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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「ドバイチョコレート」についてお話ししていきたいと思います。近年、SNSを中心に爆発的な人気を博しているドバイチョコレート。TikTokで話題となったASMR動画をきっかけに、韓国から世界中へと瞬く間に広がったこのスイーツは、従来のチョコレートの概念を覆す斬新な食感と味わいで多くの人々を魅了しています。中東の伝統菓子クナーフェに着想を得た独特のフィリング、鮮やかなピスタチオグリーンの断面、そして「ザクザク」と「とろ〜り」が共存する不思議な食感。本記事では、このドバイチョコレートの誕生秘話から特徴、そして世界的ブームの背景まで、詳しく解説していきます。
ドバイが生んだ革新的チョコレートの正体
ドバイチョコレートとは、2021年にアラブ首長国連邦ドバイのショコラティエ「FIX(フィックス)デザート・ショコラティエ」が開発した、クナーフェとピスタチオのフィリング入り板チョコレートです。
このチョコレートの最大の特徴は、ミルクチョコレートの中に、ピスタチオペースト、細かく砕いたカダイフ(極細の小麦粉生地を糸状にしたもの)、そしてタヒニペーストを混ぜ合わせた特製クリームが詰められている点にあります。一つ一つハンドメイドで製造され、表面はカラフルな食用ペイントで美しく彩られています。まさに、見た目も味も楽しめる、アート作品のようなチョコレートなのです。
妊娠中の渇望から生まれた奇跡のレシピ
FIXデザート・ショコラティエの創業者であるイギリス系エジプト人のサラ・ハムーダは、2021年にこの革新的なチョコレートブランドを立ち上げました。店名の「FIX」は「freaking incredible experience(信じられないほど素晴らしい体験)」の頭文字から取られており、その名の通り、食べる人に特別な体験を提供することを目指しています。
興味深いことに、ハムーダがこのチョコレートを開発したきっかけは、自身の妊娠中に無性に食べたくなったものからインスピレーションを得たことでした。デーツ、カラック、クナーフェ、バクラヴァといった中東の伝統的なアラブ料理の食材やフレーバーを、現代的なチョコレートに融合させるという斬新なアイデアは、まさに文化の架け橋となる創造でした。
2023年12月18日、フード・インフルエンサーのマリア・ベヘラがTikTokに投稿した動画が転機となりました。彼女がドバイチョコレートを食べる様子を収めた動画は、ザクザクという咀嚼音と、チョコレートの美しい色合いが話題を呼び、1年後には1億回以上の再生回数を記録。これをきっかけに、世界中のインフルエンサーたちがこぞって同様の動画を作成し始めたのです。
ピスタチオグリーンが織りなす五感の饗宴
ドバイチョコレートの魅力は、その独特な食感と味わいの組み合わせにあります。一口かじると、まず感じるのはミルクチョコレートの滑らかな甘さ。そして次の瞬間、カダイフのザクザクとした食感が口の中で弾け、同時にピスタチオペーストのねっとりとした濃厚さが広がります。
さらに、タヒニペーストが加わることで、中東らしいコクと深みが生まれ、単なる甘いお菓子を超えた複雑な味わいを実現しています。断面を見ると、鮮やかなピスタチオグリーンのフィリングが美しく、視覚的にも楽しめる一品となっています。
食べ始めると、もう一つ、もう一つと手が伸びてしまう中毒性の高さも特徴の一つ。これは単に甘いだけでなく、塩気と甘みのバランス、ナッツの香ばしさ、そして食感の変化が絶妙に計算されているからでしょう。しかしそれ以上に、中東の伝統と現代のセンスが見事に融合した、新しい味覚体験そのものが私たちを魅了しているのかもしれません。
世界各地で生まれる”ドバイスタイル”の波
ドバイチョコレートの爆発的な人気は、世界中の食品業界に大きな影響を与えています。日本でも、様々な菓子メーカーやショコラティエが独自の解釈で「ドバイスタイル」のチョコレートを開発し、コンビニエンスストアやデパートで販売されるようになりました。特に2024年に入ってからは、大手製菓メーカーも参入し、より身近な存在となっています。
さらに興味深いのは、板チョコ以外の食品にも「ドバイ」の名が付けられるようになったことです。ドバイ・ブラートヴルスト、ドバイ・チュロスなど、ピスタチオとカダイフを使用した様々な創作料理が登場しています。韓国では特にこのトレンドが顕著で、カフェやベーカリーでドバイチョコレート風のドリンクやパンが次々と開発されています。
この現象は、単なる一過性のブームではなく、中東の食文化が世界的に認知され、受け入れられていることの証とも言えるでしょう。実際、世界的にピスタチオの需要が急増し、各地で生産拡大の動きが見られるようになりました。食のグローバル化が進む中で、ドバイチョコレートは東西の食文化が融合した象徴的な存在となっているのです。
中東の伝統菓子が現代に蘇る
ドバイチョコレートの基本的な材料は、意外にもシンプルです。主要な材料は以下の通り:
- ミルクチョコレート:外側のコーティングとして使用
- ピスタチオ:ペースト状にしてフィリングの主役に
- カダイフ:極細の小麦粉生地で、ザクザク食感を生み出す
- タヒニペースト:ゴマのペーストで、コクと深みを加える
カダイフは日本ではあまり馴染みがない食材ですが、中東や地中海地域では伝統的に使われている食材です。髪の毛のように細い生地を揚げたり焼いたりすることで、独特のザクザク感が生まれます。面白いことに、日本では皿うどんの麺で代用するレシピも登場しており、創意工夫によって身近な材料でも再現可能であることが証明されています。
職人技が光る手作りの製法
本物のドバイチョコレートは、すべて手作業で丁寧に作られています。特製のチョコレート型を使用し、まずミルクチョコレートで外側の殻を作ります。その中に、ピスタチオペースト、細かく砕いて軽く炒ったカダイフ、タヒニペーストを混ぜ合わせた特製フィリングを流し込みます。
温度管理も極めて重要です。チョコレートのテンパリング(温度調整)を正確に行わないと、艶やかな仕上がりにならず、口どけも悪くなってしまいます。まさに、職人の経験と技術が詰まった芸術品と言えるでしょう。
家庭で再現する場合は、市販のチョコレートを溶かして型に流し込み、フィリングを作って挟む方法が一般的です。完璧な再現は難しくても、その過程を楽しみながら、自分なりのアレンジを加えてみるのも面白いかもしれませんね。
まとめ
ドバイチョコレートは、2021年にドバイの小さなショコラティエから生まれ、SNSを通じて世界的な現象となった、まさに現代を象徴するスイーツです。中東の伝統菓子クナーフェに着想を得た独創的なフィリング、ピスタチオとカダイフが織りなす複雑な食感、そして職人の手作業による丁寧な製法。これらすべてが組み合わさって、従来のチョコレートの概念を覆す新しい味覚体験を生み出しています。
単なる流行に終わらず、世界中の食品業界に影響を与え、新たな食文化の潮流を生み出したドバイチョコレート。それは、グローバル化とSNS時代が生んだ新しい食文化の象徴であり、伝統と革新が見事に融合した21世紀のスイーツと言えるでしょう。今後も様々なバリエーションが生まれ、さらなる進化を遂げていくことが期待されます。