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バインセオとは?ジュージューと焼ける黄金色のベトナム風クレープ

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はじめに

バインセオという料理をご存知でしょうか?ベトナム南部で生まれた、黄金色に輝く米粉のクレープのような料理です。日本では「ベトナム風お好み焼き」とも呼ばれますが、その食べ方や食感は日本のお好み焼きとはまったく異なります。

熱したフライパンに生地を流し込むと「ジュージュー」と音を立てる——この音こそが「バインセオ」という名前の由来なのです。ターメリックで鮮やかな黄色に染まった生地は、パリッと香ばしく焼き上げられ、中にはエビや豚肉、もやしがたっぷり。それをレタスや香草で包み、甘酸っぱい魚醤のタレにつけていただく。この一連の食べ方が、バインセオの醍醐味と言えるでしょう。

「セオ」という音が名前になった料理

バインセオの「バイン」とは、ベトナム語でパンやケーキ、饅頭など、粉をこねたり焼いたりした料理全般を指す言葉です。一方「セオ」は、熱い鉄板やフライパンに生地を注いだときに立てる「ジュージュー」という擬音を表しています。ベトナム語では「セオセオ」と聞こえるそうで、まさに調理の音がそのまま料理名になったわけですね。

米粉とココナッツミルク、そしてターメリックを混ぜた生地を薄く焼き、豚肉やエビ、もやしなどの具材を包んだクレープ状の料理——これがバインセオの基本形です。ターメリックによる鮮やかな黄金色が特徴的で、見た目にも食欲をそそります。

西欧では「ベトナム風クレープ」、日本では「ベトナム風お好み焼き」と呼ばれることもありますが、どちらも完全には当てはまりません。クレープのように薄く焼きますが、具材はたっぷり。お好み焼きのようにボリュームがありますが、生地と具を別々に調理して後から合わせる点が異なります。バインセオは、バインセオとしか言いようのない独自の料理なのです。

南部ベトナムで育まれた庶民の味

バインセオの起源については諸説あり、明確な答えは出ていません。一説には、フランス統治時代の文化的影響を受けてベトナム中部で生まれたとも言われています。また、ベトナムに移住してきた周辺国の人々の食文化とベトナムの伝統が混じり合い、南ベトナムで誕生したという説もあります。さらには、かつてベトナム中南部に栄えたチャム族の料理が起源だという見方もあるようです。

いずれにせよ、バインセオはベトナム南部で広く愛されるようになりました。安価で手に入る米粉を使い、調理も比較的簡単なため、労働者階級の人々に好まれていたと言われています。ホーチミン市(旧サイゴン)をはじめとする南部の都市部では専門店が軒を連ね、屋台でも気軽に買える庶民的な料理として定着しました。

一方、ベトナム北部ではあまり食べられていないそうです。南部では日常的な家庭料理として親しまれており、各家庭でレシピが受け継がれているため、具材や味付けのバリエーションも実に多彩です。この地域性の違いも、バインセオの興味深い点ですね。

パリパリ食感と黄金色の輝き

バインセオ最大の特徴は、なんといってもそのパリパリとした食感です。米粉とココナッツミルクをベースにした生地を薄く焼き、さらに油でしっかりと焼き上げることで、外側はカリッと香ばしく、中はしっとりとした食感が生まれます。

ターメリックを加えることで生まれる鮮やかな黄金色も、バインセオの大きな魅力です。この色は食欲をそそるだけでなく、ターメリック特有のほのかな香りと風味を生地に与えます。ココナッツミルクのまろやかな甘みと相まって、独特の風味が生まれるのです。

具材には豚肉やエビ、もやしが基本ですが、緑豆、鶏肉、キノコ、タマネギ、青ネギなど、好みに応じてさまざまな食材が使われます。あらかじめ加熱しておいた具材をたっぷりと乗せて二つ折りにし、さらに油で皮をパリパリに焼き上げる——この工程が、バインセオの美味しさを決定づけます。

付け合わせには、ミント、ドクダミ、紫蘇などの香草類が欠かせません。これらの香草と一緒に食べることで、油っぽさが中和され、爽やかな風味が加わります。

地域を越えて広がるバインセオ文化

バインセオはベトナム南部発祥ですが、その人気は国境を越えて広がっています。隣国カンボジアでも日常的に食べられており、「バインチャエウ」と呼ばれています。カンボジア版は、ベトナム中部風よりも南部のバインセオに近いスタイルだそうです。

