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ETXOLA(エチョラ)|清水和博
バスクの地元のレストランで郷土料理のベースを学んだ
バスクとは、ピレネー山脈の西端、スペインとフランスにまたがって広がる地方の名前で、バスク語というこの地域に住む人たちの言葉に代表されるように、固有の歴史と文化があります。
スペインのバスク地方には、美食の街と呼ばれるサン・セバスティアンのほか、バスク州の中心都市ビルバオなどに世界が注目するレストランが数多くあり、世界中の食を愛する人たちが一生に一度は訪れたいと願う街が集まっています。
「美食の街だから、さぞ凝った料理ばかりなのかというと、そうではないんです。バスク料理は、炭火で肉を焼いただけだったり、海老を焼いただけだったりと、シンプルな料理が多い。焼いた食材に合わせるソースは、種類がありますが、基本はそのソースに合わせるだけというのが、地元の食堂やレストランでは多いんです」と話すのは、シェフレピの新レッスン「魚料理から始めるスペイン・バスク料理」で講師を務める清水和博シェフだ。
清水シェフは、大阪・本町の靱公園(うつぼこうえん)近くにスペイン・バスク料理のレストラン「ETXOLA(エチョラ)」でシェフを務める料理人で、「シンプルだからこそ奥が深い」とバスク料理に魅せられた一人です。
新レッスンでは、バスク料理のなかでも各地の魚介料理のレシピを3品提供しています。どれも「現地で見てきた料理」だと清水シェフは、コロナ禍以前まで毎年必ずバスクに1カ月程度、地元のレストランに研修に入ってバスク料理を学んできました。
「バスク地方には、前衛的な星付きのレストランもたくさんありますが、僕が選んだのは、地元の料理をそのまま出すようなレストランでした。日本人にとってバスク料理は、まだまだ文化的に理解が進んでいない地方だと思うからこそ、基本の部分を学びたいと思ったんです」
魚に対して解像度が高い日本人ならどんどんアレンジできる!
全3回のレッスンでは、カニにアジ、タラ、アサリといった日本でも馴染み深い魚介を使っています。「海と山が近いバスクは、山の養分が海に流れ込んで栄養が豊富なこともあって、新鮮でおいしい魚が港に揚がります。それを使った魚介料理が盛んなんです。実際に、バスクでも使っている魚で、日本とも共通している魚がけっこうあるんですよ」と清水シェフ。一方で、同じような魚種であっても、脂ののり方や身の硬さなどは、日本と異なる部分もあるといいます。
「各国の好みの問題なのかもしれませんが、日本は脂が多くてやわらかい魚に向いた料理が多い一方で、バスクでは、身が締まっていて料理をしても崩れにくい魚を使った料理が多いように思います。そのため、料理を食べたときのテクスチャー(食感)が違うように思います」
そのため、バスクで学んできた料理を、そのまま日本で手に入る魚に置き換えても同じようにはできず、日本の魚に合わせて見直していかないといけないともいいます。
一方でバスクも日本も、盛んな魚料理が独自に発達した点でよく似ているだけでなく、とくに日本人は魚を食べることに対して貪欲で、調理法の選択や味付けなどの好みを語り合えるほど魚に対する解像度が高い国民性もあるので、今回のレッスンは日本人でも楽しめる内容といえそうです。
「魚に対する解像度が高いからこそ、一度レシピ通りに作ってみると、いろいろなアレンジのイメージができるんじゃないかと思います。『ビルバオ風 アジのオーブン焼き』なんてとくに、イワシでも鯛でも応用できそうというのが、ピンと掴めると思うんです。ほかにSTEP1の『ドノスティア風 カニのグラタン』も、ワタリガニを1杯買って、カニ味噌も入れてみたり、タラなどの魚に材料を変えてみたりといった応用レシピもできます。ぜひレッスンに挑戦後も、ご自分で食材を集めて何度も挑戦して自分のレシピにしてもらいたいと思います」
「攻め」と「無謀」は違う。失敗を判断するのは自分自身。
STEP1の「ドノスティア風 カニのグラタン」の調理動画のなかに印象的なシーンがあります。トマトソースを煮詰めているシーンで、鍋にへばりついたソースをこそぎ落としながら「なんやったら、もっと焦がしたろうかな」といいながら、ギリギリまで焦がすことを楽しんでいたのです。
