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参鶏湯(サムゲタン)の魅力を徹底解説:韓国薬膳スープの歴史と特徴

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「参鶏湯(サムゲタン)」についてお話ししていきたいと思います。参鶏湯は、韓国を代表する薬膳料理として日本でも広く親しまれています。丸鶏の中に高麗人参やもち米、なつめなどを詰めて長時間煮込んだこの料理は、見た目のインパクトもさることながら、その滋味深い味わいで多くの人々を魅了してきました。韓国では夏バテ防止の「三伏(サムボク)」の料理として知られ、暑い夏にあえて熱いスープを飲むという独特の食文化を象徴する一品でもあります。

参鶏湯が語る韓国の食文化

参鶏湯という名前には、それぞれ深い意味が込められています。「参(サム)」は高麗人参、「鶏(ゲ)」は鶏肉、「湯(タン)」はスープを意味し、まさに料理の本質を表現した名称と言えるでしょう。

この料理の最大の特徴は、内臓を取り除いた若鶏の腹の中に、高麗人参をはじめとする漢方食材やもち米、くるみ、なつめ、ニンニクなどを詰め込んで煮込む点にあります。専門店では烏骨鶏を使った「オゴルゲタン(烏骨鶏湯)」や、漆の木の皮と一緒に煮込んだ「オッケタン(漆鶏湯)」といった高級版も提供されています。

韓国では、日本の土用の丑の日にウナギを食べるのと同様に、盛夏の三伏(夏の最も暑い時期の3つの期間)の時期に参鶏湯を食べる習慣があります。暑い夏にあえて熱いスープを飲むことで、体の内側から活力を取り戻すという考え方は、まさに「以熱治熱(イヨルチヨル)」という韓国独特の健康観を反映していますね。

日本統治時代に生まれた意外な歴史

参鶏湯の歴史を紐解くと、意外な事実が浮かび上がってきます。朝鮮王朝時代には鶏肉料理自体があまり普及しておらず、三伏にはユッケジャンやポシンタンが食されていました。

参鶏湯が誕生したのは、日本統治時代の朝鮮においてです。朝鮮総督府が農村の副業として養鶏を奨励したことで、1910年代から鶏肉料理が徐々に普及し始めました。1917年には料理研究家の方信榮が「タックク(鶏肉の入ったスープ)」を、1924年には李用基が「ペクスク(丸鶏の水炊き)」を紹介しています。

参鶏湯の原型である「鶏参湯(ケサムタン)」は1920年代には存在していました。1930年刊行の『日本地理風俗大系』には「夏の三カ月間、人参と糯米の少しばかりを雌鶏の腹腔中にうずめて、その姿のまま煎じ出した液を鶏参湯と称し、一碗ずつ飲用すれば、滋強に効あり万病に冒されず」という記述があります。当時は富裕層が薬用スープとして少しずつ飲むものだったようです。

現在の形になったのは1960年代の韓国においてです。朝鮮戦争休戦後に高麗人参が普及すると、粉末だった人参が丸ごと入れられるようになり、名称も「鶏参湯」から「参鶏湯」へと変わりました。これ以降、夏の代表的な料理として定着していったのです。

滋養強壮スープの三つの魅力

参鶏湯の魅力は、大きく三つの要素に集約されます。

まず第一に、じっくりと煮込まれた鶏肉の柔らかさです。最低でも2〜3時間、長い場合は丸一日かけて煮込まれた鶏肉は、箸で簡単にほぐれるほど柔らかくなります。軟骨まで食べられるほどに煮込まれた鶏肉は、まさに”とろける”という表現がぴったりですね。

第二に、高麗人参をはじめとする薬膳食材の滋味深い味わいがあります。高麗人参特有のほのかな苦みと、なつめの自然な甘み、ニンニクの香ばしさが複雑に絡み合い、深みのあるスープを作り出します。

そして第三に、もち米が生み出す独特の食感と満足感です。鶏の腹に詰められたもち米は、鶏の旨味をたっぷりと吸い込み、おかゆのような優しい食感になります。これだけで一食分の満足感が得られるのも、参鶏湯の大きな魅力と言えるでしょう。

地域で異なる参鶏湯のバリエーション

参鶏湯には、地域や店舗によってさまざまなバリエーションが存在します。

基本の参鶏湯以外にも、スッポンやアワビ、鯉などを加えた豪華版の「ヨンボンタン(龍鳳湯)」や、鶏を半分にした「パンゲタン(半鶏湯)」といったバリエーションがあります。これらは価格帯や食べる人数に応じて選べるのが嬉しいですね。

