この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

Table of Contents
はじめに
葛湯(くずゆ)は、葛粉を水で溶いて加熱し、とろみをつけた日本の伝統的な飲み物です。透明感のある優しい口当たりと、体を芯から温めてくれる特性から、寒い季節や体調を崩したときの滋養食として、古くから日本人に愛されてきました。
万葉集にも詠まれた秋の七草の一つである葛。その根から採れる葛粉を使った葛湯は、単なる飲み物ではなく、日本の食文化と深く結びついた存在です。病人や子供の栄養補給、冬の寒さ対策として、世代を超えて受け継がれてきたこの飲み物には、先人たちの知恵と優しさが詰まっています。
葛湯の定義と基本的な特徴
葛湯は、葛粉を水で溶いて砂糖を加え、鍋で加熱しながら透明になるまで練って作る飲み物です。最大の特徴は、葛粉に含まれるでんぷんによって生まれる独特のとろみ。加熱することで白色から透明へと変化し、滑らかで優しい口当たりになります。
低カロリーながらも、栄養成分は葛粉による炭水化物と砂糖の糖分がほとんど。若干のミネラル成分を含みますが、ビタミンはほとんど含まれていません。
本葛で作るものが最高級品とされ、それに和三盆糖を混ぜたものが葛湯としても最高級品となります。しかし現在、葛粉と称して販売されているものの多くは、実はジャガイモやサツマイモ、トウモロコシから採ったでんぷんです。一般家庭で作られる葛湯も、葛の代用品が用いられていることが多いのが実情ですね。
葛粉のみで作ると透明か半透明で砂糖の甘味を感じるだけですが、抹茶やおろした生姜などを混ぜることで、風味に変化をつけることができます。コーヒーや柑橘類の搾り汁を入れて飲むことも行われ、そうした様々な風味のものがインスタント商品として市販されています。あられをトッピングすることもあり、アレンジの幅は意外と広いのです。
万葉の時代から続く葛の歴史
葛は万葉集にも詠まれた秋の七草の一つで、古くから日本文化に根付いている植物です。古くは中国の薬草書に記載があり、日本では8世紀頃、すでに「黒葛」として風土記に記されていることがわかっています。当時から葛の認識があったことは確かなようです。
地域によっても独自の歴史が伝わっています。石川県の宝達山では、中世末期、金鉱山の技術者が過酷な採掘作業を行う人たちの健康管理に役立てようと、山に自生していた葛根を掘り、漢方薬として葛粉づくりを始めたのが「宝達葛」の起源とされています。医者がいない時代に、人々の健康を守るために生まれた知恵だったのです。
奈良の吉野地方は、特に良質な葛の産地として知られています。江戸時代の天保十三年(1842年)には、松屋本店の田螺庵主が吉野本葛をもって葛菓子『吉野葛湯』を創製し、『吉野拾遺』と銘づけて発売しました。この名前は、後醍醐天皇の吉野遷幸にちなんだものと言われています。
葉は湯がいて食し、花は乾燥して薬に、茎は繊維に、根は葛粉に…と捨てるところがないと昔から重宝されてきた葛。その多様な利用法は、日本人の自然との共生の知恵を物語っていますね。
とろみと透明感が生む独特の食感
葛湯の最大の魅力は、何と言ってもそのとろみと透明感です。葛粉に含まれるでんぷんは、加熱することで糊化し、独特の粘性を生み出します。この粘性が、飲み物でありながら食べ物のような満足感を与えてくれるのです。
葛粉の原料である吉野本葛は、クズというマメ科の植物から採った澱粉です。大豆と同じマメ科の植物特有の『イソフラボン』を含んでいるのが特徴。葛根そのものには、イソフラボン誘導体であるダイゼイン・ダイジン・プエラリンなどが微量含まれており、これらの成分が葛湯の機能性を支えています。
ちなみに葛でんぷんの粒子の大きさは5~20マイクロメートルと、澱粉のなかでも小さいのが特徴です。この細かい粒子が、滑らかで上品な口当たりを生み出しているのですね。
