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“やさしくて食べ疲れない”のがカメキチのフランス料理

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カメキチ|亀井 健

シェフレピさんから、『煮込み料理をお願いしたい』と依頼を受けて、まず思い浮かんだのが『牛ホホ肉の赤ワイン煮込み』でした。カメキチのスペシャリテでもあって、いいかなと思ったのですが、前の月にすでに販売されているということだったのでやめました(笑)。鶏肉のフリカッセやブイヤベース、ポトフなども考えたのですが、どれもすでに販売されたこともあるということで、それならとちょっと時間はかかりますが『カスレ』なら、冬になって寒くなる時期にぴったりかなと思いました

大阪・谷町四丁目の人気ビストロ「カメキチ」にとって「カスレ」は、多くのゲストに支持され続けている“冬のスペシャリテ”だとオーナーシェフの亀井健さんはいいます。

カスレは、フランス南西部を代表する白インゲン豆を使った煮込み料理。なかでも亀井シェフが作るのは、鴨肉のコンフィ(油煮)と数種類の部位の豚肉、ソーセージを一緒に煮込むトゥールーズ風のカスレです。

表面に浮かんだ豚から出たゼラチンや脂を最後に焼き焦がして食べるのが魅力で、グツグツと煮えた熱々のカスレは、冬にぴったりのフランスを代表する煮込み料理といえます。

カメキチのカスレは「白インゲン豆をおいしく食べる」料理

煮込み料理」は、素材から出たうま味をどう食べさせるのか、それはそのままフランス料理の真髄でもあると亀井シェフはいいます。

たとえば、牛ホホ肉の赤ワイン煮込みも、煮込んでとった出汁にルーを加えてソースにします。肉のおいしさを残しながらソースを仕上げていくので、2つのおいしさが交差する点をうまく見つけることがおいしい牛ホホ肉の赤ワイン煮込みを作るポイントです。ポトフは、言葉は悪いですが肉や野菜“カスカス”になるまで味を出し切ったスープを飲むもので、具材はおいしいスープを吸わせて付随的に食べる料理といえます。では、カスレはどういう料理か。鴨や豚のさまざまな部位を使って煮込んでいますが、僕はあくまでお豆をおいしく食べる料理だと思っています

鴨肉はマリネしてうま味を引き出してからコンフィにする。豚は、それぞれの部位からうま味や風味を移した出汁をとる。そしてその2つをあわせて煮込むことで複雑に重なり合ったうま味のある出汁になり、それを白インゲン豆に吸わせながら炊いていく。亀井シェフは「白インゲン豆がソースになっているイメージです」と説明します。

ですので、グツグツと煮えたお皿がお客様のテーブルに届いて『さぁ食べよう』としたひと口目では、鴨のコンフィや豚肩ロースではなく、お豆をからですくって食べてもらいたいわけです。そう考えると、お客様が鴨や豚肩をナイフで切りわけたりすると豆を食べる意識が薄れてしまいます。お豆よりも存在感が強くなってしまってはいけないわけです。煮込むときにすべての食材をお豆と一緒に食べやすくひと口大の大きさに切っているのはそのためです。全部の食材は、ソースであるお豆と一緒に食べることが『カスレ』を食べることだと思っています

それぞれの素材の個性を理解して役割を与える

僕のカスレの特徴といえば、それほど強いスパイスを使っていないということでしょうか」と亀井シェフ。その分「素材のおいしさ、素材からでるうま味を食べてほしい」といいいます。

とくに鴨モモ肉のコンフィは、仕込みに時間がかかりますが、レシピのなかで大事な役割をはたしていると思います。たとえば、スープを作るときに、豚バラ肉を煮込むよりも、豚バラのベーコンを煮込んだ方が香りもうま味もまったく違ってでますよね。おそらく多くの方が、ベーコンの方がおいしいと感じると思います。鴨肉をコンフィにするのもそれと同じ理由で、コンフィにするからこそ出せるうま味と香りがあると思っています

