前に出てるもう使わない調味料を片付けたり溜まった器具を洗ってみると良い。

とりあえず火を消して散歩にでも出たら良い。

“落ち着く”って難しい。けど落ち着き方を覚えると色んなことが見えてくる。

そして私の知ってる一番の落ち着き方はまず周りを片付けることだ。

綺麗になった調理場で、スッキリした頭で、落ち着いて次の調理工程を考えると意外と悩んでたことはちっぽけだったりする。

エビのショーフロワ
プーアール熟茶でミキュイに火を入れた車海老に金柑と金木犀のお酒を纏わせた料理。上には、車海老の味噌とフロマージュブランのピューレをアクセントにおいている。

やっておくと後が楽な“ちょっと面倒くさい”

この文章を読んだ「料理上手を目指す人」が落ち着いて日々の料理に取り組めるよう、私が普段意識している「やっておくと後が楽な“ちょっと面倒くさい”」をいくつか紹介していこうと思う。

⚪シンクに極力ものを溜めない

これがまずなにより一番大事だと思う。

飲食店などでは状況によってどうしてもその場で洗えない場合もあるだろうが、極力シンクには何も溜めたくない。

なるべく溜めて一気に洗った方が効率が良いという人もたまにいて、まぁ一理ある気はするのだが私はもうシンクに溜まる洗い物を見ただけでもう全部嫌になったりする。山積みになってるものをこれから片付けなければと思うとそれだけで憂鬱になる。

料理が億劫になるランキングNo.1ではないだろうか。

いくら調理工程が楽しくても視界の端にぐちゃぐちゃなシンクがチラチラ見えるだけで気が重い。

後でまとめて洗えば良いや、ではなく何かをシンクに持っていくのであればそのまま洗って、できればその場で拭いて所定の位置に片付けちゃえば良い。まとめてやると大変な作業でも一個のスプーン、一個のフライパンなど別に全然苦じゃない。

「溜めない」を意識してシンクがスッキリしているだけで調理中のストレスは減ると思う。

あと私は「水につけておく」もあまり好きじゃない。これも勿論場合による。浸けておかなければとれない汚れもあるし、どうしてもすぐ洗えない場合は浸けておく方が良い。

ただ、ちょっと胸に手を当てて考えて欲しい。

「今洗うのが面倒だから取り敢えず浸けておこう」と思ったこと、あるのでは?

切った野菜を入れていたボウルや味噌汁のお椀のようにまったくもって浸けておく必要のないものを「後で…」とか「明日…」とか思いながら水を張った経験、あるのでは?

この器具は油でベタベタしてるからお湯に浸けておこう!と思ってそのまま放置し、お湯はすっかり水になり逆に油が固まってるなんてこと、あるのでは?

それらは全て後の「めちゃくちゃ面倒くさい」に繋がる。ちょっと面倒でも今その場で洗って、ずっと綺麗を保ちながら調理する方が結果的に楽だと私は思う。

枯朽の調理場
常に綺麗に掃除されている枯朽の調理場は客席から見れるようになっている

⚪器具や調味料の場所を決める

何がどこにあるか分からないというのは頭をぐちゃぐちゃにする要因の一つだ。

ただでさえやることが多い料理の中でモノを探すということに脳のリソースを割くのは非常に勿体無い。

買った物をしまう時も調理中にモノを出す時も決まっているというだけでノンストレスだ。

あと、モノの場所を決めるというのは複数人で調理場を使う際に役に立つ。

家庭でもそうだがスタッフが多い飲食店では特に、誰が見ても分かるように整理されているだけで指示を減らせる。分かりやすく極端に言うと、白ワインはここ~赤ワインはこっち~料理酒はここで~と全ての場所を伝えるより「酒類はココ」と一言で済む方が楽。

洗った器具をどこに片付ければ良いかは一目で分かる様にしておけば指示する必要すらない。

よく「最近の若者は1~100まで言わなきゃ分からないのか」と怒るシェフがいるが、言わなくても分かる環境を整えることも上司の仕事だ。何事にも極端な人は沢山いて「言ってくれなきゃ分かんない」も「言われなくてもやってくれ」も程度があると私は思う。両者の歩み寄りがないと他人同士が集まってなにか一つのものを作るなんて出来るわけがない。分かる努力も分かってもらう努力も必要だろう。

枯朽の調理場に並べられたボトル

⚪食後に行うのは食器洗いのみ、という状況を作る

料理のゴールはなるべく“食事”という楽しい行為であって欲しいものだが、そうもいかない。これだけ大変な思いをして作ったのに楽しい時間はあっという間に過ぎて洗い物という仕事が残る。残るのは仕方ない。ならそれをなるべく最小限にしよう。

料理を仕上げると必ず鍋やフライパン、トングや菜箸などの洗い物が出る。これは食べる前に洗ってしまう。

使った調味料なども所定の位置に戻す。

調理台は綺麗に拭きシンクに洗い物はない。

食べる前に調理場を“作る前の状態”まで戻しておく。ここまで出来れば食後の洗い物は使った食器のみだ。

これ、言葉で言うのは簡単だが一番難易度が高い。

食べる前に全ての片付けをしていたらせっかく美味しく作った料理が冷めてしまう。

美味しいうちに食べれないならなんのために一生懸命作ったんだ、と私は思う。

だが、何度も言うように最後におぞましい量の洗い物が残ってるのは一番嫌だ。

そうならないために私は「片づけながら」の調理を心がけている。シンクに洗い物を溜めないのもそう、器具や調味料の場所を決めるのも都度都度の片付けをする一つのコツだ。

「使った場所を綺麗にする、という小さな掃除を毎日しておけば極論大掃除という概念は生まれない」と最初に書いたが、これを一回の調理にも当てはめる。使った場所をその都度綺麗にし、使ったモノをその都度しまえば最後の片付けと言う概念は

