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シャリアピンステーキとは?帝国ホテルが生んだ伝説の洋食の魅力

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はじめに

シャリアピンステーキという名前を聞いて、どんな料理を思い浮かべますか?実はこの料理、日本の洋食文化が生み出した独創的なステーキなんです。1936年、世界的に有名なロシア人オペラ歌手フョードル・シャリアピンの来日がきっかけで考案され、帝国ホテルの正式メニューとなったこの料理は、玉ねぎの力で肉を驚くほど柔らかくする画期的な調理法が特徴です。今回は、帝国ホテルで生まれたこの伝説的な料理の魅力に迫ってみましょう。

日本生まれの独創的ステーキ、その正体とは

シャリアピンステーキは、牛肉を玉ねぎのみじん切りに漬け込んでから焼き上げる、日本独自のマリネステーキです。一般的なステーキとは異なり、肉を薄く叩いて伸ばし、たっぷりの玉ねぎと一緒に寝かせることで、驚くほど柔らかな食感を実現します。

この料理の最大の特徴は、玉ねぎに含まれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の働きを利用している点にあります。この酵素が肉の繊維を分解し、硬い肉でも箸で切れるほどの柔らかさに変身させるのです。まさに、科学と料理の見事な融合と言えるでしょう。

興味深いことに、この料理は日本以外の地域ではほとんど知られていません。洋食という分野に属しながらも、完全に日本オリジナルの料理として発展してきたのです。

帝国ホテルで生まれた90年の歴史

1936年、世界的なバス歌手フョードル・シャリアピンが来日公演のため帝国ホテルに滞在しました。当時、歯痛に悩まされていた(一説には入れ歯の不具合とも)シャリアピンは、「柔らかいステーキが食べたい」という要望を出したのです。

この難題に挑んだのが、帝国ホテル「ニューグリル」の料理長だった筒井福夫シェフでした。筒井シェフは、日本料理のすき焼きからヒントを得たとも言われています。玉ねぎを使って肉を柔らかくするという、当時としては革新的なアイデアを思いつき、見事にシャリアピンの要望に応えたのです。

この特別な一皿は大好評を博し、帝国ホテルの正式メニューとして「シャリアピンステーキ」の名前で登場することになりました。以来、帝国ホテルの名物料理として今日まで受け継がれています。現在でも帝国ホテルでは、シャリアピンステーキだけでなく、シャリアピンパイなど、この調理法を応用した料理が提供されているんです。

玉ねぎマジックが生む、驚きの柔らかさ

シャリアピンステーキの最大の魅力は、なんといってもその柔らかさです。通常、ステーキ用の高級部位でなくても、この調理法を使えば驚くほど柔らかく仕上がります。

肉を薄く叩いて伸ばすことで、物理的に繊維を断ち切ります。そこに玉ねぎのみじん切りをたっぷりとまぶし、30分から1時間ほど漬け込むのです。この間に玉ねぎの酵素がじわじわと肉に浸透し、タンパク質を分解していきます。

さらに、玉ねぎの甘みが肉に移ることで、独特の風味も生まれます。焼き上げた後も、漬け込みに使った玉ねぎをソースに活用することで、無駄なく美味しさを引き出せるのも魅力的ですね。

家庭でも楽しめる、アレンジの広がり

シャリアピンステーキは、今では多くの洋食レストランで提供されていますが、地域や店によって様々なアレンジが加えられています。基本の玉ねぎソースに、にんにくを加えたシャリアピンソースや、赤ワインでコクを出したバージョンなど、バリエーションは実に豊富です。

最近では「シャリアピンステーキ丼」という、ご飯の上にステーキを乗せた丼物スタイルも人気を集めています。また、牛肉だけでなく豚肉で作る家庭も増えており、より手軽に楽しめる料理として定着しつつあります。

シャリアピンハンバーグという派生料理も生まれており、ハンバーグにシャリアピンソースをかけて楽しむスタイルも定番化しています。こうした柔軟な発展を遂げているのも、日本の洋食文化ならではと言えるでしょう。

必要な材料と、その特徴的な使い方

シャリアピンステーキの基本材料は実にシンプルです。牛肉(ステーキ用)と玉ねぎ、これだけあれば基本の料理は作れます。牛肉は、もも肉やランプなど、比較的リーズナブルな部位でも十分美味しく仕上がります。

玉ねぎは、新鮮で水分の多いものを選ぶのがポイントです。みじん切りにする際は、あまり細かくしすぎず、5mm角程度に切ると、酵素の働きと食感のバランスが良くなります。漬け込み用とソース用で、1人前につき中サイズの玉ねぎを1個は用意したいところです。

ソースには、醤油、みりん、酒などの和風調味料を使うことも多く、これが日本の洋食らしさを演出しています。バターで玉ねぎを炒め、調味料を加えて煮詰めるだけで、本格的なシャリアピンソースが完成します。

伝統の調理法、プロの技を家庭でも

本格的なシャリアピンステーキの作り方は、意外とシンプルです。まず、牛肉を肉叩きで薄く伸ばし、両面に塩・胡椒で下味をつけます。ここで肉の厚さを均一にすることが、仕上がりの美しさにつながります。

次に、みじん切りにした玉ねぎを肉の両面にたっぷりとまぶし、ラップをして冷蔵庫で30分から1時間寝かせます。漬け込み時間は長すぎると肉が柔らかくなりすぎて崩れやすくなるので、1時間を目安にするのがおすすめです。

焼く際は、漬け込みに使った玉ねぎを軽く落とし、強火で両面をさっと焼き色をつけてから、中火でじっくりと火を通します。取り除いた玉ねぎは、そのままフライパンでバターと共に炒め、醤油ベースの調味料を加えてソースに仕上げます。

最後に、焼き上がったステーキにソースをたっぷりとかければ完成です。付け合わせには、人参のグラッセやマッシュポテトなど、洋食の定番を添えると、より本格的な一皿になります。

まとめ

シャリアピンステーキは、1936年に帝国ホテルで考案された、日本が世界に誇るべき独創的な洋食です。ロシア人歌手の要望から生まれたこの料理は、玉ねぎの酵素を利用して肉を柔らかくするという、科学的にも理にかなった調理法が特徴です。

90年の歴史を持ちながら、今なお進化を続けるこの料理は、高級レストランから家庭の食卓まで、幅広く愛されています。牛肉と玉ねぎというシンプルな材料から生まれる驚きの柔らかさと深い味わいは、まさに日本の洋食文化の結晶と言えるでしょう。

次回洋食レストランを訪れた際は、ぜひシャリアピンステーキを注文してみてください。あるいは、ご家庭でも意外と簡単に作れるので、特別な日のディナーに挑戦してみるのもいいかもしれません。きっと、その柔らかさと美味しさに、あなたも驚かれることでしょう。

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