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外食で食べた料理を自分だったらどうつくるかと考えてみる

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大津光太郎|O2(オーツー)

東京・清澄白河にあるモダンチャイニーズレストランで、ミシュランガイドでもビブグルマンを獲得し続ける「O2(オーツ―)」のオーナーシェフの大津光太郎さんは、「料理上手」はお客様の笑顔を思い浮かべながらつくることだといいます。さらに自身の料理のモチベーションを保つのは、外食で刺激をうけることだとも。最後に「料理人が手をかけることでおいしくしたい」と、料理人としての矜持も語ってくれました

料理を楽しくする工夫を積み重ねていたら料理人になった

今回、「ワンランク上の自家製調味料『醬(ジャン)』」のレッスンを考案させてもらいました。日本では手に入りづらかったり、買っても使いきれないような食材や調味料が使う分だけ届くのは、シェフレピならではだと思います。そしてなにより、じっさいに使ったことがない食材に触れてもらえたら、次に自分で料理を考えるときに、これを入れてみようとか、新しい組み合わせを考えるきっかけになるのではないのかと思っています。

食材を切っている時間や煮ている時間を長く退屈に感じるかもしれません。同じ作業の繰り返しではあるで仕方がないことですが、食材に触れることや、少しずつ変わっていく様子を楽しんでもらいながらつくってもらいたいですね。

「料理上手になるには」ということで、僕が料理上手かどうかの評価は、みなさんにおまかせするとしして、料理人として料理をつくっているときは、お客様の「おいしい!」という言葉や自然とこぼれる笑顔を思い浮かべています。精神論みたいですけど、相手を思ってつくる、それが料理の基本中の基本だと思っています。

僕が料理をはじめたのは、小学校5年生で母が亡くなったことがきっかけでした。それまで家事をしてくれていた母親がいなくなったので、自分でなんでもやらないといけない。そのなかには、料理ももちろんありました。

食べることは毎日のことですから、料理も毎日しなければいけません。嫌だなぁと思わず、どうしたら楽しんで料理できるだろう、家族に食べてもらっておいしいといってもらうにはどうしたらいいだろう。そんなことを考えながら料理してきたことが、料理人になった今でも続いているように思います。

中学までは、自分で弁当をつくったり、妹の分のお弁当もつくったりすることもありました。高校になってからは部活がきつくて、弁当づくりはできなくなりましたね。友だちがお母さんの愚痴をいっているのを聞いたりしましたが、家事をしてもらえるのはありがたいことなのになぁと、思っていました。

とはいえ、「大切なものは失って気づく」もので、僕自身も母親が生きていたころは、毎日かかさず料理をつくってくれていることがありがたいことであるとは、まったく思っていませんでした。むしろ、外食が少なく、まわりの友だちが行っているファミリーレストランに行けずにうらやましく思っていた時期もあります。

母の手作り料理は、一番の贅沢なのにね。とくに、今こうやって自分がレストランとか、食の仕事に携わっていると余計に感じます。あのとき母親が、すごく考えてやってくれていたことはとても感謝することなのだと。

大津さんのオリジナル醤「ハーブ醤」。赤タマネギやショウガ、ミョウガ、ディルなどをみじん切りにし、胡麻油のほか、ゴマの炒った香りはなくうま味がある太白胡麻油、辣油、レモンの風味をもつ木姜油(ムージャン油)のあわせオイルで和えてある。大津さん曰く「カツオのタタキにあう醤をつくりたかった」というように、スーパーで買った魚にかけるだけで、レストランの味に早変わりする。

外食することで料理のモチベーションを保つ

僕の料理のアイディアや発想だけでなく、料理したいというモチベーションになっているのは、外食することです。

いろいろなものを食べに行っていて、それこそ今話題の昆虫食を食べに行ったりもします。どちらかというと高級店ではなくて、珍しい国の料理をそのまま出すような店に行ったほうがおもしろいと感じます。街中華も好きで、近所の中華料理店で大将がつくっているチャーハンの手さばきをじっと見ているだけで楽しめるんです。

O2の近くに「みたかや酒場」という居酒屋があります。一品料理がいろいろあって、アジフライなどは、アジをその場でおろして、衣をつけて揚げてくれます。大将の丁寧な仕事ぶりを見ていると、ついつい見惚れてしまいます。