「ギリギリを攻めるというのは、たとえばギリギリまで酸味を利かせたり、塩味を利かせたりすることで、味のバランスや香りといったもののゾーンが広がる、さらに攻めれるゾーンが広がると思うんです」
それは、調理中だけのことではなく、たとえば店に来た常連客に対して「こういう料理が好きかもしれないな」と、コースの1品の味付けや香り、食感を変えて反応を見ることもあるといいます。もし、その攻めが成功すればもっと幅広い味付けや、コースのなかでの緩急が作れるようになる。「もちろん、好みでなければそれ以上は攻めることはありませんが、まずは試してみないとわかりません」と、清水シェフは「攻めること」を楽しんでいます。
「『攻め』と『無謀』は違うので、自分がやってどうなるかわかっている範囲でしかやりません。だって、失敗を判断するのも自分ですから。ケース次第ですけど、野菜が焦げすぎたと思っても、意外と料理としてちゃんと着地したりするんです。そうすると『こうやったらこうなるんだ』ということを発見する楽しさがあります。知れば知るほど、やればやるほど新しい発見がある。それが楽しいから攻めているのかもしれないですね」
同じ方法にこだわりすぎないのも料理上手に必要
「ギリギリを攻める」というのが、清水シェフから学んだ料理上手の1つのポイントだとすれば、もう一つ動画中で清水シェフが口癖のようにいう「こっちでもいいんですけど、こっちの方が好き」という考え方にも、料理上手へのヒントが隠されているように感じます。
「バスクの現地のレストランで働いてみて感じたのは、当たり前のことですが伝統料理といっても、街ごとに違う、レストランごとに違うということでした」と清水シェフ。日本でも、寿司ひとつとっても店ごとに違うように、料理の道筋は1つではないことをわかっているつもりでも、改めてバスクで働いてみて「こうじゃないといけない」といわれることはなかったといいます。
「むしろ、言語化されていないレシピの余白を理解することの方が難しかったですし、今もまだ理解できていない部分ですね。やはり僕はスペイン人ではないので現地の人たちの感覚まではわからないんです。それは、寿司がどこまでが寿司なのかを日本人が感覚的にわかっていることに似ています。多くの人が『それはダメ』と思うラインを理解しているんです」
そういった経験から、改めて「こうじゃないといけない」ということを考えないようになったと思います。それよりもむしろ、他の人のやり方に興味を持つようになり、疑問があればその理由を調べて理解をさらに深めようとするようになりました。
「そうした疑問をもって調べて知ったことは、必ず応用ができる。料理上手は、興味あることに対して、調べたり、いろいろな方法を試すことができる人かもしれませんね」
「自分も料理を始めたころは、本で調べたりして学んできました」という清水シェフ。自分と同じように独学で料理の知識を蓄えようとしている人におすすめの、良いレシピや調理方法など辿り着きやすい方法があるといいます。
「たとえばサルサヴェルデだったら、同じ料理のレシピや、動画での解説をいくつも見比べて、同じことをいっている共通点を探すんです。その共通点は、絶対に外さないおいしさのヒントで、そこがレシピの本質であり、逆にいうとそれ以外は、食材を代用したりしてもいいと思います。同じ方法にこだわりすぎない。そういった考え方も料理上手には必要ですね」
清水和博●しみず・かずひろ
1989年、兵庫県生まれ。中学時代に、「エル・ブジ」のフェラン・アドリア氏をテレビで知り、スペイン料理に興味を持つ。調理科のある高校に進学し、卒業後は大阪の無国籍料理の「KIHACHI」で料理の基礎を学ぶ。2014年にスペインバル「ガストロテカ ビメンディ」のシェフに就任。翌2015年にはバスク料理のレストラン「ETXOLA(エチョラ)」のシェフになる。毎年スペイン・バスクの星付きレストランやワイナリーで1カ月程度研修を繰り返し、バスクの味を追求する。
ETXOLA(エチョラ) オフィシャルサイト Instagram
清水シェフ Twitter Instagram
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
関連商品:「魚料理から始めるスペイン・バスク料理」
「ウサギ肉のバスク風 シードル煮込み」(体験レッスン)