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はじめに
正月のおせち料理を彩る一品として、多くの家庭で親しまれている栗きんとん。黄金色に輝くその姿は、新年の食卓を華やかに演出してくれます。
本記事では、栗きんとんの歴史的背景や文化的意義、その特徴について詳しく解説していきます。おせち料理としての役割だけでなく、和菓子としての側面も持つこの料理の奥深さを、ぜひ味わっていただければと思います。
黄金色に込められた願い――栗金団の意味
栗きんとんは、漢字で「栗金団」と書きます。この「金団」という言葉には、金の団子、あるいは金の布団という意味が込められています。さつまいもと栗で作られた黄金色の見た目が、まさに金塊や小判を連想させることから、財産や富、金運を呼び込む縁起物として、正月のおせち料理に欠かせない存在となりました。
古来より栗は「勝ち栗」として縁起の良い食材とされてきました。その栗を、濃厚で美しい黄金色の餡で和えることで、さらに縁起の良さが増したのです。新年を迎えるにあたり、家族の繁栄や商売の成功を願う気持ちが、この一品に凝縮されていると言えるでしょう。
ちなみに、同じ「くりきんとん」でも「栗金飩」と表記されるものもあります。こちらは岐阜県美濃地方の名産で、栗に砂糖を加えて練り上げ、茶巾で絞って栗の形に仕上げた和菓子を指します。おせち料理として食べるのは「栗金団」の方ですが、どちらも栗の魅力を存分に引き出した逸品ですね。
室町から明治へ――栗きんとんの歴史的変遷
栗きんとんの歴史を紐解くと、実は室町時代の文献にすでに「栗金団」という文字が登場しています。しかし、当時のものは栗餡を丸めた和菓子のようなもので、現代の私たちが知る栗きんとんとは似ても似つかぬものだったと考えられています。むしろ、岐阜県の和菓子である「栗金飩」に近い形状だったのかもしれません。
今日見られるような「栗を濃厚な餡で和えたもの」になったのは、明治時代ごろと言われています。この頃になると、さつまいもを裏ごしして作った餡に、甘く煮た栗を加えるという調理法が確立されました。元々縁起の良い食材とされていた栗が、その美しい黄金色の見た目から金運を呼ぶものとして、正月などのめでたい席で供されるようになったのです。
一方、岐阜県中津川市は栗きんとん(栗金飩)発祥の地として知られています。江戸時代後期、中津川で茶の湯が流行した際、お茶に合うお菓子を作ろうと菓子職人たちが競い合い、その結果として栗金飩が生まれたと伝えられています。中津川は栗の産地としても知られ、その栗を使った和菓子作りが盛んに行われてきました。今も中津川の栗金飩は、多くの人々を魅了し続けています。
歴史が動いたのは江戸時代後期。そこから明治にかけて、おせち料理としての栗きんとんと、和菓子としての栗金飩という、二つの流れが生まれたわけです。どちらも栗の持つ魅力を最大限に引き出そうとする職人たちの情熱が感じられますね。
濃厚な甘さと黄金色の輝き――栗きんとんの特徴
栗きんとんの最大の特徴は、何と言ってもその鮮やかな黄金色です。さつまいもを裏ごしして作った餡は、砂糖やみりんを加えて火にかけることで、照りが出てなめらかな質感に仕上がります。この餡に、あらかじめ甘く煮ておいた栗を加えて混ぜ合わせることで、栗きんとんが完成します。
餡の材料には金時芋などが一般的に使われますが、紅芋や紫芋を用いた変わり種も存在します。高級な栗きんとんになると、餡の材料にも栗が使われることがあり、より濃厚な栗の風味を楽しむことができます。栗には市販の甘露煮を用いると手軽ですが、食感や風味を重視して新栗を使う場合もあります。
砂糖の種類にもこだわりがあり、和三盆や中双糖、あるいは栗甘露煮の漬け汁を使うと、より風味の強い仕上がりになります。また、より鮮やかな黄金色に仕上げたい場合は、くちなしの実を使用することもあります。
栗のホクホクとした食感と、さつまいもの餡の滑らかさが絶妙に調和し、口の中で濃厚な甘さが広がります。この甘さは、砂糖をふんだんに使った昔ながらの味わいで、正月という特別な日にふさわしい贅沢さを感じさせてくれます。
地域で異なる栗金団の世界
栗きんとんと一口に言っても、地域によってその姿は大きく異なります。おせち料理として全国的に親しまれているのは、さつまいもの餡に栗を絡めたタイプですが、岐阜県中津川市を中心とする美濃地方では、栗に砂糖を加えて練り上げ、茶巾で絞って栗の形に仕上げた和菓子「栗金飩」が有名です。
