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復活祭の日のイタリアの日常を通じて、イタリアの食を伝えていきたい

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田淵 拓|サッカパウ

イタリアとドイツを拠点に15年、世界15カ国で活躍し、各国で料理をしてきた田淵シェフにとって、ラム肉は「イタリアの復活祭を象徴する食材」だといいます。イエス・キリストの復活を祝う復活祭(英語:イースター、イタリア語:パスクア)は、イタリアでは特にラム肉料理が好んで食卓に並べられるそうで、1年でもっともラム肉が消費される日とも言われています。

「復活祭は、春の訪れを祝う日でもあるんですよ」という田淵シェフは、ラム肉にグリーンピースや日本の食材である木の芽などを合わせたイノベーティブで春らしいラグーソースを作ります。

イタリアとドイツに15年、ヨーロッパにどっぷり浸かって帰国

高校生の頃からイタリア料理店でアルバイトをしていた田淵さんは、高校卒業後、大阪で働いた後、23歳でイタリア・ローマに渡りました。それから7年ほど、イタリア各地をまわりながらイタリア料理を学び、30歳でドイツ・ハンブルクに共同経営のイタリアンレストラン「I Vigneri」をオープンさせます。

I Vigneriは、1950年代のイタリアの伝統的なオステリア(居酒屋)をイメージさせる店で、ドイツではまだまだ馴染みのないイタリアのカルチャーを伝える店として人気になります。3年後には姉妹店「Caffe I vigneri」をハンブルクにオープンさせるなど、ドイツでも7年ほどを過ごしました。

イタリアとドイツを拠点に15年、世界15カ国でシェフとして活躍して田淵さんは、15年ぶりに日本に帰国すると、クラシックなI Vigneriとコンセプトを変えたクリエイティブイタリアン「サッカパウ」のシェフに就任すると、同店を2016年にオープンさせます。

日本では、郷土に根差した伝統料理をルーツにするイタリアンレストランが多い中、15年間ヨーロッパの文化にどっぷりと浸かって帰国し、コンテンポラリーで前衛的な田淵さんの料理は、すぐさま話題になり、メディアでも頻繁に取り上げられる人気店になりました。

パスクアの日の家庭で食べられるような煮込み料

帰国して6年、まだまだ海外での料理人生活の方が長い田淵シェフにとって、ラム肉はヨーロッパの思い出の食材。とくにもっとも長い時間を過ごした南イタリアでは、羊と人間が一緒に暮らしているといえるほど近い存在だったといいます。

「シチリアでは、人が歩く道路に羊が入ってきて、道を塞いで通れないなんてことがしょっちゅうありましたよ(笑)」

イタリアでは4月のキリスト教の祝日、復活祭(パスクア)にラム肉を食べる習慣があり、1年でもっともラム肉が売れる日だといいます。

「ラム肉を使った料理は、レストランや家庭を問わず食べるもの。パスクアは、移動祝祭日で、4月の上旬から中旬の日曜日にあたるので、教会でお祈りをしたあとの食事として春の食材と一緒に食卓に並びます。塊肉で焼いてみんなで切り分けて食べたり、いろいろな調理をするんですけど、今回は、パスクアの日の家庭で食べられるような煮込み料理をパスタのソースにしてみました」

一般的な煮込み料理では、しっかりと炒めてメイラード反応(糖とアミノ酸が、加熱によって結合し褐色物質《メラノイジン》を生み出す反応のこと。一般的に表面についた茶色の焼き色がうま味成分になることで説明される)を起こしてから煮込み始めます。今回のレシピでも、田淵シェフはラム肉、野菜、赤ワインの順に入れて煮込みのベースをしっかりと炒めて煮詰めてから煮込み始めていますので、シェフのテクニックを動画で確認してみてください。

また今回のラグーソースなら、スパゲティなどの乾麺のロングパスタを合わせてもいいそうですが、「せっかくなので生地から手作りしてみましょう」と田淵さん。手作りすることで、イタリアの家庭料理の楽しさを体験してほしいと、道具を使わずに指先で形を作れる手打ちパスタで、イタリア南部のモリーゼ州やプーリア州が発祥といわれる「カヴァテッリ」を、今回のおパスタに選んでくれました。

まだ知られていないイタリア料理を伝えていきたい

サッカパウでは、コンテンポラリーで前衛的な料理を作るイメージがあった田淵シェフが「ラグーソースの手打ちパスタを作ります」と聞いて少し意外に感じました。しかし、改めて田淵さんのこれまでの料理人としての人生を聞いていると「イタリアの食文化を知ってほしい」という思いが根底にあることに気付かされます。ハンブルクの2軒のトラットリアも、ハンブルクの人たちに知ってもらうために始めたものでした。

「ドイツでは、復活祭にラム肉を食べる習慣がありませんでしたので、イタリアの伝統文化を知ってもらうためにラム肉の料理を作っていました。もちろん、今回お教えするようなラグーも作っていましたよ。イタリアの南部の料理といえば魚介をイメージされる方が多いのは、日本もドイツもじつは同じです。そんななかで、僕が見てきたまだ知られていないイタリア料理を伝えるということは、お店のスタイルは違いますが、ドイツでもイタリアでも、同じことなんです。もちろん今回のレシピも、同じことなのです」

そんななかでも、ほんの少しのアレンジでクリエイティブなイタリアンのエッセンスもしっかりと加えるのも田淵さんの真骨頂。たとえば、今回のレシピでは、タイムやローズマリーといった煮込みでよく使うハーブを、和の食材の木の芽で代用したり、家庭ならごった煮のように一緒に煮込んでしまうグリーンピースをさっと湯がいただけで薄皮をとり、食感と香りのコントラストとして使うなど、田淵さんのクリエイティブな感性を感じることができます。

田淵 拓●たぶち・たく
料理人として5年間、大阪でイタリア料理の基礎知識を学んだ後、イタリアへ。6年間、イタリア各地のレストランで料理修行を経て、ドイツ・ハンブルグでメインシェフとして2軒のリストランテを経営、成功に導く。そして、次の活躍の場を15年ぶりの日本に移し、海外で培った感性を表現するために、東京・西麻布の「サッカパウ」の開業に携わる。自らがフードクリエイターとして、型にはまらない、「今」を体感できる料理をテーマに創作性の高い一皿を提案。日本ではまだ知られていない食材や、その扱い方を含め、緻密に組み合わせていくことで、新しい文化が生まれるきっかけを創り出している。

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