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はじめに
スーパーの野菜売り場で、白いニンジンのような野菜を見かけたことはありませんか?それがパースニップです。日本ではまだ馴染みの薄い野菜ですが、ヨーロッパでは古くから親しまれてきた冬の根菜として、クリスマスディナーには欠かせない存在となっています。
見た目はニンジンそっくりですが、実はセリ科の別種。加熱すると際立つ甘みと独特の風味が特徴で、シチューやローストに使えば料理に深みを与えてくれます。この記事では、パースニップの基本情報から歴史、調理法まで、この魅力的な野菜について詳しくご紹介します。
初めてパースニップを手に取ったとき、私はその見た目から「色素の抜けたニンジン」という印象を持ちました。しかし実際に調理してみると、ニンジンとは全く異なる甘みと風味に驚かされたものです。特に冬のシチューに加えたときの、ほっこりとした甘さは忘れられません。
白いニンジンに似た根菜の正体
パースニップは、セリ科の二年草で、主根部分を食用とする根菜です。見た目は完全に白いニンジンそのものですが、実はパセリやセロリの仲間。別名「サトウニンジン」「白ニンジン」「アメリカボウフウ」とも呼ばれ、明治時代に日本へ伝わりました。
根の部分はクリーム色で、長さは約40センチメートル、肩口の直径は6センチメートル前後。ほとんどは円柱形ですが、一部の品種はより丸く、破損しにくいため食品加工業者に好まれています。表面は通常滑らかですが、側根が形成されることもあります。
ニンジンとの最大の違いは、その甘味の強さと食感です。パースニップはニンジンよりも糖分が多く、根菜類の中でも特にショ糖を豊富に含んでいます。食感はぼそぼそとしており、生食には向きません。また、生の状態ではニンジン臭が強いのですが、加熱すると臭みが抜け、甘みが際立つのです。
旬は冬から春先。気温が下がり霜が降りるようになると、デンプンが糖に変換され、甘味がさらに増します。この特性こそが、パースニップが冬野菜として愛される理由なんですね。
古代ローマから続く栽培の歴史
パースニップはユーラシア原産で、古代ギリシャ・ローマ時代から食用とされてきた、非常に歴史の長い野菜です。栽培に関する考古学的証拠は限定的ですが、初期の重要な資料は古代ギリシャ・ローマの文献に見られます。
興味深いのは、ローマ時代においてパースニップとニンジン(当時は白色や紫色だった)の両方が「パスティナカ(Pastinaca)」という同じ名前で呼ばれていたこと。どちらもよく栽培されていたため、古い文献を読む際には注意が必要だと言われています。
ローマではパースニップは非常に高く評価され、ティベリウス帝はゲルマン人に対してパースニップを貢納させていたほどです。また、古代ローマ時代には媚薬であると信じられていたという記録も残っています。
ヨーロッパでは、サトウキビやテンサイが普及する以前、パースニップは貴重な砂糖の供給源として用いられました。「サトウニンジン」という別名は、この歴史的背景を物語っていますね。
17世紀ごろからイギリスや北米に広く普及しました。北米では同時期に、フランス人がカナダに、イギリス人が13植民地にパースニップを持ち込んでいます。しかし、19世紀半ばにはデンプンの供給源がジャガイモに置き換わったため、あまり広く栽培されなくなりました。
1859年には、イギリス王立農業大学のジェームス・バックマンによって「スチューデント(Student)」という品種が開発され、19世紀後半の主要な栽培品種となりました。彼は栽培植物を野生株に戻し交配することで、選抜育種による品種改良の実証を目指していたのです。
日本への伝来は明治時代。しかし、現在でも日本国内での生産はほとんどなく、流通しているものは欧米などからの輸入品です。
甘みと独特の風味が際立つ特徴
パースニップの最大の特徴は、その強い甘味です。根菜類の中では糖分(ショ糖)が多く、野菜と芋類の中間的な栄養成分を含んでいます。100グラムあたり約75キロカロリーのエネルギーがあり、ほとんどの栽培品種では水が約80%、糖質が5%、タンパク質が1%、脂質が0.3%、食物繊維が5%という構成です。
ビタミンとミネラルが豊富で、特にカリウムは100グラムあたり375ミリグラムと多く含まれています。ビタミンE、ビタミンB群、ビタミンCも含みますが、ビタミンCは調理すると減少します。ほとんどのビタミンとミネラルは表皮付近にあるため、皮を丁寧に剥きすぎると大半が失われてしまうので注意が必要です。
食物繊維の量が多いのも特徴で、可溶性と不溶性の両方を含み、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが含まれています。また、ファルカリノール、ファルカリンジオール、パナキシジオール、メチルファルカリンジオールなどの抗酸化物質も含まれているとされています。
