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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「赤飯」についてお話ししていきたいと思います。赤飯は、もち米に小豆やささげを混ぜて蒸した、日本の伝統的なおこわです。その鮮やかな赤褐色は、お祝いの席を華やかに彩り、古くから日本人の暮らしに深く根付いてきました。
誕生日、七五三、入学祝い、成人式——人生の節目となる「ハレの日」に、赤飯は欠かせない存在として受け継がれています。しかし、なぜ赤飯がお祝いの料理として定着したのでしょうか?その背景には、日本人の信仰や文化、そして先人たちの知恵が込められているのです。
この記事では、赤飯の起源から文化的意味、特徴、地域ごとの違い、そして伝統的な調理法まで、赤飯の魅力を余すところなくお伝えします。
初めて赤飯を口にしたとき、もち米特有のもっちりとした食感と、小豆のほのかな甘み、そして胡麻塩の香ばしさが絶妙に調和した味わいに、思わず「これぞ日本の味だ」と感じたことを今でも覚えています。シンプルながらも奥深い、この料理の魅力を一緒に探っていきましょう。
もち米と小豆が織りなす、ハレの日の主役
赤飯とは、もち米に小豆やささげを混ぜて蒸したおこわの一種です。小豆やささげ豆を茹でた際の煮汁がもち米に吸収されることで、美しい赤褐色に染まるのが最大の特徴といえるでしょう。
明治時代頃までは、小豆などを混ぜた赤飯と、もち米だけを蒸したおこわは明確に区別されていました。しかし時代とともに呼称が曖昧になり、現在でも地域によっては赤飯を「おこわ」と呼ぶところが残っています。また、語頭に「お」をつけた「おせきはん」という呼び方も一般的ですね。
赤飯は主に日本のおめでたい席で食される伝統的な料理であり、その栄養価の高さから、缶詰やフリーズドライ化された製品も普及しています。非常食としての役割だけでなく、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは「赤飯おにぎり」や「赤飯弁当」として日常的に販売されており、特別な日だけでなく、普段の食事としても親しまれているのです。
赤米から赤飯へ——邪気を祓う赤の力
赤飯の起源を辿ると、古代日本の信仰と稲作文化に行き着きます。古代より、赤い色には邪気を祓う力があると信じられてきました。墓室の壁画に辰砂が使われたり、日本神話に登場する丹塗矢の伝承などからも、赤色が持つ呪術的な力への信仰が窺えますね。
神道は稲作信仰を基盤としており、米は非常に価値の高い食糧と考えられてきました。古代には赤米(あかごめ)を蒸したものを神に供える風習があり、現在でもこの風習は各地の神社に残っています。お供えのお下がりとして、人間も赤米を食べていたと想像されるのです。
時代が下ると、白米が主流になるにつれ、赤米の代わりに小豆を混ぜることで赤い色を再現するようになりました。これが現在の赤飯の原型となったと考えられています。
興味深いのは、赤飯が必ずしも吉事だけに用いられてきたわけではないという点です。江戸時代の文献『萩原随筆』には「凶事ニ赤飯ヲ用ユルコト民間ノナラワシ」と記されており、凶事に赤飯を炊く風習がこの頃には既にあったことが分かります。赤色が邪気を祓う効果があることを期待したため、あるいは「縁起直し」という期待を込めて赤飯が炊かれたとも考えられているのです。
少なくとも12世紀には赤飯が供養に使われていたという記録があり、赤飯は宗教的な意味合いも強く持っていました。「赤飯供養」という風習は現在でも静岡県の蓮華寺や神奈川県の石上神社などで伝えられています。また、箱根の芦ノ湖や静岡県の桜ヶ池では、竜神を祭る際に赤飯を湖に沈める風習が古くから続いており、遠州七不思議の一つとして知られているのです。
もっちり食感と赤褐色——赤飯ならではの魅力
赤飯の最大の特徴は、何といってもそのもっちりとした食感と美しい赤褐色でしょう。もち米を使用するため、でんぷんの一種であるアミロースが少なく、腹持ちが良いとされています。
同じ質量の一般的な白飯と比較すると、カロリーは1.2〜1.5倍程度高くなりますが、銅、たんぱく質、亜鉛などの栄養素が非常に豊富です。
食べるときには胡麻塩をふりかけるのが一般的ですが、そのごまも切ったり炒ったりすると縁起が悪いとされ、そのまま用いるのが伝統的な作法です。この細やかな配慮にも、先人たちの縁起を大切にする心が表れていますね。
