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ローストビーフに合わせる赤ワインソースの考え方

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

h.b.シェフが監修したレッスンコース「着地点から考える“肉の火入れ”の楽しさ」のなかから「ローストビーフ 3種のベリーの赤ワインソース 花椒風味」を、シェフ自身の言葉で徹底解剖していきます。

ローストビーフとはどんな料理か?

ローストビーフは、イギリスで伝統的な料理のひとつ。牛肉の塊をオーブンなどで蒸し焼きにし、薄くスライスしたものです。
焼きあがった後は薄くスライスして、グレイビーソース(肉汁を使ったソースのこと)をかけて食べられます。
薬味としてワサビのようなピリッとした風味のあるホースラディッシュやマスタード、クレソンなどの少し辛味のある食材と共に提供されることが多いです。
また、ヨークシャー・プディングという型に小麦粉(薄力粉)と卵、少量の食塩を牛乳と水で溶いて作った生地を流し込み、オーブンで焼いてつくる料理も付け合わせとしてよく食べられます。

ローストビーフに合わせるソース「3種のベリーの赤ワインソース」の考え方

フランス料理人からすると、ローストビーフに合わせるソースとして、お肉の旨味をふんだんに使った「グレイビーソース」を作りたいと思いがちですが、ご家庭で作ってもらうことを考えると、これは非常に多くの手間がかかるうえに難易度が高いと感じました。

そこで今回は、お肉の旨味に頼りすぎない酸味や香りが華やかなソースを作りたいなと考えました。

このソースの組み合わせにはまず、赤みのお肉と相性の良いベリーを思いつきました。
ただし、ベリーの果物感のある酸味だけでは、旨味がない赤ワインソースとなり、偏った味になってしまいます。
そこで、出汁(お肉の旨味)を使わない中で補い方を考えたときに、「フルーツの酸味」と相性の良い「乳製品の濃厚なまろやかさ」が選択肢に入りました。
ですので美味しいジャガイモのピューレを付け合わせとして使用し、ソースを補うような旨味としてバランスを取りました。

最後に料理全体の雰囲気を締めるようなアクセントとなるスパイス「花椒(ホアジャオ)」を組み合わせることで、肉の旨味をたっぷり使った厚みのあるソースでなくとも満足感のあるローストビーフのソースが仕上がります。

この考え方は、家庭では難しいとされる出汁を取って作る料理全般にも応用できます。

また、これは鹿肉の料理によく使う「ソース・グランヴヌール(Sauce grand veneur:ソース・ポワヴラードにグロゼイユを加えたソース)」のバランスに似ており、今回の料理の発想のもとになりました。鹿肉に使うソースをアレンジしつつ、フォン・ド・ヴォーの代用としてジャガイモのピューレを使いながら、牛肉の料理に応用した形ですね。

ベリー系のソースを際立たせるスパイス「花椒(ホアジャオ)」

胡椒を使う方もいらっしゃると思いますが、個人的な好みで花椒(ホアジャオ)を使用しています。私の中で、花椒はベリー系と相性が良いと思っています。例えば、イチゴのマリネでも花椒(ホアジャオ)を使用するとすごく美味しくて、この料理のバランスも今回のローストビーフの参考にしています。

3種のベリーの赤ワインソースにトマトを加えた理由とは?

もともとトマトペーストなどのトマト由来の食材はソースのベースとしてよく使用されます。ソースにトマトを入れる理由は、旨味付けにあります。出汁がないために、足りない旨味を補ったというわけです。

また、今回のローストビーフでは、ベリーをピューレにせず果実のまま使用していますが、ベリーとトマトの果実感は非常に相性が良いと思っています。この組み合わせをサラダに混ぜて食べても美味しいですね。

フルーツを使用すると、お菓子の味わいに寄っていきやすいのですが、一方でトマトは料理のイメージがある食材です。なので、トマトは、フルーツを使用した際に、フルーツが料理の味わいに寄っていくための橋渡しとして活躍します。つまり、トマトを入れることで、フルーツが違和感なく料理の一部になってくれて、まとまりが生まれるのです。

フルーツを料理に使うときのコツ

フルーツを料理に使うときは、フルーツと相性が良く、なおかつ料理を想起させる食材や調味料を使用することが大切です。例えば、サラダにマスカットを使うときは、ディル、エストラゴン、フヌイユなどのハーブを使用すると良いです。また、少しのミントと塩、数滴のライムの汁が入ったりすると、一気にサラダ感が増します。