また、中国にも参鶏湯と類似した鶏肉のスープ料理が存在します。福建料理の「清燉全鶏」や台湾料理の「麻油鶏」、薬膳料理の「燉鶏湯」や「公鶏湯」などがそれにあたります。ただし、これらは冬に食される、材料に米を用いない、鶏の中に材料を詰め込まないなど、参鶏湯とは異なる特徴を持っています。

最近では日本でも、炊飯器や圧力鍋を使った簡易版のレシピが人気を集めています。手羽元を使った手軽なバージョンも登場し、家庭でも気軽に楽しめるようになりました。本格的な味わいには及ばないかもしれませんが、参鶏湯の雰囲気を手軽に楽しめるのは魅力的ですよね。

参鶏湯を彩る六つの主要食材

参鶏湯の深い味わいを生み出す主要な食材について詳しく見ていきましょう。

若鶏は、参鶏湯の主役となる食材です。内臓を取り除いた丸鶏を使用することで、骨からも旨味が溶け出し、濃厚なスープが生まれます。専門店では烏骨鶏を使用することもあり、より滋養強壮効果が期待できるとされています。

高麗人参は、参鶏湯の「参」の部分を担う重要な食材です。独特の香りと苦みが特徴で、滋養強壮の効果があるとされています。ただし、発熱時に摂取すると動悸を誘発する可能性があるため、体調不良時は注意が必要です。

もち米は、鶏の腹に詰められ、鶏の旨味をたっぷりと吸収します。長時間煮込むことで、おかゆのような優しい食感になり、スープと一体となった満足感のある一品に仕上がります。

なつめは、自然な甘みを加え、薬膳効果も期待できる食材です。韓国では古くから健康食材として重宝されており、参鶏湯には欠かせない存在となっています。

ニンニク生姜は、香味野菜として重要な役割を果たします。長時間煮込むことで辛みが和らぎ、深い香りとコクをスープに与えます。これらの食材が複雑に絡み合うことで、参鶏湯特有の奥深い味わいが生まれるのです。

本場韓国の伝統的な調理法と食べ方

参鶏湯の調理は、シンプルながら時間と手間がかかる作業です。

まず、鶏の腹から内臓を丁寧に取り出し、そこに洗ったもち米、高麗人参、なつめ、栗、松の実、ニンニクなどを詰め込みます。材料を詰めた鶏を水に入れ、最低でも2〜3時間、長い場合は丸一日かけてじっくりと煮込みます。煮込む際に長ネギを加えることもあり、これがスープに深みを与えます。

韓国では、調理時にはほとんど味付けをしません。これは素材本来の味を大切にする韓国料理の特徴でもあります。熱々のスープに入れて、一人一羽ずつトゥッペギ(小さい土鍋)で提供されるのが本場のスタイルです。

食べ方にも独特の作法があります。食卓で塩やコショウ、キムチなどで味を整えながら食べるのが一般的です。小皿に塩を入れ、少量のスープで溶いて、そこに肉片をひたして食べる方法もあります。よく煮込まれた鶏肉は簡単に骨がはずれ、軟骨まで食べることができますが、小骨は鋭くとがった形に砕けることがあるため注意が必要です。

スープを飲み終えた後、残ったスープにご飯を入れて雑炊のようにして食べるのも、韓国では一般的な楽しみ方です。最後の一滴まで無駄にしない、まさに”完食”の文化と言えるでしょう。

まとめ

参鶏湯は、単なる鶏肉のスープ料理ではありません。日本統治時代から現代に至るまでの歴史的変遷を経て、韓国の夏の風物詩として定着した、文化的にも栄養学的にも価値の高い薬膳料理です。高麗人参をはじめとする薬膳食材と、じっくりと煮込まれた鶏肉が生み出す滋味深い味わいは、一度食べたら忘れられない魅力があります。

韓国では夏バテ防止の三伏料理として、日本では寒い季節の温まる料理として、それぞれの国で異なる楽しまれ方をしているのも興味深い点です。最近では家庭でも手軽に作れるレシピが普及し、より身近な料理となってきました。

本格的な参鶏湯を味わいたい方は専門店で、手軽に楽しみたい方は家庭でアレンジレシピを試してみるのも良いでしょう。いずれにせよ、この滋養強壮スープが持つ深い味わいと文化的背景を知ることで、より一層参鶏湯を楽しむことができるはずです。

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