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はじめに
ルバーブという名前を聞いて、すぐにどんな食材か思い浮かぶ方は、まだ少ないかもしれません。フキを巨大化したような見た目で、赤みがかった太い茎が特徴的なこの食材は、シベリア南部を原産とするタデ科の多年草です。和名はショクヨウダイオウ(食用大黄)、またはマルバダイオウ(丸葉大黄)と呼ばれ、ヨーロッパでは古くから親しまれてきました。
日本ではまだ馴染みが薄いものの、近年は長野県などで栽培が広がり、徐々に認知度が高まっています。強い酸味とかすかな渋み、そしてアンズのような独特の芳香を持つルバーブは、ジャムやパイ、タルトといったデザートに欠かせない存在として、欧米では広く愛されているのです。
初めてルバーブのジャムを口にしたとき、その爽やかな酸味と複雑な風味に驚いたことを今でも覚えています。見た目からは想像できない、果物のような華やかさと野菜らしい力強さが同居する、不思議な魅力を持った食材だと感じました。
シベリアから世界へ広がった赤い茎の野菜
ルバーブは、シベリア南部が原産地とされる多年草です。タデ科ダイオウ属に分類され、太くて短い地下茎を持ち、そこから大きな葉が根生します。食用とされるのは多肉質の葉柄(茎の部分)で、葉身にはシュウ酸が多く含まれるため食べることはできません。
ヨーロッパでは古くから栽培されており、薬用植物としてのダイオウ属は古代ギリシアでも知られていました。食用としての栽培は17世紀以降に本格化し、砂糖が広く流通するようになった18世紀のイングランドで、デザート食材としての利用が本格化したと言われています。
語源は古代ギリシア語の「ρά(rha)」と「βάρβαρον(barbarum)」に由来すると考えられています。前者はディオスコリデスが呼んでいたルバーブの名で、後者は「蛮族の」を意味する言葉です。遠い異国からもたらされた珍しい植物として認識されていたことが、この名前からも伺えますね。
日本への導入は明治時代でしたが、当時は定着しませんでした。しかし近年になって、長野県の信濃町や富士見町などで栽培が行われるようになり、徐々に日本の食卓にも登場するようになってきています。
酸味と芳香が織りなす独特の味わい
ルバーブの最大の特徴は、その強い酸味です。水分が多く、かすかな渋みと特有の芳香を持ち、アンズのような香りがします。
茎の色は品種によって異なり、深紅色、明るいピンク色、薄緑色など様々です。この発色はアントシアニンの働きによるもので、品種や気温、収穫時期によって変化します。視覚的に美しい赤色の品種は人気が高いものの、風味で勝るわけではなく、緑色の品種と比べて一般に小型で収穫効率は良くないとされています。
生のままでは酸味が強すぎるため、通常は砂糖やはちみつと一緒に加熱調理します。細かく刻んで加熱すると柔らかくなり、ジャムやパイ、タルト、プリン、砂糖煮などのデザートに最適です。また、塩味の料理やピクルスにも使えるほか、肉料理の後に食べると消化を助けるという説もあります。
淡色野菜に分類され、カルシウム、マグネシウム、ビタミンA、ビタミンC、食物繊維などを含みます。ミネラル類はフキと同程度、食物繊維はフキの2倍あるとされ、肉の消化を助ける酵素も含まれているため、ハーブとしても注目されています。
北国で愛される春の味覚
ルバーブは温帯性気候で栽培され、冷涼な気候での栽培に適しています。北半球では5〜6月、南半球では10〜11月の春の半ばから終わりにかけて最初に収穫される、季節性の高い野菜です。
収穫後すぐに可食で、切ったばかりの茎は堅く光沢があります。露地栽培のほか、冬に掘り取った根株を暖房温室で栽培する軟化栽培法もあります。軟化栽培では光のない環境で生育を行うため、葉緑素が形成されず、アントシアニンの鮮やかな赤色が優勢となり、茎はより甘く柔らかくなります。
イギリスのウェスト・ヨークシャーにある「ルバーブ・トライアングル」と呼ばれる地域は、この軟化栽培のルバーブを特産としており、灯りのない小屋で促成栽培されたルバーブの初物をろうそくの灯りの下で収穫する習慣があります。なんとも幻想的な光景ではないでしょうか。
日本各地で広がる栽培と多彩な活用法
日本では長野県の信濃町や富士見町などが主要な産地として知られています。信濃町では「ルバーブのシロップ漬け」がお茶請けとして親しまれており、地域の食文化に根付いています。
品種も多様で、緑の茎を持つ代表的な品種「ヴィクトリア」は強壮で知られ、「クリムゾン・レッド」「カーウッド・ディライト」「スタークリムゾン」などは赤い茎を持つ品種です。
調理法も多彩で、ジャムやコンポートといった定番から、タルトやパイ、プリンなどの洋菓子、さらにはサラダやピクルス、肉料理の付け合わせまで幅広く活用できます。きゅうりやミントと合わせた冷製サラダは、暑い日の前菜として爽やかな一品になります。
ルバーブを楽しむための基礎知識
ルバーブを選ぶ際は、茎が堅く光沢があり、みずみずしいものを選びましょう。葉身は必ず取り除いてください。シュウ酸を多く含み有毒です。茎にもシュウ酸は含まれますが微量であるため、通常の食用では人体に害を及ぼすことはありません。
ただし、寒害を受けたルバーブは、有毒成分のシュウ酸が葉から可食部に移行して高濃度となる可能性があるため、食用に適しません。また、重曹とともに煮ると水溶性のシュウ酸塩が生じるため毒性が強まる可能性があるので注意が必要です。
保存方法としては、冷蔵庫で数日間保存できますが、新鮮なうちに使い切るのが理想的です。長期保存する場合は、適当な長さに切って冷凍保存することもできます。冷凍したルバーブは解凍せずにそのまま調理に使えるため、便利ですよ。
調理の際は、砂糖やはちみつ、レモン果汁などと組み合わせることで、酸味がまろやかになり、ルバーブ本来の風味が引き立ちます。加熱すると赤色種も緑色種もどちらも褐色になりますが、味わいに大きな違いはありません。
興味深いことに、ルバーブは食用以外にも様々な用途があります。葉や根にシュウ酸を多く含むことから、金属の錆落としや革のなめし剤、殺虫剤として利用することもでき、髪の脱色に利用する例は17世紀にすでに見られたそうです。
まとめ
ルバーブは、シベリア南部を原産とし、ヨーロッパで古くから愛されてきた食材です。フキに似た太い葉柄を食用とし、強い酸味とアンズのような香りが特徴で、ジャムやパイ、タルトなどのデザートに広く使われています。
日本には明治時代に導入されましたが定着せず、近年になって長野県などで栽培が広がり、徐々に認知度が高まってきました。冷涼な気候を好み、春の半ばから終わりにかけて収穫される季節性の高い野菜です。
葉身にはシュウ酸が多く含まれ有毒ですが、茎は安全に食べられます。カルシウムやマグネシウム、ビタミン類、食物繊維を含み、肉の消化を助ける酵素も含まれています。品種によって茎の色は深紅色から薄緑色まで様々で、それぞれに個性があります。
果物に乏しい北国で珍重されてきたルバーブは、その独特の酸味と芳香で、デザートだけでなく塩味の料理にも活用できる万能食材です。まだ試したことがない方は、ぜひ一度その魅力を味わってみてください。きっと新しい味覚の世界が広がるはずです。






