フルーツを入れるだけでも、華やかな料理になりますが、ただ単純にフルーツを入れるだけでは、平凡で面白味のない料理になってしまいやすいです。個人的には、どんなフルーツを使ってもしっかり料理として着地させたいので、フルーツと親和性の高い食材や調味料を使うようにしています。

ローストビーフを通して楽しんでほしいポイント

ローストビーフは全5回の肉の火入れのコースの第1回ですが、それにふさわしい「お肉の塊を焼く楽しさ」を全面に押し出した料理になっていると思います。触った感じ、香り、見た目などの感覚を頼りに、自分自身で大きなお肉を焼くという作業自体、これまで経験のない方が多いのではないでしょうか。

今回の推しポイントは、素材の組み合わせというよりも「自分の五感でお肉を焼く」ことです。温度や時間などに頼り切るのではなく、自分の感覚で「お肉が焼けるってどういうことなんだろう?」「焼けてくるとどのように変化してくるのだろう?」という部分をお楽しみください。

また、時間をきっちり設定しているのと、多少のブレがあっても美味しく仕上がる料理だと思いますので、怖がることなく動画の指示どおりに進めていきながら、料理の本能的な楽しさに目覚めていただければと思います。その後の4回の肉の火入れがさらに楽しめるはずです。

また、一般的なローストビーフは、焼いた後に1日寝かせて次の日に薄くスライスします。しかし、今回は「お肉を焼く」ことにフォーカスし、焼き上がったその日に厚めに切ってジューシーな状態で食べることを前提にしているので、ジューシーさ、肉肉しさを味わっていただければと思います。

そして、素材の組み合わせも工夫していますので、全部一緒に食べたときの一体感のある美味しさを味わっていただけると嬉しいです。

番外編:ローストビーフの盛り付けの考え方、器の選び方

h.b.:今回の料理はお肉が大きいので、大きめのお皿が良いですね。また、ソースを煮詰めていて濃度が付いているので、なるべく白くてフラットなお皿に盛ると綺麗に映えると思います。

番外編:料理写真を綺麗に撮る方法

ご参考までに、私が自分の料理を撮るときは、富士フイルムの一眼レフ(単焦点レンズ)を使っています。物撮りするときは、単焦点レンズが良いと思っています。

とはいえ、基本的にはスマートフォンなどで撮影するケースが多いのではないでしょうか。その中で上手に撮るコツとしては、大胆に寄って撮ることだと個人的には思います。

また、料理を置く場所も工夫すると良いです。料理の背景に物が入り込み生活感があると、家庭っぽさが出てしまいます。散らかった机の上で撮ったり、棚が背景に写っていたりすると家庭感が出てしまうので、なるべくそれらを写さないように工夫すると、綺麗に撮れますね。

加えて、なるべく自然光で撮ると良いです。ただし夜に撮影するケースが多いと思うので、家の電気の光を太陽光に見立てて、素材にどのように光が当たっているのかを考えながら、反逆光くらいで撮ると良いと思います。そうすると、料理に立体感が出て、美味しそうに見えます。

連載料理の徹底解剖
シェフレピがTwitterルームで毎週日曜に配信している「#シェフレピ深掘りラジオ」の内容を構成したものです。料理の考え方やおいしくするためのポイントを、元料理人であるシェフレピ代表の山本篤が、シェフに根掘り葉掘り聞いていきます。
シェフレピ公式Twitter:https://twitter.com/chefrepi

オーブンを使った肉の火入れは、肉焼きの基本です。牛リブロースの塊肉を家庭用オーブンを使いながら焼いていきます。動画では目安として時間と温度を伝えていますが、肉の表面を押したり同梱する金串で中心温度を測るなどして状態を確かめながら五感を使った火入れを意識することで、よりよい学びが得られるでしょう。

h.b.●エイチ・ビー
福岡県生まれ。高校卒業後、大阪の調理師専門学校に入学。卒業後は大阪市内のミシュラン一つ星のフランス料理店に勤務し、フランス料理から料理人の基礎を学ぶ。その後、東京に移り、ビストロで料理長兼店長を務めた。現在は独立準備のかたわら、「枯朽」の屋号でポップアップイベント「間借り」などを行い、料理を作り続けている。
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