タイ王国では「カノムブアンユアン」または「バンサオ」という名前で親しまれています。ただし、タイ版には独自の特徴があります。生地をよりパリッとさせるために石灰水を加え、具材には刻んだココナッツ、揚げ豆腐、チャイポー(中華風の大根の漬物)、揚げたピーナッツ、コリアンダーなどが使われます。付け合わせも豆もやしやキュウリの漬物など、タイらしいアレンジが施されています。バンコクの屋台やタイ料理レストランで味わうことができるそうです。

このように、バインセオは各地域の食文化と融合しながら、それぞれの土地で独自の進化を遂げています。基本的な調理法は共通していても、具材や味付け、食べ方には地域ごとの個性が表れる——これこそが、東南アジアの粉物料理の面白さではないでしょうか。

米粉とココナッツミルクが織りなす味わい

バインセオの生地の主役は、米粉です。小麦粉ではなく米粉を使うことで、独特のサクサク、パリパリとした軽い食感が生まれます。これにココナッツミルクを加えることで、生地にほのかな甘みとコクが加わり、ターメリックの香りと相まって複雑な風味が生まれるのです。

具材の豚肉は、脂身のある部位を使うことで旨味とジューシーさが増します。エビはプリプリとした食感と甘みを提供し、もやしはシャキシャキとした歯ごたえと瑞々しさをもたらします。これらの具材が、パリパリの生地に包まれることで、食感のコントラストが楽しめるわけです。

付け合わせの香草類——ミント、ドクダミ、紫蘇——は、単なる飾りではありません。これらの香草は、料理全体の味わいを引き締め、爽やかさを加える重要な役割を果たしています。特にミントの清涼感は、油で焼いた生地の重さを軽減し、何枚でも食べられそうな気分にさせてくれます。

そして忘れてはならないのが、タレの存在です。「ヌクチャム」と呼ばれるこのタレは、ヌクマム(魚醤)に酢、砂糖、唐辛子、ニンニクなどを混ぜたもので、甘酸っぱくて複雑な味わいが特徴です。このタレにバインセオをつけることで、味に深みと変化が生まれ、最後まで飽きることなく楽しめるのです。

レタスで包む独特の食べ方

バインセオの食べ方は、日本のお好み焼きとはまったく異なります。焼き上がったバインセオは、まず一口大にちぎります。そして、レタスやサニーレタスなどの葉もの野菜の上に置き、ミントや紫蘇などの香草を一緒に乗せて包みます。これをヌクチャムのタレにつけて、一口で頬張る——これがバインセオの正しい食べ方です。

この食べ方の妙は、温かいバインセオと冷たい生野菜、パリパリの生地とシャキシャキのレタス、香ばしい具材と爽やかな香草、そして甘酸っぱいタレ——これらすべてが口の中で一体となる瞬間にあります。温度、食感、味、香り、すべてが異なる要素が組み合わさることで、複雑で奥深い味わいが生まれるのです。

初めての方は、包み方に戸惑うかもしれません。レタスが破れたり、具材がこぼれたりすることもあるでしょう。でも、それもバインセオを楽しむ過程の一部です。手を使って、少し不器用に包んで食べる——この体験型の食事スタイルこそが、バインセオの魅力なのですから。

ホーチミン市などの都市部には専門店があり、屋台でも気軽に買えるバインセオ。フォーや春巻きと並んで、旅行者にも人気の高い料理となっています。あなたもベトナムを訪れる機会があれば、ぜひ本場のバインセオを味わってみてください。きっと、その独特の食べ方と味わいに魅了されるはずです。

まとめ

バインセオは、ベトナム南部で生まれた米粉のクレープ状料理で、「セオ」という焼く音がそのまま名前になった庶民的な一品です。ターメリックで黄金色に染まった生地は、米粉とココナッツミルクで作られ、パリパリとした独特の食感が魅力。中にはエビや豚肉、もやしなどの具材がたっぷりと詰まっています。

起源には諸説ありますが、安価で簡単に作れることから労働者に愛され、南部ベトナムの日常的な家庭料理として定着しました。カンボジアやタイにも広がり、各地で独自のアレンジが加えられています。

レタスや香草で包み、ヌクチャムという魚醤ベースのタレにつけて食べる——この独特の食べ方が、バインセオの真骨頂です。温度、食感、味、香りのすべてが異なる要素が口の中で一体となる瞬間は、まさにベトナム料理の醍醐味と言えるでしょう。

フォーや春巻きと並ぶベトナムの代表的料理として、今や世界中で愛されているバインセオ。その黄金色の輝きと、ジュージューという音、そして複雑な味わいは、一度食べたら忘れられない体験となるはずです。

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