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アボカドの魅力を徹底解説:森のバターと呼ばれる果実の歴史と特徴

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はじめに

濃厚でクリーミーな口当たりが特徴のアボカド。サラダやディップ、巻き寿司の具材として、今や日本の食卓にもすっかり定着しました。「森のバター」という愛称で親しまれるこの果実は、実は中南米を原産とし、古代文明の時代から人々に愛されてきた歴史ある食材です。

本記事では、アボカドの起源や歴史的背景、名前の由来、そして果実としての特徴について詳しく解説していきます。スーパーで何気なく手に取っているアボカドが、どのような物語を秘めているのか、一緒に探っていきましょう。

中南米が育んだ緑の宝石

アボカドは中南米を原産とする果実です。メキシコや南アメリカの熱帯・亜熱帯地域の湿度が高い低地の森で自生していた常緑広葉樹の高木で、成長が速く、野生では樹高20メートルほどにもなります。

紀元前500年頃にはメキシコで最初に栽培が始まったとされ、それ以降、アボカドはメキシコや中南米大陸で暮らす人々の主食の一つとなりました。マヤ文明以前からメソアメリカの先住民が食べ始めていたという記録もあり、この果実が古代から重要な食料源であったことがうかがえます。

16世紀、スペイン帝国からやってきたコンキスタドールたちは、アステカ族が栽培していたアボカドを発見しました。1519年、エルナンド・コルテスがメキシコの大地に足を踏み入れた際、アボカドに出会ったと言われています。1526年には、スペイン帝国の歴史家ゴンサロ・フェルナンデス・デ・オビエドが、アボカドについて「果実の中心部には、皮を剥いた栗のような種がある。これと皮の間は食べられる部分が豊富であり、これはバターに似たペースト状のものとなっており、美味である」と記述しました。

この記述からも、当時からアボカドの濃厚な味わいが人々を魅了していたことが分かりますね。

「アフアカトル」から「アボカド」へ

アボカドという名前の由来は、実に興味深い変遷を辿っています。

古代アステカ文明のナワトル語では、アボカドは「āhuacatl(アフアカトル)」と呼ばれていました。この語源は古代ナワトル語に由来し、「睾丸の木」という意味を持っていたとされています。果実が木に実る様子や形状から、このような名前が付けられたのでしょう。

スペインやメキシコ、中米のスペイン語圏では「アグアカテ(aguacate)」もしくは「アワカテ(ahuacate)」、南米のスペイン語圏では「パルタ(palta)」、ポルトガル語圏では「アバカテ(abacate)」と呼ばれています。これらはすべて、ナワトル語の「アフアカトル」に由来しています。

英語名の「avocado」は、スペイン語の「aguacate」(アボカド)が、同じくスペイン語の「abogado」(弁護士)と混同されて変化した形と言われています

19世紀末にアボカドの果実がアメリカ合衆国のフロリダとカリフォルニアにもたらされたとき、その爬虫類的な見た目から「alligator pear(アリゲーター・ペア)」と呼ばれました。しかし、1920年代のアボカド生産者たちは、危険な動物を連想させる名前を嫌い、新たに「avocado(アボカド)」と命名しています。

日本においては、果実の表皮がワニの肌に似ていることに由来する「alligator pear」を直訳する形で「ワニナシ」と呼ばれることもあります。

「森のバター」と呼ばれる理由

アボカドが「森のバター」と称される理由は、その豊富な脂肪分と濃厚な口当たりにあります。

果肉の約18〜20%が脂肪分で構成されており、これは果物としては極めて高い数値です。しかし、この脂肪分は良質な不飽和脂肪酸が主体であり、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸といった成分が含まれています。バターのように濃厚でありながら、植物性の脂肪酸を豊富に含むという特徴が、「森のバター」という愛称の由来となっています。

果実は通常は洋ナシ形で、皮のような質感の濃緑色から茄子紺色の果皮で覆われています。真ん中には大きな丸い種子が1個入り、その周囲をライムグリーン色の果肉が包んでいます。果肉は果皮に近いほど濃い緑色をしており、熟すとなめらかでクリーミーな食感になります。

中南米に自生する野生のアボカドの果実は黒くて小さいですが、栽培品種では重さ2キログラムにもなるものもあります。日本のスーパーマーケットで売られているものは、主にメキシコ産のハス種で、200〜340グラム程度の大きさです。

アボカドの実は樹上では軟らかくはならず、収穫後に追熟させることで軟化して食べ頃となります。日本の店頭で販売されているアボカドは皮が緑色で完熟していないものが多いですが、常温で放置することで追熟が進み食べやすくなります。熟すと果皮の色がより黒っぽくなりますが、品種によっては熟しても緑色のままのものもあります。

表皮を軽く押してわずかに柔らかさを感じるほどに軟化すれば、食べ頃の目安です。

世界各地で愛される多彩な食べ方

アボカドは世界各地で様々な形で楽しまれています。

メキシコはアボカドの生産量・消費量ともに世界一であり、ペーストにしたアボカドにトマト、タマネギ、香味野菜、唐辛子、サルサソースを加えた「ワカモレ」は一般的なディップです。トルティーヤのチップスで掬って食べたり、各種の料理のソースにしたり、様々な料理に加えられます。アメリカ合衆国でも、トルティーヤチップスとワカモレは、感謝祭の七面鳥料理と同じくらい定着した料理になっています。

日本では、刺身を食べる時と同じ要領で、ワサビと醤油に浸して食べたり、巻寿司(カリフォルニアロールやレインボーロール等)にしたり、マヨネーズに付けて食べることもあります。和風ドレッシングのサラダにも合いますね。マグロのトロの味がすると言われることもあり、「アボカドの刺身」として楽しむ方も多いのではないでしょうか。

ニュージーランドではサラダにすることが多く、バターの代わりにトーストに塗ったり、アイスクリームにしたりもします。サーモンと合わせて食べる場合もあります。

果肉はきれいな薄緑色ですが、空気に触れていると茶色に変色するため、レモンのような酸をかけることで変色を抑えることができます。

まとめ

アボカドは、中南米を原産とし、古代マヤ文明以前から人々に愛されてきた歴史ある果実です。古代ナワトル語の「アフアカトル」に由来する名前は、スペイン語、英語、日本語へと変遷を遂げ、「ワニナシ」「森のバター」といった愛称でも親しまれています。

果肉の約20%を占める良質な不飽和脂肪酸が、濃厚でクリーミーな口当たりを生み出し、「森のバター」という愛称の由来となっています。メキシコのワカモレ、日本のアボカド刺身、ニュージーランドのアボカドトーストなど、世界各地で多彩な食べ方が楽しまれています。

スーパーでアボカドを手に取る際には、その果実が辿ってきた長い歴史と文化的背景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。きっと、いつもとは違った味わいを感じられるはずです。

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