加熱すると、ニンジンとの違いがさらに際立ちます。生の状態では強いニンジン臭がありますが、加熱すると臭みが抜け、甘みが前面に出てくるのです。ほんのり甘く、でもほんの少しゴボウのような風味も感じられる——この複雑な味わいが、パースニップの魅力なんですね。
食感はぼそぼそとしており、生食には向きません。しかし、長時間煮込んでも煮崩れしないという特性があるため、煮込み料理には最適です。
地域で異なる品種と食文化
パースニップには、いくつかの主要な栽培品種が存在します。代表的なものとして「ホロー・クラウン(Hollow Crown)」「スムース・ホワイト(Smooth White)」「オール・アメリカ(All America)」などが知られています。
農業的に重要な植物の例に漏れず、パースニップにはいくつもの亜種や変種が記載されていますが、現在では独立した分類群ではなく、形態的な変異の一型であると考えられていることが多いようです。ただし、特にユーラシアでは野生のものを亜種または別種として扱うこともあり、ヨーロッパでは葉の毛の様子、茎の角張り具合、散形花序の大きさと形状といった点で亜種を区別することもあります。
地域によって食文化も異なります。イギリスをはじめとする英語圏の一部の地域では、ローストパースニップがクリスマスディナーに欠かせないものとされ、伝統的なサンデーローストでも頻繁に登場します。
一方、現代のイタリア料理ではほとんど用いられず、豚の飼料とされることが多く、特にパルマハム用の豚に与えられています。古代ローマでは高く評価されていたのに、現代イタリアでは飼料扱い——歴史の皮肉を感じますね。
アメリカでは「ホワイトキャロット(white carrot: 白ニンジンの意)」とも呼ばれ、根が白く、形がニンジンに似ていることに由来しています。フランス語では「パネ(panais)」と呼ばれます。
煮込みからローストまで多彩な調理法
パースニップはニンジンと同じように用いることができますが、その調理法は多彩です。焼く、ゆでる、炒めるといった基本的な方法のほか、ロースト、ピューレ、グリル、蒸し焼きなど、さまざまな調理法に対応します。
最も人気があるのは、シチューやスープの具材として使う方法です。長時間煮込んでも煮崩れしないため、煮込み料理に向いており、豊かな風味が得られます。
ローストパースニップは、英語圏では定番の調理法。オーブンでじっくりと焼くことで、表面はカリッと、中はホクホクとした食感になり、甘みが最大限に引き出されます。
茹でて甘酢に漬けたり、刻んで揚げ物にしてもよく、薄切りにしてポテトチップスのようにすることもできます。また、マデイラ・ワインに似た味のパースニップ・ワインの原料にもなるんですよ。
調理の際の注意点として、パースニップの茎と葉の汁には光毒性化学物質であるフラノクマリンが含まれており、汁がついた皮膚が日光に晒されると水疱を引き起こすため、注意して扱う必要があります。これはセリ科ではしばしばみられる性質です。
霜降り後が収穫の適期
パースニップは、野生では石灰岩土壌といった乾燥した草地や荒地に起源します。栽培においては、シルト質、粘土質、礫質の土壌では根が短くなり枝分かれするため、砂質やローム質の土壌が適しているとされています。
種子は長期間保存すると発芽率が著しく低下するため、新鮮な種を使うことが重要です。種子は通常、早春に播かれます。生長している間は雑草のない状態に保ち、間引きも行います。
収穫は、より糖度が増すように、秋の終わりに霜が降りてから行い、冬の間続きます。霜が降りても容易に抜けるように、藁で覆うこともあります。収穫しなければ、翌年に開花・結実しますが、茎が木質化し、根も食べられなくなってしまいます。
パースニップは貯蔵性に優れており、収穫してから低温保存、または地中に埋めて貯蔵することができます。この特性が、冬の貴重な野菜として重宝された理由の一つでもあるんですね。
日本国内での生産はほとんどなく、流通しているものは欧米などからの輸入品です。そのため、一般的なスーパーではなかなかお目にかかれず、高級スーパーや輸入食材店で見かけることが多いでしょう。
まとめ
パースニップは、古代ローマ時代から愛され続けてきた、歴史ある冬の根菜です。白いニンジンのような見た目ですが、セリ科の別種で、加熱すると際立つ強い甘みと独特の風味が特徴。霜が降りると糖度が増すため、冬から春先が旬となります。
ヨーロッパでは砂糖が普及する以前、貴重な甘味料としても使われていました。現在でもイギリスではクリスマスディナーに欠かせない食材として親しまれています。
調理法は多彩で、シチューやスープなどの煮込み料理、ローストやピューレなど、さまざまな料理に活用できます。長時間煮込んでも煮崩れしない特性があり、料理に深みと甘みを与えてくれます。
日本ではまだ馴染みの薄い野菜ですが、その独特の甘みと風味は、一度試してみる価値があります。輸入食材店などで見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。冬の食卓に、新しい味わいをもたらしてくれるはずです。





















