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かまぼこの魅力を再発見:蒲の穂から生まれた伝統の味

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はじめに

おせち料理の紅白かまぼこ、うどんに添えられた薄切りのかまぼこ、あるいは板わさとして日本酒のお供に。日本の食卓に欠かせないこの食品は、実は千年近い歴史を持つ伝統食なのです。

魚のすり身を成形して加熱した水産加工品であるかまぼこは、その独特の弾力と上品な味わいで、和食文化を支えてきました。現代では全国各地で様々な種類が作られ、それぞれの地域性を反映した個性豊かな製品が生まれています。

本記事では、かまぼこの起源から製法、地域による違いまで、この伝統食品の奥深い世界を紐解いていきます。

蒲の穂に似た形から名付けられた食品

かまぼことは、魚のすり身に塩を加えて練り、成形した後に加熱して作る日本の伝統的な水産加工品です。現在最も一般的なのは、杉などの小板に半円筒形に盛り付けた「板かまぼこ」ですが、実はこの形態は後から登場したもの。

「かまぼこ」という名前の由来は、その最初期の形状にあります。竹の棒に魚のすり身を筒状に巻きつけて焼いたその姿が、水辺に生える蒲(がま)の穂に似ていたことから「蒲鉾」と呼ばれるようになったのです。この竹を抜き去ると、現在の「ちくわ」の形になります。

つまり、元祖かまぼこは今でいうちくわの形をしていたわけですね。後に板の上に成形した「板蒲鉾」が登場すると、区別のために「竹輪蒲鉾」と呼び分けるようになりましたが、時代とともに元祖の方は「蒲鉾」が脱落して単に「ちくわ」となり、板蒲鉾の方は逆に「板」が外れて「かまぼこ」と呼ばれるようになりました。

現代のかまぼこの最大の特徴は、その独特の弾力です。業界では「足(あし)」と呼ばれるこの歯応えは、魚肉のタンパク質(ミオシン)が食塩とともにすり潰されることで溶け出し、加熱によって網目状に結びついて生まれます。この「足」の強さが、かまぼこの商品価値を大きく左右するのです。

平安時代から続く千年の歴史

かまぼこの歴史は驚くほど古く、平安時代の文献にその記録が残っています。平安時代の『類聚雑要抄』には、藤原忠実が永久3年(1115年)に転居祝いの宴会を開いた際、串を刺した蒲鉾が供されたことが絵入りで記されています。これが確認できる最古の文献上のかまぼこであるとして、業界団体はその数字をとって11月15日を「かまぼこの日」と定めました。

興味深いのは、最初期のかまぼこが現在のような海水魚ではなく、主に淡水魚のナマズを原料としていたという点です。当時の日本では、内陸部での食文化が重要な位置を占めており、川魚が身近な食材だったことがうかがえますね。

江戸時代になると、かまぼこは商品として販売されるようになります。『守貞漫稿』には、京坂(京都・大阪)では蒸した後に焼いて売ることが多かったのに対し、江戸では蒸しただけのものを売っていたという記録があります。また、高級品には鯛やヒラメ、京坂では鱧、江戸では虎キスが使われ、一般的な製品にはサメ類が使われていたとのこと。白身の魚は高価であり、かまぼこはご馳走と考えられていました。

豊臣秀頼の大好物であったと伝えられ、本能寺での織田信長の最後の晩餐にも供されたというエピソードからも、かまぼこが特別な食品として扱われていたことが分かります。

プリプリとした弾力と上品な魚の旨味

かまぼこの最大の魅力は、何といってもあの独特の食感です。「プリプリ」と表現されるこの弾力は、魚肉のタンパク質が塩とともにすり潰されることで生まれる化学反応の賜物。魚肉の筋繊維を構成するミオシンのS-S結合(ジスルフィド結合)が関与しており、加熱することでさらに網目構造が強固になります。

この歯応えを「足(あし)」と呼ぶのは、かまぼこ業界ならではの表現ですね。良い「足」を出すためには、原料魚の選定が極めて重要です。味の良さに加えて、加熱すると良い「足」が出る魚が使われます。多くのかまぼこでは、さらに歯ごたえを出すために澱粉などの添加も行われています。

