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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「銀杏(ぎんなん)」についてお話ししていきたいと思います。秋の訪れとともに、街路樹のイチョウが黄金色に染まり、その足元には独特の香りを放つ銀杏が落ちてきます。銀杏(ぎんなん)は、約2億年前から地球上に存在する「生きた化石」と呼ばれる植物の実。その独特のねっとりとした食感と、苦味とほのかな甘味が織りなす複雑な味わいは、日本の秋の食卓に欠かせない存在となっています。
初めて銀杏を口にしたとき、その独特の風味に驚いたことを今でも覚えています。最初は苦手だと思っていたのですが、茶碗蒸しの中から見つけた翡翠色の一粒を恐る恐る口に運んだ瞬間、その奥深い味わいに魅了されました。以来、秋になると必ず銀杏を求めてしまう、そんな魔力を持つ食材だと感じています。
太古から続く生命力:銀杏という食材の正体
銀杏は、イチョウの木になる実の中の、さらに殻に包まれた胚乳の部分を食用とする食材です。イチョウは雄の木と雌の木があり、実がなるのは雌の木だけという特徴を持っています。
その歴史は驚くほど古く、祖先は約2億年前まで遡ることができます。地質時代の気候変動を乗り越え、現在まで生き延びてきた、まさに「生きた化石」と呼ぶにふさわしい存在なのです。
銀杏という名前の由来も興味深いですね。「銀杏」「公孫樹」「鴨脚」など、さまざまな漢字表記がありますが、これらはすべて「イチョウ」と読みます。ただし、食用の種子を指す場合は「ギンナン」と呼ぶことが一般的です。江戸時代には、貝原益軒が「葉が一枚だから一葉(いちょう)」と解釈し、名前が統一されたという説もあるようです。
中国から日本へ:千年の時を超えた伝来の物語
銀杏の起源は中国と考えられています。11世紀前期に現在の開封市に移植され、初めて人々に知られるようになったと言われています。中国の安徽省および浙江省には野生状のものが今でも存在し、他の針葉樹・広葉樹と混生して森林を作っているそうです。
日本への伝来については諸説ありますが、1323年に元の寧波から博多への航行中に沈没した貿易船の海底遺物の中から銀杏が発見されていることから、1300年代には貿易船により輸入品として伝来したと考えられています。室町中期にはイチョウの木はかなり一般化し、1500年代には種子としても樹木としても人々の日常生活に深く入り込んでいったようです。
ヨーロッパへの伝播はさらに遅く、1692年にケンペルが長崎から持ち帰った種子から始まりました。18世紀にはドイツをはじめヨーロッパ各地での植栽が進み、1815年にはゲーテが『銀杏の葉』と名付けた恋愛詩を記しているというのも、文化的な広がりを感じさせるエピソードですね。
愛憎相半ばする個性:銀杏の味と香りの秘密
銀杏の最大の特徴は、その独特のねっとりとした食感です。噛むと”もちっ”とした弾力があり、その後に広がる複雑な味わいは、他の食材では味わえない独自のものです。
味わいについては、苦味とほのかな甘味が絶妙なバランスで共存しています。この特徴的な食感や風味から、人により大きく好き嫌いが分かれる食材でもあります。でも、それこそが銀杏の魅力なのかもしれません。万人受けする味ではないからこそ、好きな人にとっては特別な存在になるのでしょう。
また、銀杏特有の香りも忘れてはいけません。生の状態では独特の臭気がありますが、加熱することで香ばしい風味に変化します。この香りの変化も、調理の楽しみの一つと言えるでしょう。
日本各地で愛される秋の風物詩
日本では、銀杏は秋の味覚として全国的に親しまれています。街路樹として植えられたイチョウの木から落ちる銀杏を拾う光景は、秋の風物詩となっています。
地域によって食べ方にも違いがあり、関東では茶碗蒸しの具材として、関西では串焼きにして塩を振って食べることが多いようです。また、炊き込みご飯に入れたり、がんもどきの具材にしたりと、さまざまな料理に活用されています。
特に印象的なのは、居酒屋で出される銀杏の串焼きですね。香ばしく焼かれた銀杏に粗塩をパラリと振って、熱々のうちに頬張る。ビールとの相性も抜群で、秋の夜長の楽しみの一つです。
翡翠色の宝石:銀杏の見た目と選び方
銀杏の種子は、球形から広楕円形で、長さ1〜2センチメートルほどの大きさです。外側の種皮は橙黄色ですが、食用にする部分は内側の堅い殻に包まれた胚乳部分で、加熱すると美しい翡翠色に変化します。
良質な銀杏を選ぶポイントは、殻がしっかりとしていて、持った時にずっしりと重みを感じるものを選ぶことです。また、殻の色が白っぽく、表面にツヤがあるものが新鮮な証拠です。
伝統と現代が交差する調理法
銀杏の調理法は、実にシンプルです。最も基本的な方法は、殻付きのまま炒ることです。フライパンに銀杏を入れ、中火で転がしながら加熱すると、”パチン”と音を立てて殻が割れます。この瞬間の音も、銀杏調理の楽しみの一つですね。
現代では電子レンジを使った調理法も人気です。封筒に銀杏を入れ、600ワットで1〜2分加熱するだけで、簡単に調理できます。ただし、加熱しすぎると硬くなってしまうので注意が必要です。
薄皮を剥く作業は少し手間がかかりますが、熱いうちに布巾でこすると比較的簡単に剥けます。この作業、実は家族みんなでワイワイやると楽しいんですよ。子供の頃、祖母と一緒に薄皮を剥いた思い出が、今でも温かく心に残っています。
保存方法としては、殻付きのまま新聞紙に包んで冷蔵庫で保存すれば、1ヶ月程度は持ちます。殻を剥いた状態なら、塩茹でして冷凍保存することも可能です。
まとめ
銀杏は、2億年以上の歴史を持つ「生きた化石」として、そして日本の秋を彩る貴重な食材として、私たちの食文化に深く根付いています。
独特のねっとりとした食感、苦味とほのかな甘味が織りなす複雑な味わい、そして美しい翡翠色の見た目。これらすべてが、銀杏という食材の魅力を形作っています。好き嫌いが分かれる食材ではありますが、だからこそ、好きな人にとっては特別な存在となるのでしょう。
中国から日本へ、そして世界へと広がった銀杏の歴史は、食文化の交流の歴史でもあります。秋になったら、ぜひ銀杏を手に取って、その長い歴史と深い味わいを楽しんでみてください。きっと、新たな発見があるはずです。