鴨モモ肉のコンフィは、今回カスレにして煮込みましたが、そのまま焼いてもおいしいと亀井シェフはいいます。「焼いて食べる場合は、湯煎で加熱したあとに1日か2日冷蔵庫でねかせてから焼くと、風味やうま味が生まれておいしく焼けると思います。フライパンで皮目を下に、パリッとなるまで焼くようにしてください」と亀井シェフ。さらに出汁をとるための豚の部位も、それぞれに役割があるといいます。

スネ肉と舌は、硬い部位だからこそもつ強いうま味と、煮込むことによって生まれる独特の食感が魅力です。耳や豚足からはたっぷりのゼラチン質がでます。もちろん、スネや舌からもゼラチン質はでますが、皮からの方がよくでると亀井シェフはいいます。このゼラチン質が油膜になり、グラタン皿に盛り付けて最後につける焼き色のポイントになるのです。

どの部位もなくてはならいのですが、僕はとくに豚足はポイントだと思っています。今回は、臭み消しの野菜などを加えず水だけで煮出しています。作ってみるとわかると思うのですが、ほのかにラーメンの豚骨スープのような香りがあるほかは、皆さんが思っているような臭みはほとんどありません。今回は煮汁が減ってきたときに注ぎ足すように使っていますけど、たとえばカメキチでは、豚の内臓の煮込み『トリッパ』の出汁に使ったりするなど、この香りとやさしいうま味を気に入っています。豚の耳でも同じような効果が得られんですけど、ロースとかフィレのような焼いておいしい部位からは出せないおいしさです

「やさしい味」といわれても素直に喜べなかった時期

カメキチ」のオープンから16年、老舗の風格すらただようレストランとして人気を保ち続けていますが、亀井シェフ自身は、自分らしさがみえてきたのはつい5年ほど前からだといいます。

大阪には、『ラ・トォルトゥーガ』の萬谷浩一シェフや『大西亭』大西敏雅シェフ、「ヴレ・ド・ヴレ シェ・ヒロ」の 大垣裕康シェフといった、味も力強く個性的なフレンチを作る先輩シェフがいらっしゃいます。僕も最初の頃はそんな料理をしたいと思っていました

しかし、カメキチを愛するゲストからは「亀井シェフのやさしい性格が料理に出ているね」といわれることが多く、光栄に思いながらも、どこか理想と現実を素直に受け入れられずにいたといいます。

昔は“やさしい”といわれるのは嫌だったんです。でもそのやさしい料理を求めてリピートしてくださるお客様がいらしているのだから、僕の料理はこれでいいと思えるようになったんです。コースでも、アラカルトでも、食べた次の日も疲れないと行っていただける。毎日食べられるやさしい料理が僕の料理だと今は素直に思っています

たとえば、今回のカスレでいえば、豚のフォンをとる際に、豚の各部位を茹でこぼしてきれいにしてから煮出すような手間は亀井シェフらしい“やさしさ”でもあります。

そういった意味でも今回のカスレは、強い香りや塩味でガッツリというよりは、うま味を丁寧に重ねて、豆や鴨、豚のそれぞれのよさを食べてもらうような『カメキチらしいレシピ』だと思っています。使う材料も、比較的手に入りやすいと思いますので、シェフレピさんで一度作っていただいたあとも、再チャレンジできるのではないでしょうか。もし気に入っていただけたら、ぜひお店にもいらしていただきたいです。カスレを注文して“答え合わせ”してただくのもよいと思います

亀井 健●かめい・たけし
1978年生まれ、大阪府出身。辻調理師専門学校フランス校を卒業。大阪・心斎橋のフレンチレストラン「ル クロ」などのレストランで研鑽を積み、2005年、27歳で独立し「カメキチ」を開く。2021年で創業16年、伝統的なフランス料理を気取らずカジュアルに食べられるレストランとして支持を集め続けている。

カメキチ オフィシャルサイト Instagram 
亀井シェフ Instagram

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