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肉の焼き方に正解はないから悩む。だけど「おいしければ」いいんです

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福田浩二|プルマン東京

ラムバサダーのイベントでは、ラムチョップを1日1000本も焼くこともあるという福田シェフは、シンプルに焼いたラム肉のおいしさを、ヴァリエーション豊かなソースで食べてもらおうとさまざまな提案をしてきました。なかでも、福田さん個人の好みは「洗練されたヨーロッパっぽい食べ方よりも、今回のように調味料やスパイスをつけて食べるのがストリートっぽくて好き」といいます。

多民族国家のオーストラリアや、ユニークな食材の宝庫であるニュージーランドを中心に世界各国で料理をしてきた福田シェフだからこそ表現できる、国籍やジャンルを超えたオルタナティブな料理について、その源泉を語ってもらいました。

ニュージーランドとオーストラリアで学んだ多様性

高校を卒業してから飲食業界に入ったという福田シェフですが、一時期飲食から離れ、アルバイトをしながらファッションモデルも経験するなど、2年ほど料理以外のことを学ぼうとしていた時期があったといいます。

新しい発見が多い時期だったといいますが、それでも「何かもの足りない」と感じていたと感じ、「もう一度料理をしよう」と決意した福田シェフの目についたのが、ニュージーランドのイタリアンレストランの料理長の募集でした。幸運にも採用され、英語もほとんど話せなかったにも関わらず、福田シェフは海を渡ります。

ニュージーランドに8年務めた中で、オーストラリアのスターシェフ、ルーク・マンガン氏と出会います。2007年から日本支店「ソルト・バイ・ルーク・マンガン」の初代料理長をしながら、マンガン氏の片腕としてアメリカの元大統領やヨーロッパ某国の皇太子の邸宅で料理をするなど世界各国を料理してまわります。

「オーストラリアは、移民の国なんです。日本はもちろん、イギリスやイタリア、インド、アフリカやアジアなど、本当にいろいろな国の人がいて、その分、いろいろな料理がある。だからオーストラリア料理ってなんなんだといわれて説明するのは難しいんですけど、『おいしければいい』という自由なところがあると思います。そしてそういうのが自分に合っているんだと思います」

珍しい食材ではなく、組み合わせを楽しんでもらう

「おいしければいい」というのは、福田シェフがよく使う言葉です。人それぞれ基準が違う「おいしさ」だからこそ根拠や実態が必要で料理のジャンルを気にしてしまうのですが、福田シェフはジャンルにとらわれずイタリアンもインド料理も、アジアやアフリカの料理をも取り込んで「おいしければいい」と言い放ちます。

一見”無責任”にも感じるその言葉の裏の裏には、「自分はこれをおいしいと思うけど、あなたはどう?」という問いかけも含まれているように感じます。そしてその問いかけの先には「私もそう思う!」と答えてくれる人との“最高の出会い”を、福田シェフがもっとも大切にしているようでなりません。

「海外では日本以上にラムを食べるので、僕もいろいろなラム料理作ってきましたけど、しっくりくるのは中華系だったりとか、中東を含むアジア系がうまいなぁと思うんですよね。なんかストリートフード的な味わいっていうんすかね。ヨーロッパの料理だと骨から出汁をとってソース作るように行程を重ねていくのもおいしいんですけど、『うまいな!』っていうのはこっち系の、ヨーグルトとかチーズといった乳製品や、クミンなどのスパイス、あとは野菜を合わせていく方が好き。相性のよさで選んでるっていう感じです」

今回のレシピでも、ラムを操りながらもギリシャの羊のチーズ「フェタ」にデーツを合わせたり、フムスのようなひよこ豆のピュレなどは中東のテイストを感じます。そこに日本のミックススパイスの七味唐辛子をサプライズで使うなど、世界各国の食材を自由自在に使いこなしています。

肉の焼き方の一つの基準として真似してみてほしい

ラムバサダーのイベントでは、1日1000本以上もラムチョップを焼くこともあるというラム焼きの達人、福田シェフに今回のレシピで披露してくれた肉焼きのポイントを教えてもらいました。

「ラムチョップを焼いたことはあっても、フレンチラックを焼いたことがある人は少ないんじゃないかな。しかも家で(笑)。まず、焼こうとはまず思わないですよね。骨付きだと火が入り辛い部分もあるので、うまく全体が焼けないようなイメージがあるんじゃないかと。だけど、今回のように一面一面、それぞれの部分に合わせて焼いていくと、それほど難しくはないことが分かってもらえると思います」

脂身が被った部分は、じっくり弱火で長時間焼く。骨についたバラの部分は、ラムから出た油をまわしかけながら焼いてく。厚手のフライパンを使うのも失敗し辛いポイントです。

「焼きすぎてるのかな、生じゃないのかな、本当にこれであってるのかっていうのが皆さんが迷う部分だと思います。今回は、僕が今おいしいと思う焼き方をお伝えしたわけですけど、それを一度真似してやってみて、これだと自分は焼きすぎだと思うとか、もっとバラの部分を焼ききった方がいいとか、好みを見つけていってほしいですね。料理を20年以上やっている僕も、未だに肉の焼き方は悩んでます。どうしたらおいしく焼けるかなぁ、って考え続けているんですよ。もっとおいしくできるんじゃないかって、試行錯誤をしています。なので、今回お教えした焼き方も、あくまで一つの方法。もしかしたら別のやりかたもあるかもしれません。でもそれでいいんですよ『おいしければ』ね」

福田浩二●ふくだ・こうじ
大阪府出身。1990年、食品産業高等学校を卒業。ヒルトンプラザ大阪「ハーレークインインターナショナル」で料理人としてのキャリアをスタート。1998年にニュージーランドに渡ってからは拠点を海外に移し、オーストラリアで「Salt by Luke Mangan」 のオーナーシェフであるルーク・マンガン氏に出逢う。同氏と一緒に世界を飛び回り、数々のレストランの開業をエグゼクティブレベルで経験し、感性と技術を磨く。2006年に帰国し、約5年に渡りルーク・マンガングループの新店舗開業に精力的に努め、その後、2011年 「Salt by Luke Mangan」「 World wine Bar」 エグゼクティブシェフに就任。その後も、オセアニアコンセプト「Terra Australis」のエグゼクティブシェフに就任。以降も、オーストラリアングリル & シーフードレストラン「South」、新丸の内ビルにあるNZコンセプト「Zealander」の開業を成功させる。2019年、東京・田町のプレミアムホテルブランド「プルマン東京」のエグゼクティブシェフに就任した。

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