この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

Table of Contents
はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「スパゲッティ・アッラ・ペスカトーラ」についてお話していきたいと思います。スパゲッティ・アッラ・ペスカトーラ(Spaghetti alla Pescatora)は、イタリア語で「漁師風スパゲッティ」を意味する、南イタリアの海岸地域で生まれた伝統的な海鮮パスタです。新鮮な魚介類をふんだんに使い、トマトベースのソースで仕上げるこの料理は、地中海の恵みを存分に味わえる一皿として、世界中で愛されています。
漁師たちが生んだ豪快な海の恵み
ペスカトーラは、その名の通り漁師(pescatore)たちの料理として誕生しました。売り物にならない小魚や、その日の漁で余った魚介類を無駄にしないために作られた、いわば「まかない料理」が起源とされています。
この料理の最大の特徴は、決まったレシピがないことでしょう。その日の漁獲によって具材が変わるため、「今日は何が入っているかな?」という楽しみがあります。エビ、イカ、タコ、ムール貝、アサリ、時には小魚まで、まさに海の幸のオーケストラとでも言うべき豪華さです。
南イタリアの太陽が育んだ漁師の知恵
ペスカトーラの起源は、ナポリを中心とした南イタリアの海岸地域にあります。特にカンパニア州、プーリア州などの漁港では、古くから漁師たちの間で親しまれてきました。
興味深いのは、この料理が「貧しい漁師の料理」から「高級レストランの定番メニュー」へと変貌を遂げた点です。20世紀中頃から観光業が発展すると共に、地元の素朴な料理が洗練され、今では世界中のイタリアンレストランで提供される人気メニューとなりました。
歴史的には、トマトがヨーロッパに伝わった16世紀以降に現在の形になったと考えられています。それ以前は、オリーブオイルとニンニク、白ワインだけで仕上げる「ビアンコ(白)」スタイルが主流だったようです。
海の宝石箱のような贅沢な一皿
ペスカトーラの魅力は、何と言ってもその豪華な見た目にあります。真っ赤なトマトソースの中に、エビの鮮やかなオレンジ、イカの純白、ムール貝の漆黒が映え、まるで画家のパレットのような美しさです。
味わいの特徴としては:
- 魚介類から出る旨味たっぷりの出汁
- トマトの酸味と甘みのバランス
- ニンニクとオリーブオイルの香り
- 白ワインのほのかな風味
- パセリの爽やかなアクセント
これらが渾然一体となって、深みのある味わいを生み出します。アルデンテに茹でたスパゲッティが、このソースをしっかりと絡め取り、口の中で海の恵みが広がるのです。
地域ごとに異なる海の表情
イタリア各地でペスカトーラは作られていますが、地域によって特色があります。
ナポリでは、サンマルツァーノトマトを使った濃厚なトマトソースが特徴的です。一方、リグーリア州では、トマトを控えめにして魚介の味を前面に出すスタイルが好まれます。シチリアでは、サフランを加えて黄金色に仕上げることもあるんです。
さらに興味深いのは、アドリア海側と地中海側での違いです。アドリア海側では、スカンピ(手長エビ)やカラマリ(ヤリイカ)を多用し、地中海側では、ガンベリ(エビ)やポルピ(タコ)が主役になることが多いようです。
最近では、「ペスカトーラ・ロッソ(赤)」と「ペスカトーラ・ビアンコ(白)」という2つのスタイルが確立されています。ロッソはトマトベース、ビアンコはオイルベースで、どちらも絶品です。
新鮮な魚介が奏でるハーモニー
ペスカトーラに使われる一般的な材料は以下の通りです:
魚介類(最低3〜4種類)
- エビ(殻付きがおすすめ)
- イカ(輪切り)
- タコ(一口大)
- ムール貝
- アサリやハマグリ
- 時には白身魚の切り身も
ベースとなる材料
- スパゲッティ(太さは好みで)
- 完熟トマト(缶詰でも可)
- ニンニク(たっぷりと)
- 白ワイン
- エクストラバージンオリーブオイル
- イタリアンパセリ
- 唐辛子(お好みで)
魚介類の組み合わせに決まりはありませんが、食感と味のバランスを考えることが大切です。プリプリのエビ、コリコリのイカ、旨味たっぷりの貝類…それぞれが主張しすぎず、調和することで最高の一皿になるのです。

漁師直伝!本場の調理テクニック
伝統的なペスカトーラの調理法は、実はとてもシンプルです。しかし、そのシンプルさゆえに、素材の扱い方が味を大きく左右します。
まず、オリーブオイルでニンニクをじっくりと炒め、香りを引き出します。この時、ニンニクを焦がさないことが肝心です。次に魚介類を加えますが、ここでポイントとなるのが投入する順番。火の通りにくいタコから始め、最後にエビや貝類を加えます。
白ワインでフランベすると、アルコールが飛んで魚介の臭みも消え、旨味だけが残ります。そこにトマトを加え、魚介から出る出汁と一体化させながら煮込みます。パスタは別鍋でアルデンテに茹で、最後にソースと合わせて仕上げます。
プロの技として、パスタの茹で汁を少し加えることで、ソースがパスタによく絡むようになります。仕上げにパセリを散らせば、見た目も香りも完璧な一皿の完成です。

まとめ
スパゲッティ・アッラ・ペスカトーラは、南イタリアの漁師たちが生み出した、海の恵みを余すことなく味わえる素晴らしい料理です。
新鮮な魚介類さえあれば、家庭でも本格的な味を再現できるのも魅力の一つ。地域によって異なる特色を知れば、自分好みのアレンジも楽しめるでしょう。次にイタリアンレストランを訪れた際は、ぜひその店自慢のペスカトーラを注文してみてください。きっと、地中海の風を感じられる素敵な食体験が待っているはずです。
さいごに
シェフレピでは、京都のイタリア料理店、Cantina Arco(カンティーナ アルコ)の清水シェフによる、「スパゲッティ・アッラ・ペスカトーラ 漁師風スパゲッティ」のレッスンを公開しております!汎用性の高いトマトソースの作り方や、パスタのポイントである乳化のコツなど、目からウロコのコツ満載なレッスンです。ぜひこの機会にチェックしてみてください!