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はじめに
和食の味わいを深める調味料として欠かせない「みりん」。照り焼きや煮物に独特の艶と甘みを与え、料理全体をまろやかに仕上げてくれる存在です。しかし、このみりんがどのように生まれ、どのような変遷を経て現在の調味料としての地位を確立したのか、ご存知でしょうか?
本記事では、みりんの起源から製法、そして和食における役割まで、詳しく解説していきます。
私が初めてみりんの奥深さに気づいたのは、本みりんとみりん風調味料を使い分けた煮物を食べ比べたときでした。本みりんで仕上げた煮物は、ただ甘いだけでなく、複雑な旨味と上品な香りが広がり、素材の味を引き立てる力強さを感じたのです。それ以来、みりんという調味料の持つ可能性に魅了され続けています。
もち米が生み出す、まろやかな甘みの正体
みりんは、もち米、米麹、焼酎または醸造アルコールを主原料とする酒類調味料です。アルコール度数は約13〜14%で、酒税法上は「酒類」に分類されます。
本みりんの最大の特徴は、その製法にあります。もち米を蒸し、米麹と焼酎を加えて40日から60日ほどじっくりと熟成させることで、米のデンプンが糖化され、複雑な甘みと旨味成分が生まれるのです。この熟成期間中に、アミノ酸や有機酸などの成分が生成され、単なる砂糖水では決して再現できない深い味わいが形成されます。
一方、スーパーで見かける「みりん風調味料」は、糖類や調味料を混ぜ合わせて作られた別物です。アルコール度数は1%未満で、酒類には該当しません。価格は手頃ですが、本みりんが持つ複雑な風味や照りの美しさには及びません。
本みりんは調味料でありながら、日本酒と同じく醸造という伝統的な技術によって生み出される、まさに日本の食文化が育んだ芸術品と言えるでしょう。
謎に包まれた起源、中国か日本か
みりんの起源については、確定的な説がなく、主に二つの説が語られています。
中国伝来説では、明・清の時代に中国に存在した「密淋(ミイリン)」という甘い酒が、戦国時代頃に日本へ伝わったとされています。1593年の『駒井日記』に「蜜淋」の名称が記されており、これがみりんに関する最古の文献とされています。また、1649年の『貞徳文集』には、みりんが渡来したものであるとの記述も残されています。
一方、日本発祥説では、室町時代の京都相国寺の公用日記『蔭涼軒日録』(1466年)に登場する「練貫酒」という博多の甘い酒が、みりんの原型だったとする見方があります。日本に古くから存在した練酒や白酒などの甘い酒に、腐敗防止策として焼酎を加えたことで、現在のみりんが生まれたという説です。
さらに、江戸時代に千葉県流山の醸造家が作り出したのが発祥とする説も存在します。
飲む酒から調味料へ、江戸時代の大転換
興味深いことに、みりんは当初、調味料ではなく「甘い飲用酒」として親しまれていました。17世紀には、お酒が苦手な人や女性が楽しむための甘口の酒として人気を博していたのです。
調味料としての使用が本格化したのは、江戸時代中期以降です。1785年に発表された料理書『萬寶料理秘密箱』の中で「赤貝和煮」にみりんを使う記述が登場し、その後、鰻のたれや蕎麦つゆなどに用いられるようになりました。『守貞謾稿』(1837年〜1867年)には、関東で鰻のたれや蕎麦つゆにみりんが使われていることが記されており、この頃には調味料としての地位が確立していたことがわかります。
明治時代には、全国に3千近いみりん製造免許場が存在し、産業として大きく発展しました。しかし、1943年から第二次世界大戦中の物資不足により8年間製造が禁止され、戦後も贅沢品として重い酒税が課されました。この時期、酒税を回避するために塩を加えた「塩みりん」や、「みりん風調味料」が登場したのです。
1940年代には大衆の酒として親しまれていたみりんですが、1950年代以降に清酒やビール、ウイスキーが普及すると、飲用としての消費は消えていきました。その代わりに、調味料としての使用が増加し、現在の姿へと変化していったのです。