(ほぼ)消える。

そうすれば、難易度が高いが「食べる前に“作る前の調理場”に戻す」と「料理が冷めないうちに食べる」の両立も可能だ。

シェフレピはプロの料理を家庭で再現できるサービスだ。毎度思うがびっくりするくらい再現度が高い。これは代表の山本篤さんの料理に対する圧倒的解像度の高さがなせる技で、他の企業にはまぁ真似できないだろうなと思う。

私はシェフレピをスタート時からずっと見てきているが、ユーザーの調理技術の発達には目を見張るものがある。まるでオンライン調理師学校だ。

折角ここまでやるなら私はユーザーにプロの片付けまで覚えて欲しいと思ってしまう。

そうすればきっともっと料理を好きになれる。

好きになれるというか、私的には「料理を作ろう!」のハードルが下がると思うのだ。

「料理を作ろう!」と思うとき、その“料理”の中にはきっと片付けの面倒くささも含まれているのではないだろうか?その片付けがいつもより少し楽になれば料理にもっと軽い気持ちで踏み出せると思う。

白ワインとトマトウォーターとタイムとバジルで煮含めた冬瓜。クレソンのお浸し、豚肩ロースハムのジュリエンヌとハーブのサラダを上に乗せている。仕上げに春菊とパセリとニラから作った冷製スープをかける。
白ワインとトマトウォーターとタイムとバジルで煮含めた冬瓜。クレソンのお浸し、豚肩ロースハムのジュリエンヌとハーブのサラダを上に乗せ、仕上げに春菊とパセリとニラから作った冷製スープをかける。

⚪次の日に持ち越さない

最後もこれまで話したこととほとんど同じような内容だ。次が面倒くさくないよう今やろうということ。

前日の残骸が残っているのを見るとグッタリする。洗い物もそうだし排水口や三角コーナーのゴミもそう。漂白剤をかけたまな板を1日置いて次の日に洗う店もあるが私は帰る前に洗って干しておきたい。出来れば包丁も研いでおきたい。

「料理を作る前に何かしらやらねばならない作業がある」というのはストレスだ。

よし作るぞ!と思ったらその勢いのまますぐ調理に取り掛かりたい。となると前日に全部終わらせておかなければならない。家でもわざわざダスターを煮沸してまな板を漂白して洗い物もその日のうちにやって疲れない…?と言われることがたまにあるが、毎日やるのが結局一番楽なのだ。毎日やってれば汚れない。汚れないからサクッと拭けば終わり。溜めて大掃除する方が私にとってよっぽど面倒くさい選択だ。

百合根のピューレと貝のムース、上に飾っているのは百合根と杏仁の香りのメレンゲ。雲南省の大雪山で作られている野生白茶に蛤のジュを合わせて、アルドイーノを加えている。
百合根のピューレと貝のムース。上に飾っているのは百合根と杏仁の香りのメレンゲ。添えられている飲み物は、雲南省の大雪山で作られている野生白茶に蛤のジュを合わせて、アルドイーノ(EXVオリーブオイル)を加えている。

【後書き】

これらはごく一部だが、なんとなくこんなことを意識しながら料理を作っている。

“料理上手”になりたい皆さんはきっと今後もこの「料理は面倒くさい」という大前提と戦っていくことになると思う。

私の戦い方は参考までに、各々の戦い方を見つけて欲しい。

余談だが、私は家で料理をするとき“全部終わらせたキッチン”で開けるビールが大好きだ。洗い物も何もない、まな板も真っ白、ゴミも全部捨てた。拭きあげ済みで水垢のないピカピカなステンレスの台の真ん中でカシュッ!と開けるビールは格別だ。

空腹は最高のスパイスというが私にとって「後は寝るだけ」という状況は最高のつまみなのだ。

連載「料理料理上手になるには」
清藤洸希(h.b.)/枯朽/オーナーシェフ
シェフレピで数多くのレッスンの講師を務める清藤洸希シェフに「料理上手になるには」というテーマでコラムを連載。
シェフの料理の考え方に触れて、もっと料理が楽しくなるはずです。
枯朽で実際に提供されている料理写真とともにお楽しみください。

枯朽のオーナーシェフ清藤洸希

清藤洸希h.b.)●枯朽 オーナーシェフ
福岡県生まれ。高校卒業後、大阪の調理師専門学校に入学。卒業後は大阪市内のミシュラン一つ星のフランス料理店に勤務し、フランス料理から料理人の基礎を学ぶ。その後、東京に移り、ビストロで料理長兼店長を務めた。2022年8月に東京・押上、九坪の倉庫に在る、食の実験室「枯朽」をオープンした。
シェフページ ▶ https://chefrepi.com/chefs/chef-hb


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