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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「マカロン」についてお話していきたいと思います。カラフルで宝石のような見た目、サクッとした表面とねっとりとした中身の絶妙な食感。マカロンは、見た目の美しさと味わいの繊細さを兼ね備えた、まさに洋菓子界の芸術品と言えるでしょう。フランス・パリのイメージが強いこのお菓子ですが、実はイタリアで生まれ、フランスで洗練されていった興味深い歴史を持っています。本記事では、マカロンの起源から現代に至るまでの変遷、そして世界各地で愛される理由について詳しく解説していきます。
初めてピエール・エルメのマカロンを口にした時の感動は今でも忘れられません。ショーケースに並ぶ色とりどりのマカロンは、まるで宝石箱のようで、どれを選ぶか迷ってしまったものです。一口かじると、表面のサクッとした食感の後に、しっとりとした生地とクリームが口の中で溶け合い、その繊細な味わいに魅了されました。
マカロンとは?小さな円盤に込められた洋菓子の粋
マカロンは、卵白と砂糖、アーモンドプードル(粉末状のアーモンド)を主な材料とする焼き菓子です。直径数センチメートルの円盤状の生地を2枚重ね、その間にガナッシュクリームやジャムを挟んだ形が特徴的です。
現在、私たちが「マカロン」と呼んでいるものは、正式には「マカロン・パリジャン(パリ風マカロン)」または「マカロン・ムー(柔らかいマカロン)」と呼ばれます。表面は”つるっ”とした光沢があり、焼成時に生地の下部からはみ出す「ピエ」と呼ばれる足のような部分も、マカロンの重要な特徴の一つです。
マカロンの魅力は、その繊細な食感にあります。外側はカリッとしていながら、噛むとすぐに崩れ、中のしっとりとした生地とクリームが一体となって口の中で溶けていく…この独特の食感こそが、マカロンを特別な存在にしているのではないでしょうか?
イタリアからフランスへ:マカロンが辿った甘い旅路
マカロンの起源については諸説ありますが、最も有力な説は16世紀のイタリアに遡ります。1533年、カトリーヌ・ド・メディシスがフランス王アンリ2世に嫁ぐ際、イタリアから持ち込んだ菓子の一つが、マカロンの原型となる「アマレッティ」だったと言われています。
このイタリアの伝統菓子が、フランスの地で独自の進化を遂げることになります。特に注目すべきは、1930年のパリでの革新です。ラデュレ菓子店の経営者ピエール・デフォンテーヌが、それまで一枚ずつバラバラだったマカロンを2枚重ね、間にジャムやクリームを挟むという画期的なアイデアを思いつきました。これが現在のパリ風マカロンの誕生です。
実は、フランスで最も古いマカロンは、791年から現在まで製造されているロワール地方のコルムリー修道院のものだそうです。1200年以上も前から作られているなんて、驚きですよね。マカロンは単なるお菓子ではなく、ヨーロッパの長い歴史と文化を体現する存在なのです。
見た目も味も多彩:マカロンの魅力的な特徴
マカロンの最大の特徴は、その美しい見た目と豊富なバリエーションです。パステルカラーから鮮やかな原色まで、まるで画家のパレットのような色彩の豊かさは、他の洋菓子にはない魅力です。
味のバリエーションも実に多彩です。定番のバニラ、チョコレート、ローズ、ピスタチオはもちろん、最近では和風マカロンも人気を集めています。抹茶、小豆、黒ごま、さらには梅や柚子、山椒といった意外な組み合わせも登場し、フランスの伝統菓子が日本の食文化と見事に融合しています。
マカロンの製造過程で重要なのが「マカロナージュ」と呼ばれる生地を混ぜる技術です。メレンゲとアーモンドプードルを混ぜる際の力加減一つで、仕上がりが大きく変わってしまう…まさに職人技が光る瞬間です。適度に混ぜることで、あの独特のつるんとした表面と、ピエが美しく出る生地が完成するのです。
世界各地で花開くマカロンの個性
