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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「カチャトーラ」についてお話ししていきたいと思います。カチャトーラ(cacciatore)は、イタリア語で「猟師風の料理」を意味する伝統的な煮込み料理です。鶏肉やウサギ肉をトマト、タマネギ、ハーブ、ピーマンと共に煮込んだこの料理は、素材の旨味が凝縮された素朴で力強い味わいが魅力。イタリア各地で愛され続けてきた家庭料理であり、地域ごとに異なる個性を持つ点も興味深いですね。
この記事では、カチャトーラの起源や歴史、主な特徴、地域による違い、そして伝統的な調理法まで、詳しく解説していきます。
初めてカチャトーラを食べたとき、その素朴ながらも深い味わいに驚きました。鶏肉の旨味とトマトの酸味、ハーブの香りが絶妙に調和し、パンやパスタとの相性も抜群。シンプルな材料でこれほど豊かな味わいが生まれるのかと、イタリア料理の奥深さを実感した一品です。
猟師が生んだ素朴な煮込み料理
カチャトーラは、イタリアの猟師たちが狩りで得た獲物を、手元にある野菜やハーブと共に煮込んだことが起源とされています。「cacciatore」という言葉自体が「猟師」や「狩人」を意味し、料理名にその歴史が刻まれているのです。
猟師たちは森や山で狩りをした後、その場で手に入る食材を使って料理を作りました。鶏肉やウサギ肉、時には野鳥などを、トマト、タマネギ、ハーブ、そしてワインやビネガーと共に煮込む。この調理法は、肉を柔らかくし、野菜やハーブの風味を引き出すのに最適でした。
あり合わせの材料で作られたこの料理は、やがてイタリア各地の家庭に広まり、地域ごとの特色を持つ郷土料理へと発展していきます。猟師の知恵から生まれた素朴な一皿が、イタリア料理の定番となったわけですね。
トマトとハーブが織りなす力強い味わい
カチャトーラの最大の特徴は、素材の旨味を最大限に引き出す煮込み調理法にあります。鶏肉やウサギ肉を焼き付けてから、トマト、タマネギ、ハーブと共にじっくりと煮込むことで、それぞれの食材が持つ風味が一体となり、深みのある味わいが生まれるのです。
トマトの酸味と甘味が肉の旨味を引き立て、ローズマリーやローリエといったハーブが香り高いアクセントを加えます。ワインやビネガーを加えることで、さらに複雑な味の層が形成され、奥深い風味に仕上がります。
この料理の魅力は、何と言っても「素朴さ」と「力強さ」の共存でしょう。特別な技術や高級な食材を必要とせず、シンプルな調理法で作られるにもかかわらず、食べる者を満足させる豊かな味わいを持っています。まさに、猟師たちの知恵が詰まった一皿と言えますね。
南北で異なる個性、地域が育んだバリエーション
カチャトーラは、イタリア全土で愛されている料理ですが、地域によって使用する食材や調理法に違いがあります。この多様性こそが、イタリア料理の面白さであり、カチャトーラの魅力でもあるのです。
南イタリアでは、赤ワインを使用するのが一般的です。トマトの酸味と赤ワインのコクが相まって、濃厚で力強い味わいに仕上がります。一方、北イタリアでは白ワインを用いることが多く、よりすっきりとした上品な風味が特徴です。
また、地域によってはマッシュルームを加えたり、ピーマンの代わりに他の野菜を使用したりと、その土地で手に入る食材に応じたアレンジが施されます。ローマ風(カチャトーラ・アッラ・ロマーナ)には複数のバリエーションが存在し、ピーマンとトマトをたっぷり使うスタイルもあれば、トマトを使わずにワインビネガーやハーブで仕上げるスタイルもあると言われています。家庭や店によって解釈が異なる点も、この料理の奥深さを物語っていますね。
トスカーナ地方では、ウサギ肉を使用することが多く、より野性味のある味わいが楽しめます。このように、同じ「カチャトーラ」という名前でも、地域ごとに異なる個性を持っているのです。
鶏肉とトマトが主役、シンプルな材料構成
カチャトーラの基本的な材料は、驚くほどシンプルです。主役となるのは鶏肉(またはウサギ肉)、そしてトマト、タマネギ、ハーブ、ピーマン、ワインまたはビネガー。これらの食材が、煮込むことで一体となり、豊かな味わいを生み出します。
鶏肉は、もも肉を使用するのが一般的です。もも肉は煮込んでも柔らかく、旨味が豊富なため、カチャトーラに最適な部位と言えるでしょう。ウサギ肉を使用する場合は、より野性的で繊細な風味が楽しめます。
トマトは、生のトマトを使用することもあれば、トマト缶を使用することもあります。トマト缶は手軽で、年間を通じて安定した品質が得られるため、家庭料理としては便利な選択肢です。
ハーブは、ローズマリー、ローリエ、タイムなどが用いられます。これらのハーブが、料理全体に香り高いアクセントを加え、素朴な煮込み料理を格上げしてくれるのです。
ピーマンは、赤や黄色のパプリカを使用することもあり、彩りと甘味を添えます。ワインやビネガーは、肉を柔らかくし、酸味と深みを加える重要な役割を果たします。
じっくり煮込んで旨味を引き出す伝統の調理法
カチャトーラの伝統的な調理法は、シンプルながらも丁寧な工程を踏むことで、素材の旨味を最大限に引き出します。まず、オリーブ油を大きなフライパンで熱し、塩胡椒を振った鶏肉の両面を3〜4分ずつ焼きます。この焼き付けの工程が、肉の表面に香ばしさを与え、旨味を閉じ込める鍵となるのです。
鶏肉を一旦取り出したら、余分な油を拭き取り、残りの油でタマネギ、ピーマン、その他の野菜を数分間炒めます。野菜がしんなりとしてきたら、トマト缶、ローズマリー、赤ワイン(または白ワイン)を加え、さらにローリエと微塵切りのニンジンを加えます。ニンジンは、ソースに自然な甘味を加えるための工夫です。
ここに鶏肉を戻し、蓋をして極弱火で1時間ほど煮込みます。この時間をかけて煮込む工程が、カチャトーラの真髄。肉は柔らかくなり、野菜とハーブの風味がソースに溶け込んで、一体感のある味わいが完成します。
煮込んでいる間、時々蓋を開けて様子を確認し、必要に応じて水分を調整します。ソースが煮詰まりすぎた場合は、少量の水やワインを加えて調整しましょう。
完成したカチャトーラは、田舎パンやパスタを添えて供されることが多いです。パンにソースを浸して食べるのも、パスタと絡めて楽しむのも、どちらも絶品です。
まとめ
カチャトーラは、イタリアの猟師たちが生んだ素朴で力強い煮込み料理であり、鶏肉やウサギ肉をトマト、ハーブ、ワインと共にじっくりと煮込むことで、素材の旨味が凝縮された深い味わいが生まれます。
地域によって赤ワインを使うか白ワインを使うか、どんな野菜を加えるかといった違いがあり、それぞれの土地の個性が反映されている点も魅力です。特にローマ風のように、同じ地域内でも複数のバリエーションが存在することは、この料理が長い歴史の中で各家庭に根付き、愛され続けてきた証と言えるでしょう。
シンプルな材料と丁寧な調理法で作られるこの料理は、イタリア料理の本質を体現しています。伝統的な調理法を守りつつも、現代の家庭料理として親しまれ続けているカチャトーラ。その素朴さと奥深さを、ぜひご自身の食卓でも味わってみてください。