🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 料理上手になるには疑問をもって試してみること

料理上手になるには疑問をもって試してみること

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

山内 茂|アンティム

大阪府北部、万博記念公園がある吹田市でも閑静な住宅地にある「アンティム」は、フランス語で「親密な」「くつろげる」という意味をもつフレンチレストランです。オーナーシェフの山内茂さんは、辻調理師専門学校のフランス校に留学していた時期に訪れたフランス南部にある三つ星レストラン「メゾン・ピック」での光景が、アンティムが生まれる原風景になっているといいます。

フランス料理の歴史に載っているような超名店でしたが、店内はファミリー客ばかりだったんです。もう三世代は当たり前で、そこに親戚まで加わったようなファミリーばかり。日本では、小さいお子様をお断りしているお店もありますが、ピックではそんなことはまったくなくて、お子様にもフレンドリーなサービスをしていたんです。もちろん何でもよいフレンドリーさではなく、格式がしっかりある。研修生として別の地方の小さな町にあった一つ星レストランに入ったこともありますが、その店も地域の人たちがお祝いの日に利用するレストランでした。僕も店をやるならそういう店にしたい思い、大阪の繁華街ではなく、住宅地に開店したんです

アンティムでは、オーソドックスな料理やクラシックな地方料理などをベースにしながら、口あたりや食後感を軽くするような工夫をしたり、和の食材を入れたりといったアレンジを少し加えたフランス料理を作っているという山内シェフ。「『誰にでも来てほしい』と思っていますので、『かしこまったフランス料理』というよりは、親しみやすく味わいもわかりやすいようにしています」といいます。

フランスに赴任した時に「料理をしたい」と強く感じた

アンティム」をオープンしたのは、2018年3月、45歳のとき。料理人が独立する年齢にしてはやや遅くなったのは、山内シェフの母校である「辻調理師専門学校」に職員として19年間務めていたこともあります。

辻調理師専門学校を卒業後、神戸のホテルで働いていた山内シェフでしたが、1994年の阪神淡路大震災に遭いました。就職して2年、社会人になりたてのなかでおとずれた先の見えない不安。それをきっかけに、もともと料理を教える側にも興味があったこともあって母校の職員採用に興味を持ち始めました。

学校に被災に遭いましたが無事ですという報告をしたついでに『職員募集ってありますか?』と聞いたんです。でもその時は募集がなくて諦めて、ホテルで引き続き仕事をしていたんですね。そうしたら、その年末に学校から『職員試験あるけどどうする』と電話がかかってきていたんです。ご存じの通り、飲食業界の年末は戦場のように慌ただしい時期です。忙しさもあって『考えておきます』と答えを出さずに仕事に戻ったのですが、それでも何度も電話がかかってきまして。これでは仕事にならないと思って、『受けますから年明けに連絡しますから』って答えたんです(笑)。そしてその年明けに学校にいったら、それがどうやら面接だったみたいで。そんな経緯もあって1995年に辻調(辻調理師専門学校の略称)の職員になりました

職員の仕事は、実習授業の前の計量から実習中の助手をすることもあれば、生徒に実際に教えることもある。さらに、教科書の撮影にも加わったりと、仕事は多岐にわたります。さらに山内シェフは、フランス校にも2年ずつ2度赴任し、現地で教えた経験も。2000年には、沖縄サミットの晩餐会の調理スタッフチームに加わったり、「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」といった料理番組に出演する学校の先生のアシスタントで帯同したりと、貴重な経験をしてきました。

学校では最終的には教授として勤務をしました。仕事はひじょうに楽しかったんです。しかし、2010年から2度目のフランス校に赴任していた2年間、やっぱり料理をしてる方が楽しいと感じるようになった。その頃は、40代前半でしたので、挑戦するならラストチャンスだなと思いました。ここを逃したら、もうやりたいこともできなくなると感じて、思い切って退職したんです

退職後は、辻調理専門学校の同僚で友人の安尾秀明氏のレストラン「コンヴィヴィアリテ」に入ります。スーシェフとして2年間勤めた後に独立、「アンティム」をオープンさせたのです。

教えるのに大事なのは、ポイントを絞って伝えていくこと

久しぶりに教える立場になって緊張しました(笑)。学校では、目の前に生徒がいるので喋りながら反応を見て説明を変えたり、理解してなさそうな生徒にはフォローを入れたりできたんですが、今回は、みなさんが画面の向こうにいるので反応がわからないですからね。説明が足りていないのではないかなというのが不安でしたね