中津川の栗金飩は、栗そのものの風味を最大限に活かした上品な甘さが特徴で、茶席の菓子としても重宝されています。おせち料理の栗きんとんが「濃厚な甘さと黄金色の輝き」を楽しむものだとすれば、中津川の栗金飩は「栗本来の味わいと繊細な口どけ」を楽しむものと言えるでしょう。
また、沖縄には「ディンガク(田楽)」という、蒸した田芋をすり潰して甘く味付けした郷土料理があります。これも栗きんとんと同様に、芋を使った甘い料理という点で共通しています。さらに、より高級な食材としてクワイを使った金団も存在し、地域や家庭によって様々なバリエーションが楽しまれています。
こうした地域ごとの違いは、その土地の食文化や歴史を反映しています。同じ「きんとん」という名前でも、その姿や味わいは実に多様なのです。
さつまいもと栗が織りなす黄金の味わい
栗きんとんの基本的な材料は、栗、さつまいも、砂糖の三つです。シンプルな材料構成ながら、その調理法には職人の技が光ります。
まず、皮をむいて茹でたさつまいもを裏ごしします。この裏ごしの工程が、なめらかな餡を作る上で非常に重要です。裏ごししたさつまいもに砂糖とみりんを加え、火にかけながら練り上げていきます。照りが出てなめらかになるまで丁寧に練ることで、美しい黄金色の餡が完成します。
一方、栗は別途甘く煮ておきます。市販の栗の甘露煮を使えば手間を省けますが、新栗を使う場合は、皮をむいて下処理をした後、砂糖で煮含めます。この栗を、先ほど作った餡に加えて混ぜ合わせれば、栗きんとんの出来上がりです。
さつまいもの種類によっても味わいが変わります。金時芋を使えば濃厚でコクのある仕上がりに、紅芋や紫芋を使えば色鮮やかで個性的な栗金団になります。砂糖も、上白糖だけでなく和三盆や中双糖を使うことで、より深みのある甘さを引き出すことができます。
栗の甘露煮の漬け汁を餡に加えると、栗の風味がより一層引き立ちます。こうした細かな工夫が、家庭ごとの味わいを生み出しているのです。
伝統を受け継ぐ調理法の奥深さ
栗きんとんの伝統的な調理法は、手間と時間をかけた丁寧な作業の積み重ねです。特に重要なのが、さつまいもの裏ごしと、餡を練り上げる工程です。
裏ごしは、さつまいもの繊維を取り除き、滑らかな舌触りを実現するための作業です。昔ながらの方法では、目の細かい裏ごし器を使って、根気よく押し通していきます。
餡を練る際は、焦げ付かないように弱火でじっくりと加熱します。木べらで絶えず混ぜながら、照りが出るまで練り続けることで、美しい黄金色と滑らかな質感が生まれます。
より鮮やかな黄金色に仕上げたい場合は、くちなしの実を使います。軽く潰したくちなしの実を、さつまいもをゆでる際に加えることで、天然の色素が芋に染み込み、美しい黄色に発色します。
栗の甘露煮を手作りする場合は、栗を丁寧に皮むきした後、渋皮も取り除きます。これを砂糖と水で煮含めていくのですが、煮崩れしないように火加減に注意が必要です。じわっと甘みが染み込んでいく様子を見守るのも、料理の楽しみの一つですね。
こうした伝統的な調理法は、現代でも多くの家庭で受け継がれています。手間はかかりますが、その分だけ愛情と願いが込められた一品になるのです。
まとめ
栗きんとんは、黄金色の美しい見た目と濃厚な甘さで、正月のおせち料理に欠かせない縁起物です。「金団」という名前が示すように、金運や財運をもたらす福食として、古くから日本人に親しまれてきました。
室町時代の文献にその名が登場し、明治時代に現在の形に発展した栗金団は、長い歴史の中で日本の食文化に深く根付いてきました。岐阜県中津川市発祥の和菓子「栗金飩」との違いも興味深く、同じ「きんとん」でも地域によって異なる姿を見せるのは、日本の食文化の多様性を物語っています。
さつまいもと栗、砂糖というシンプルな材料から生まれる栗きんとんですが、その調理法には職人の技と工夫が凝縮されています。裏ごしや練り上げといった丁寧な作業を経て、あの滑らかな餡と黄金色の輝きが生まれるのです。
新年を迎える食卓に栗きんとんを添えることは、単に美味しい料理を楽しむだけでなく、家族の繁栄や幸福を願う日本の伝統を受け継ぐことでもあります。今年の正月には、ぜひ栗きんとんの持つ意味や歴史に思いを馳せながら、その味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか。