赤飯に添えられる南天の葉にも意味があります。「難(ナン)を転(テン)じる」という語呂合わせから、南天は縁起の良い木とされてきました。南天の葉は防腐作用があるとされ、縁起や厄除けの意味合いの他に、安心・安全に対する先人の経験と知恵が込められているのです。
小豆かささげか——地域で異なる赤飯の個性
赤飯は日本全国で食されていますが、地域によって使用する豆や調理法に違いがあります。この多様性こそが、赤飯の奥深さを物語っているといえるでしょう。
関東地方などでは、小豆ではなくささげを用いる地域が多く見られます。これは、小豆は水に浸して戻すための浸漬時間を長くするほど加熱中に割れる「胴切れ」が起きやすいためです。武家社会では小豆の皮が破れることが「切腹に通じる」として避けられ、皮が破れにくいささげを用いるようになったといわれています。
一方、北海道など一部の地域では、甘納豆を使った赤飯も存在します。また、調理法も蒸すのではなく炊く地域もあり、「あかまんま」「あかごわ」などの呼び方も残っています。
祝いの席で赤飯を食べることが一般的ですが、千葉県や福井県、神奈川県、富山県、石川県、新潟県などの一部の地区では、長寿を全うして大往生した人物の葬儀で参列客に対し赤飯を出す風習も残っています。天寿を全うした故人が旅立つことや、その大往生の人生を祝うという意味が込められているといわれ、赤飯の持つ多面的な文化的意味を示していますね。
各地域の解釈によって異なる使い方や意味づけが変わる点が、この料理の面白いところではないでしょうか。
もち米と小豆——シンプルだからこそ際立つ素材の力
赤飯の材料は実にシンプルです。基本となるのは、もち米、小豆またはささげ、そして塩。この3つの素材だけで、あの豊かな味わいが生まれるのです。
もち米は、赤飯特有のもっちりとした食感を生み出す主役です。うるち米(普通の白米)と比べてアミロースが少なく、アミロペクチンが多いため、粘りが強く冷めても固くなりにくいという特性があります。
小豆やささげは、赤飯に色と風味を与える重要な役割を担っています。豆を茹でた際の煮汁に含まれるアントシアニン系の色素が、もち米に吸収されることで美しい赤褐色が生まれるのです。また、豆自体のほのかな甘みと食感が、もち米との絶妙なハーモニーを奏でます。
仕上げにふりかける胡麻塩は、赤飯の味を引き締める名脇役。ごまの香ばしさと塩気が、もち米と小豆の優しい味わいを一層引き立てるのです。
シンプルな素材だからこそ、それぞれの質が味を大きく左右します。良質なもち米と新鮮な小豆を選ぶことが、美味しい赤飯を作る第一歩といえるでしょう。
蒸し器で仕上げる——伝統の調理法
赤飯の伝統的な調理法は、蒸し器を使って蒸し上げる方法です。この調理法により、もち米一粒一粒がふっくらと仕上がり、赤飯特有のもっちりとした食感が生まれます。
まず、小豆またはささげを茹でて煮汁を作ります。豆は柔らかくなりすぎないよう、少し芯が残る程度に茹でるのがポイントです。この煮汁にもち米を浸し、色を吸わせます。
もち米を水切りした後、茹でた豆と混ぜ合わせ、蒸し器で蒸し上げます。蒸し時間は40分から1時間程度。途中で打ち水(霧吹きなどで水分を加える作業)をすることで、均一にふっくらと蒸し上がります。
蒸し上がった赤飯は、しゃもじで底から返すように混ぜ、余分な蒸気を飛ばします。この作業により、べたつきのない、粒立ちの良い赤飯に仕上がるのです。
現代では炊飯器や圧力鍋を使った簡便な方法も普及していますが、蒸し器で丁寧に蒸し上げた赤飯の味わいは格別です。手間はかかりますが、その分、もち米の甘みと豆の風味が際立ち、ふっくらとした食感が楽しめます。伝統的な調理法には、先人たちが積み重ねてきた知恵と工夫が詰まっているのですね。
まとめ
赤飯は、もち米と小豆やささげというシンプルな素材から生まれる、日本の伝統的なおこわです。
古代の赤米信仰に起源を持ち、赤色が持つ邪気を祓う力への信仰と結びついて、お祝いの席に欠かせない料理として定着しました。もっちりとした食感、美しい赤褐色、そして栄養価の高さが赤飯の魅力であり、地域によって使用する豆や調理法、さらには食べる場面にも違いがあることが、この料理の奥深さを物語っています。
蒸し器で丁寧に蒸し上げる伝統的な調理法は、手間がかかる分、格別の味わいを生み出します。現代では日常的にも楽しめるようになった赤飯ですが、その背景にある歴史や文化を知ることで、一層味わい深く感じられるのではないでしょうか。
人生の節目を彩る赤飯——その一粒一粒に込められた先人たちの想いを感じながら、これからも大切に受け継いでいきたい日本の食文化ですね。