知らなかった料理や調味料、食材の組み合わせを知って、自分だったらこれをどうやって中国料理に落とし込むのか、ということを考えていると自然とアイディアや発想が生まれてくるんです。

そういえば、料理上手で思い出す人物に妻がいました。

僕、朝食は必ず食べて、その分、夜はあんまり食べないようにしているんです。朝食は、妻が作ってくれていて、飽きさせない工夫や食材の組み合わせをしてくれるなど、かなりよく考えてくれていると思います。

今朝は、アメリカの炊き込みご飯、ジャンバラヤを食べてきました。前日に仕込んでくれていたようです。僕、朝はパンをあんまり食べないんで、お米料理が多いですね。

彼女は、福岡を拠点に活躍されている料理研究家の渡辺康啓さんの東京での料理教室に通っていたり、ベトナム料理のクラスにも通っています。生粋の食いしん坊で、彼女の母親も元家庭科の先生で、かなりの料理上手なんです。

そんな彼女は、「あなたは、手がかからない料理が好きだよね」というんです。手がかからないというのは、たとえば沖縄の郷土料理、ニンジンシリシリなどシンプルな料理には反応がよいという意味で、珍しい食材を集めたり、おどろかせようと張り切った料理ほど反応は思ったほどよくないそうです。自分ではまったく気づいていないんですけどね。

炸醤(ザージャン)は、肉みその醤。麻婆豆腐が手軽に作れるほか、そのままご飯にかけるだけでもおいしい。

ありふれた食材を料理人の手間でおいしい料理にしたい

妻からいわれた「わざわざ高級食材や珍しい食材を使ったりしないけど、丁寧につくることでおいしくなる料理が好き」という僕の好みは、O2でやろうとしていることと一緒だと思っています。

高くて良い食材を使っておいしい料理にするのは、もちろんすごいことだと思うし、自分も扱ってみたいと思いはしますが、僕自身は、決して高いとはいえない食材でも手間をかけて、料理人の手でおいしくしたいと思っています。

そう考えるのは、おそらく僕が家庭料理から料理をはじめたからではないかと思っています。僕の時代は、『料理の鉄人』など、テレビや漫画などで料理人が活躍していた頃でした。珍しい食材を使ったり、まだ知らない海外の料理をつくったりする料理人に憧れたという料理人仲間ももちろんいます。

でも、僕はそういうカッコよさではなくて、もうちょっと生活に近いところから料理をはじめました。毎日食べられる、たとえばおいしいチャーハンをつくれる人になりたかったんです。じっさい、高校卒業してから調理師専門学校に通って、中華を専門にしようと思ったのは、おいしいチャーハンがつくれたら毎日うれしいだろうな、というのがきっかけでしたから。

今回のレッスンでは3つの醤のつくり方をお教えしました。どれもつくってしまえば、あとの料理は簡単で、食材とただ混ぜたり、かけたりするだけで、毎日の料理がぐっと本格的な外食の味になります。なんなら、そのままご飯にかけるだけでも十分、ワインランクアップしたご飯になると思います。毎日の食卓がちょっとだけよくなる、そんな楽しみを感じてもらえたらと思います。

ちなみに何度かでてくるチャーハン、僕、すごく好きなんですよ。手軽だけど、あの料理のなかに中国料理の技術が凝縮されています。鍋ふりや、卵と油のバランスっていうのをしっかり考えないとおいしくできない。奥が深い料理です。もしシェフレピで、次回のレッスンがあるなら、チャーハンの奥深さを語りたいですね。

XO醤は、干貝柱や干しエビ、桜エビ、金華ハムなど、乾物や加工品などうま味が強い食材を使っている。茹でた麺にそのまま和えるだけで、レストランの味になる。

大津光太郎(おおつ・こうたろう)
1982年生まれ、東京都出身。 華調理製菓専門学校を卒業後、東京・赤坂「トゥーランドット臥龍居」に入り、15年間中国料理を学ぶ。トゥーランドット臥龍居を退職後、1年間の準備期間を経て2018年3月に「O2(オーツー)」を開く。2023年で創業5年、既成概念にとらわれない唯一無二のモダン中華を提供し、支持を集め続けている。
O2 Instagram:https://www.instagram.com/o2_kiyosumishirakawa/

連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。

関連商品:「ワンランク上の自家製調味料「醬(ジャン)」

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