一方で、学校での教え方のポイントは、ほとんど変えなかったといいます。

学校では、その授業の覚えてほしいポイントを最初に伝えるんです。今回でいえばジュの取り方は『肉や野菜を炒めるときに鍋底にスュックといううま味成分になる焦げを作るんですよ』というようなことを初めに伝えるんですよ。そして、そのポイントのときは、どういう状態がいいのか、この香りが大事だよと重点的に伝えます。いい香りがしてきた瞬間には、鍋をもって教室をガーッて走ることもありました(笑)。『このおっさん何しよんねん』って思われても、それで興味持ってくれたらいいですから。強弱をつけた伝え方は大事だと思います

今回のレシピでは、「仔羊の下処理」と「仔羊の低温調理での火入れ」、「基本のジュ(汁)」、「ヴィエノワーズ生地の使い方」をポイントとして学べるように構成し、動画でも丁寧に解説をしています。

とくにジュのとり方は、最初の肉と野菜をきれいに焼くことや、鍋底にスュック(おこげ)をしっかりつけること、そして液体を入れた後の火加減の3点を重点的に見てほしいといいます。

フランス料理の醍醐味であるソースのベースになるもののひとつがジュです。今回の仔羊からとったジュのとり方は、とても基本的なものです。慌てて火を強くして味が出る前に煮詰まってしまうようなことをせず、ゆっくりと味を染み出させるようなイメージで煮だしてもらうと、失敗もなくおいしくできると思います。この基本が理解できれば、牛や鶏、豚でも同じようにジュをとることができるようになります。さらに煮詰める液体も水にするかワインにするか、出し汁にするかによって出来あがりも無限に変わっていきます。それでも基本は、慌てずゆっくりと煮だしていくことは変わりません

料理上手になるには「疑問をもつこと」

最後に、19年にわたる調理師専門学校の教師をしてきた山内シェフに「料理がうまくなる生徒」の特徴について聞きました。

疑問もつ生徒だと思います。いわれたことを鵜呑みにするよりも、『なぜなんですか』、『なぜこうしないといけないんですか』と聞いてくる生徒は、こちらも親身に教えたくなります。たとえば、肉を焼くときは常温に戻してから焼くということを知っている方は多いと思います。でもなぜ常温に戻すのか、どれぐらい時間が経ったら常温になるのかを考えることが大事だと思うです。そんな生徒には、『先生、肉は2時間前とかに出しとくのはあかんですか』『別に2時間前でもええけど、夏のときに2時間前に出してるとちょっと腐りそうで怖いよね。温かいんだったら、1時間でもいいんじゃない』という現場レベルのことも教えてあげられますから

タマネギを切ることを考えても、レシピではスライスするとしか書かれていません。それを、みじん切りにしたらどうなるんだろう、角切りにしてもいいんじゃないかと、いろいろな方法を考えてみること。そしてそれを、実際にやってみる。そうするとスライスもみじん切りも角切りも、大きく差が出ないこともあったりします。

それなら切る時間が短くすむスライスでいいと、レシピの1行が腑に落ちていきます。そのかわりに、短縮した時間で肉をしっかり焼こう。そんな優先順位がつけられるようになることは、疑問をもつことから始まると山内シェフはいいます。

人の真似することも同じです、真似することで見つかることもたくさんあります。それは、専門学校の生徒にとってということではなく、料理が上手になりたいと思っている方にも同じことがいえると思います

ぜひ今回の山内シェフのレシピを一度真似してみて、疑問に思ったことを実践してみてください。さらにシェフレピでは、チャットでの質問を受け付けていますので、レシピの疑問を投げかけてチャットに送ってもらえれば、可能な限りお答えし、あなたの料理技術の向上をサポートしていきます。

山内茂●やまうち・しげる
1972年生まれ。 1992年に辻調理師専門学校 フランス校を卒業。神戸のホテルに就職するも1994年の阪神淡路大震災を契機に母校の辻調理師専門学校の職員となり、19年間勤めた。学校を退職後は、元同僚の安尾秀明氏が大阪でオーナーシェフを務める一つ星フレンチ「コンヴィヴィアリテ」のスーシェフとして2年間勤務した後、2018年に大阪・吹田に「アンティム」を開いて、独立した。
店舗サイト:https://intimebistrochic.info/
店舗Instagram:https://www.instagram.com/intime_bistrochic/

🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 料理上手になるには疑問をもって試してみること