加熱の過程で白色から透明へと変化する様子は、まるで魔法のよう。しっかりと加熱することがポイントで、ポットのお湯を注いでかき混ぜただけでは熱が足りない場合があります。透明になるまで加熱することで、葛粉本来の風味と食感が引き出されるのです。
本葛で作った葛湯には、独特の香りがあります。和食屋さんのデザートで食べる葛切りのあの香りです。この香りこそが、本物の葛粉を使った証。代用品では決して味わえない、本葛ならではの魅力と言えるでしょう。
吉野本葛と代用品の違い
葛湯を語る上で避けて通れないのが、本葛と代用品の違いです。最高級品とされる吉野本葛は、奈良県吉野地方で作られる本葛粉のこと。良質な水と冬の寒さという自然条件に恵まれた吉野地方は、古くから葛の名産地として知られてきました。
本葛粉の製造には、「吉野ざらし」と呼ばれる伝統的な製法が用いられます。まず、葛根を砕いて桶に入れ、水でかき混ぜ、沈殿を待ちます。浮いた不純物を取り除き、水を替えてかきまぜ、沈殿させる作業を何度も何度も繰り返した後に乾燥させたものが葛粉です。この手間のかかる工程が、純度の高い上質な葛粉を生み出すのです。
一方、現在市販されている「葛粉」の多くは、実はジャガイモやサツマイモ、トウモロコシから採ったでんぷんです。これらは葛粉の代用品として使われており、イモデンプン特有の苦味やえぐみがあります。価格は本葛に比べて安価ですが、風味や食感は本葛とは異なります。
本葛100%の製品は「本葛」または「吉野本葛」と表示されていますが、価格は代用品に比べてかなり高価です。しかし、その価値は十分にあると言えるでしょう。本葛で作った葛湯の滑らかさ、透明感、そして独特の香りは、一度味わったら忘れられない美味しさです。
あなたも本葛と代用品、両方を試してみて、その違いを実感してみてはいかがでしょうか?
体を温める伝統的な飲み方
葛湯は古くから、体を温める飲み物として親しまれてきました。葛根には発汗・解熱・鎮痙作用などがあり、初期の風邪の寒気をやわらげ、熱を取り、喉の渇きを癒したり下痢などにも効果があると言われ、民間療法として伝統的に用いられています。
基本的な作り方は、葛粉を水で溶いて砂糖を加え、鍋で加熱しながら透明になるまで練るというもの。一般的な一人分の目安は、葛粉10グラムに対して水100ミリリットル程度です。砂糖は好みに応じて加減してください。
生姜を加えるアレンジも人気があります。ただし、おろした生姜は手足の先を暖めますが深部体温は冷やす効果があるため、体を温める効果を期待するなら、乾燥させて粉末にした生姜がよいとされています。この使い分けは、意外と知られていない知恵ですね。
寒い冬の夜、温かい葛湯を一口飲むと、じんわりと体が温まっていくのを感じます。そのとろみが喉を優しく包み込み、心まで温かくなるような気がするのです。
まとめ
葛湯は、葛粉を使った日本の伝統的な飲み物で、万葉の時代から続く長い歴史を持っています。とろみのある優しい口当たりと体を温める特性から、病人や子供の滋養食として、また寒い季節の飲み物として、世代を超えて愛されてきました。
本葛で作るものが最高級品とされますが、現在市販されている多くの「葛粉」は、ジャガイモやサツマイモなどのでんぷんを使った代用品です。本葛と代用品では、風味や食感に大きな違いがあります。
葛根には発汗・解熱作用があり、民間療法として風邪の初期症状の緩和に用いられてきました。また、イソフラボン誘導体を含むことから、近年では様々な健康効果も注目されています。
作り方は、葛粉を水で溶いて砂糖を加え、透明になるまで加熱するというシンプルなもの。生姜や抹茶、柑橘類の搾り汁などを加えてアレンジすることもでき、現代では様々な風味のインスタント商品も販売されています。
吉野本葛に代表される伝統的な製法を守りながらも、現代の食生活に合わせた進化も見られる葛湯。その優しい味わいと温もりは、これからも日本の食文化の中で大切に受け継がれていくことでしょう。寒い季節には、ぜひ一杯の葛湯で心と体を温めてみてください。