フランス国内だけでも、地域によって様々なマカロンが存在します。13世紀から作られているサン=テミリオンの「マカロン・クラックレ」は、表面にひび割れ模様があるのが特徴。16世紀から続くアミアンの「マカロン・ダミアン」、18世紀から作られているナンシーの「スール・マカロン」など、それぞれに独自の製法と味わいがあります。
イタリアでは、マカロンの原型となった「アマレッティ」が今も愛されています。さらに、アマレッティを柔らかくした「バーチ・ディ・ダーマ(貴婦人のキス)」は、パリ風マカロンの直接的な祖先とも言われています。
アジアでも独自の進化を遂げています。台湾では「台湾式マカロン」という、日本のブッセが独自に発展した菓子が人気です。アーモンドパウダーを使わず、全卵と薄力粉で作るため、ほろっと崩れるような食感が特徴的です。韓国では「トゥンカロン」という、通常のマカロンよりも大きくてクリームたっぷりのマカロンが若者を中心に人気を集めています。
日本でも、中日ドラゴンズが「どあろん」というマスコットキャラクターにちなんだマカロンを販売するなど、独自の文化として根付いています。大相撲の日仏友好杯では、副賞としてピエール・エルメの巨大マカロンが贈られるそうです。スポーツとマカロンの意外な組み合わせ、面白いですよね?
基本材料が生み出す無限の可能性
マカロンの基本材料は驚くほどシンプルです。卵白、砂糖、アーモンドプードル(アーモンドを粉末状にしたもの)の3つが主役。これらを適切な配合と技術で組み合わせることで、あの繊細な食感と味わいが生まれます。
メレンゲ作りでは、卵白を固く泡立てることが重要です。ここに粉糖を加えて安定させ、アーモンドプードルと混ぜ合わせます。この時の混ぜ方が「マカロナージュ」と呼ばれる技術で、生地がリボン状に落ちる程度まで混ぜるのがコツです。混ぜすぎると生地が緩くなりすぎ、混ぜが足りないとピエが出ない…なんとも繊細な作業です。
フィリングには、ガナッシュクリーム、バタークリーム、ジャムなど様々なものが使われます。最近では、クリームチーズやマスカルポーネを使った濃厚なフィリングも人気です。アーモンドプードルの代わりにココナッツパウダーを使うバリエーションもあり、素材の組み合わせによって無限の可能性が広がっています。
パリジャンが愛する伝統の製法
本場パリのマカロン作りには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、生地を絞った後の「乾燥」工程。表面を30分から1時間ほど乾燥させることで、焼いた時に美しいピエが出やすくなります。
焼成温度も重要で、一般的には140〜160度で12〜15分程度。オーブンによって癖があるため、何度も試作を重ねて最適な温度と時間を見つける必要があります。プロのパティシエでも、新しいオーブンに慣れるまでには時間がかかるそうです。
伝統的な製法では、焼き上がったマカロンを一晩寝かせてから食べるのが理想とされています。この「熟成」により、生地とクリームが一体化し、より深い味わいになるのです。焼きたてもサクサクして美味しいのですが、一晩置いたマカロンのしっとりとした食感は格別です。あなたはどちらがお好みでしょうか?
まとめ
マカロンは、イタリアで生まれフランスで洗練された、まさに国境を越えた洋菓子の傑作です。シンプルな材料から生み出される繊細な味わいと美しい見た目は、世界中の人々を魅了し続けています。
791年のコルムリー修道院から始まり、1930年のラデュレでの革新を経て、現代では世界各地で独自の進化を遂げているマカロン。その長い歴史と多様性は、単なるお菓子を超えた文化的な存在としての価値を物語っています。
次にマカロンを手にする時は、その小さな円盤に込められた歴史と職人の技、そして国境を越えて愛される理由を思い出してみてください。きっと、いつもとは違った味わいを感じることができるはずです。
さいごに
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