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はじめに
ビーツという野菜をご存知でしょうか?鮮やかな赤紫色が印象的なこの根菜は、「食べる輸血」という異名を持つほど栄養価が高く、世界中の食卓で愛されています。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、ボルシチに欠かせない食材として、あるいはスーパーフードとして、近年注目度が急上昇している野菜です。
赤い宝石、ビーツの正体とは
ビーツは、ヒユ科の二年生植物で、正式にはテーブルビート、ビートルート、レッドビート、ガーデンビート、日本名では火焔菜(カエンサイ)など、実に多くの名前で呼ばれています。その名前の由来は、ケルト語で「赤」を意味する「bette」から来ているとされ、まさにその鮮やかな色を表現した名前と言えるでしょう。
根菜として分類されるビーツですが、実は砂糖の原料となるテンサイ(甜菜)と同じ仲間なんです。だからこそ、あの独特の甘みがあるのかもしれませんね。一般的には深い赤紫色の根を持ちますが、品種によっては山吹色や、赤と白の縞模様を持つものもあり、その多様性には驚かされます。
ビーツ特有の”土っぽい”味わいは、ゲオスミンという成分によるもの。この成分がビーツ自身から生成されるのか、土壌微生物によるものなのか、実はまだ完全には解明されていないそうです。この独特の風味、最初は苦手と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、慣れてくるとクセになる味わいなんですよ。
地中海から世界へ:ビーツの歴史物語
ビーツの祖先であるシービートは、地中海沿岸が原産地とされています。その歴史は驚くほど古く、エジプト第3王朝のサッカラのピラミッドからテーブルビートが発掘されているほど。紀元前8世紀のメソポタミアには既にビーツについての記述があり、古代ギリシアの哲学者テオプラストスは「大根に似た野菜」として記録を残しています。
興味深いことに、古代ローマ人はビーツを重要な健康食品として、さらには媚薬としても考えていたとか。当時の人々の食への探求心が伺えますね。ただし、食用として本格的に広まったのは2〜3世紀頃からとされ、当初は根よりも葉の部分が主に利用されていました。
中世ヨーロッパでは一般的な野菜として栽培され、18世紀にはドイツで砂糖を抽出する技術が開発されました。そして現代ではボルシチをはじめ、世界各地で独自の調理法が生まれ、それぞれの土地の食文化を反映した料理に使われています。
食べる輸血と呼ばれる理由
ビーツが「食べる輸血」と呼ばれるのには、ちゃんとした理由があります。まず、その鮮やかな赤い色。これはベタシアニンという色素によるもので、見た目からして血液を連想させますよね。でも、それだけじゃないんです。
ベタシアニンのほか、葉酸、カリウム、硝酸塩、食物繊維などが豊富に含まれています。特に硝酸塩は体内で一酸化窒素に変換され、血管を拡張して血流を改善する効果があるとされています。また、葉酸は赤血球の生成をサポートするため、こうした栄養成分と鮮やかな赤い色から『食べる輸血』という名がついたのです。
最近では「スーパーフード」としても注目を集めており、その栄養価の高さから世界中の健康志向の人々に愛されています。ただ、食べ過ぎると尿が赤くなることがあるので、初めて食べる方は驚かないでくださいね。これは無害な現象で、ビーツの色素によるものです。
世界を旅するビーツ料理
ビーツの調理法や味付けは、まさに”国や地域によって大きく異なる”という言葉がぴったり。それぞれの土地の知恵と文化が詰まった、まさに食文化の鏡のような存在です。
最も有名なのは、やはりロシアやウクライナの伝統料理「ボルシチ」でしょう。ビーツの赤い色がスープ全体を美しく染め上げ、サワークリームの白とのコントラストが食欲をそそります。ビーツは冬の保存食としても重要な役割を果たしてきました。
一方、地中海地域では、オリーブオイルとレモンでマリネしたビーツサラダが定番。中東では、ヨーグルトと合わせたディップとして楽しまれています。北欧では、ニシンと一緒にピクルスにしたり、アメリカではローストビーツがポピュラーですね。
日本でも最近は、スムージーやサラダの材料として人気が高まっています。生のビーツをスライスしてカルパッチョ風にしたり、温野菜としても楽しめます。
ビーツを美味しく食べるコツ
ビーツは生でも加熱しても食べられる、実に使い勝手の良い野菜です。ただし、その独特の土っぽい風味を和らげたい場合は、いくつかのコツがあります。
まず下処理ですが、皮付きのまま茹でるか蒸すのがおすすめ。皮をむいてから調理すると、せっかくの栄養や色素が流れ出てしまいます。茹で時間は大きさにもよりますが、30〜60分程度。竹串がすっと通るくらいが目安です。茹で上がったら、皮は手でするっとむけます。
生で食べる場合は、薄くスライスして塩もみすると、独特の風味が和らぎます。レモン汁やビネガーを加えると、さらに食べやすくなりますね。また、りんごやオレンジなどの果物と組み合わせると、ビーツの甘みが引き立ちます。
葉や茎も実は食べられるんです。若い葉はサラダに、茎は炒め物に使えます。
新鮮なビーツの選び方と保存術
スーパーや直売所でビーツを選ぶ時は、表面がなめらかで傷がなく、ずっしりと重みのあるものを選びましょう。葉付きの場合は、葉が新鮮で生き生きとしているものが良品です。
保存方法は、葉と根を切り離すのがポイント。葉をつけたままだと、根の水分や栄養が葉に吸い取られてしまうんです。根の部分は新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室で2〜3週間は保存可能。葉は別にして、2〜3日以内に使い切りましょう。
茹でたビーツは冷蔵で3〜4日、冷凍なら2〜3ヶ月保存できます。冷凍する場合は、一口大にカットしてから保存袋に入れると、使いたい分だけ取り出せて便利です。ピクルスにすれば、さらに長期保存も可能。常備菜として作り置きしておくと、いつでも楽しめますね。
まとめ
ビーツは、その鮮やかな赤紫色と独特の風味で、一度食べたら忘れられない野菜です。「食べる輸血」と呼ばれるほどの栄養価の高さ、地中海から世界へと広がった長い歴史、そして各地で生まれた多彩な調理法。これらすべてが、ビーツという野菜の魅力を物語っています。
日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、スーパーフードとしての注目度は年々高まっています。生でも加熱しても楽しめる使い勝手の良さ、保存性の高さも魅力的。最初は独特の土っぽい風味に戸惑うかもしれませんが、調理法次第で驚くほど美味しく変身します。
次にスーパーや直売所でビーツを見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。その美しい色と豊かな栄養、そして世界中で愛される理由を、きっとあなたも実感できるはずです。新しい食材との出会いは、食卓に彩りと楽しみをもたらしてくれることでしょう。





