1996年には販売免許の要件が緩和され、「みりん小売業免許」を取得すれば、酒類を扱っていないスーパーや食料品店でもみりんを販売できるようになりました。2006年には一般酒類小売業免許に統合され、さらに流通が広がりました。
飲む文化から調味する文化へ。この大転換こそが、みりんの歴史における最大の特徴と言えるでしょう。
照り、旨味、香り、そして臭み消し
みりんが和食において重宝される理由は、料理に与える多彩な効果にあります。
まず、照りと艶です。みりんに含まれる糖分とアルコールが、加熱によって食材の表面に美しい照りを生み出します。照り焼きや煮物の艶やかな仕上がりは、みりんなくしては実現できません。
次に、まろやかな甘みとコク。砂糖だけでは出せない複雑な甘みと、熟成によって生まれた旨味成分が、料理全体に深みを与えます。
さらに、臭み消し効果も見逃せません。みりんに含まれるアルコールが、魚や肉の臭みを揮発させ、素材本来の味を引き立てます。
そして、香り。みりん特有の芳醇な香りが、料理に上品な風味を添えます。
これらの効果が複合的に作用することで、和食独特の繊細な味わいが生まれるのです。みりんは単なる甘味料ではなく、料理を多層的に仕上げる「魔法の調味料」と言っても過言ではありません。
本みりん、みりん風、そして塩みりん
現在、市場には主に三種類のみりん関連商品が流通しています。
本みりんは、もち米、米麹、焼酎または醸造アルコールを原料とし、40〜60日熟成させた酒類調味料です。アルコール度数は13〜14%で、酒税法上の「酒類」に該当します。価格は高めですが、料理に与える効果は抜群です。
みりん風調味料は、糖類や調味料を混ぜ合わせて作られた、アルコール度数1%未満の調味料です。酒類には該当せず、価格も手頃ですが、本みりんのような複雑な風味や照りは期待できません。
塩みりんは、本みりんに塩を加えて酒税を回避した商品で、戦後の酒税対策として生まれました。現在ではあまり見かけませんが、一部の地域では今も使われています。
料理の仕上がりを重視するなら、やはり本みりんを選ぶべきでしょう。特に照り焼きや煮物など、みりんの効果が顕著に現れる料理では、その差は歴然です。
もち米と米麹が織りなす、熟成の妙
本みりんの製法は、日本酒造りと共通する部分が多く、伝統的な醸造技術の結晶です。
まず、もち米を蒸し上げます。もち米を使う理由は、うるち米よりもデンプン含有量が多く、糖化によって豊かな甘みが生まれるためです。
次に、蒸したもち米に米麹と焼酎(または醸造アルコール)を加え、タンクで仕込みます。米麹の酵素がもち米のデンプンを糖に分解し、同時にタンパク質がアミノ酸へと変化していきます。
この状態で40日から60日、じっくりと熟成させます。この期間中に、糖分、アミノ酸、有機酸などの成分が複雑に絡み合い、みりん特有の深い味わいが形成されるのです。
熟成が終わったら、もろみを圧搾して液体を分離し、濾過して完成です。この圧搾後に残る固形物は「みりん粕」と呼ばれ、漬物床や甘味料として利用されることもあります。
この製法は、数百年にわたって受け継がれてきた日本の醸造技術の賜物です。時間をかけてじっくりと熟成させることで、化学調味料では決して再現できない、自然の恵みが凝縮された味わいが生まれるのです。
まとめ
みりんは、もち米、米麹、焼酎を原料とし、40〜60日の熟成を経て生まれる日本の伝統的な酒類調味料です。その起源には中国伝来説と日本発祥説があり、確定的な答えは出ていませんが、いずれにせよ日本の食文化の中で独自の進化を遂げてきました。
当初は甘い飲用酒として親しまれていたみりんは、江戸時代中期以降、鰻のたれや蕎麦つゆなどに使われ始め、調味料としての地位を確立しました。戦後の酒税対策から生まれたみりん風調味料も普及しましたが、本みりんが持つ照り、旨味、香り、臭み消しといった多彩な効果は、和食の繊細な味わいを支える重要な要素です。
現代の食卓においても、みりんは和食の基本調味料として欠かせない存在であり続けています。その歴史と製法を知ることで、日々の料理がより深い意味を持つものになるのではないでしょうか。伝統的な醸造技術が生み出すこの調味料の魅力を、ぜひ味わってみてください。






