かまぼこは加熱済み食品であるため、そのまま食べることができます。その上品な魚の旨味は、醤油やマヨネーズとの相性が抜群。なかでも、おろしわさびを添えて一緒に食べる「板わさ」は、そば屋や居酒屋の定番メニューとして親しまれています。

切り方や厚さを変えることで、食感を変えられるのもかまぼこの面白いところです。薄く切ってうどんや蕎麦のトッピング、お雑煮の具に。厚めに切って真ん中に切れ目を入れ、様々な具材を挟めばおつまみに。賽の目に切ってサラダの具にしたり、卵焼きに混ぜ込んだり。焼いたり炙ったり、天ぷらやフライにしたりと、調理法も実に多彩です。

全国各地で花開く多様なかまぼこ文化

四方を海に囲まれた日本では、各地の魚を原料として、風土に合わせた姿で伝統的なかまぼこ製品が発展してきました。日本農林規格では、かまぼこ類を蒸しかまぼこ類、焼抜きかまぼこ類、ゆでかまぼこ類、揚げかまぼこ類に分類しています。

神奈川県の小田原蒲鉾は、板付きかまぼこの代表格として全国的に知られています。富山県では祝儀用の細工蒲鉾や巻蒲鉾が発達し、福井県では味醂焼き蒲鉾という独特の製品が作られています。

西日本に目を向けると、さらに多様性が増します。愛媛県南予地方の削り蒲鉾は、第二次世界大戦前に日持ちの悪かった蒲鉾を乾燥させて保存食にしたことに由来する珍しい製品。じゃこ天も愛媛の名物です。鹿児島県のさつま揚げ(揚げかまぼこ)は全国的に人気があり、沖縄県ではチキアーギやカステラ蒲鉾といった独自の製品が生まれています。

興味深いのは、沖縄などでは単に「蒲鉾」と言えば揚げ蒲鉾を指す場合が多いという点です。同じ「かまぼこ」という名前でも、地域によってイメージする製品が異なるのは、日本の食文化の豊かさを物語っていますね。

北海道にはタラの白子を使用した「たつのかまぼこ」、島根県には「あご野焼ちくわ」、鳥取県には「とうふ竹輪」など、各地で地魚の特性を活かした製品が作られています。旅先でその土地ならではのかまぼこを味わうのも、楽しみの一つではないでしょうか。

スケトウダラから始まる原料魚の世界

現代のかまぼこの主原料は、スケトウダラです。昭和35年(1960年)に冷凍すり身がスケトウダラを原料として開発され、昭和40年以降には洋上加工される高品質の冷凍すり身が生産されるようになりました。

この冷凍すり身の登場は、かまぼこ産業に革命をもたらしました。広域流通が可能になり、品質が長期間保たれ、魚から生すり身を製造するまでの処理工程が省略でき、天候等の影響を受けることなく計画生産が可能になったのです。これにより製造工程の自動化が図られ、大規模製造工場が登場してきました。

しかし、スケトウダラだけがかまぼこの原料ではありません。イワシ、イトヨリダイ、イシモチ(グチ)、タチウオ、ハモ、エソ、ヨシキリザメなど、かまぼこの種類により様々な魚が使われています。高級品には鯛やヒラメが使われることもあります。

かまぼこ表面に現れる微小な黒い点は魚皮で、食用に問題はありません。むしろ、これは魚を丸ごと使っている証とも言えるでしょう。

原料魚の選定基準は、味の良さと「足」の強さです。加熱すると良い弾力が出る魚が、かまぼこに適しているとされます。地域性のある食材として、各地で地魚の特性を利用したかまぼこ製品が作られてきた歴史は、日本人の創意工夫の賜物と言えますね。

伝統を守りながら進化する製造技術

かまぼこの基本的な製造工程は、「魚肉を塩とともにすり潰して成形し加熱する」というシンプルなものです。しかし、そのシンプルさの中に、長年培われてきた職人の技術が凝縮されています。

製造工程は、採肉(さいにく)、水晒し(みずさらし)、脱水(だっすい)、擂潰(らいかい、「すり身」づくり)という基本ステップを経て、成形と加熱へと進みます。この先の工程は、蒸しかまぼこ、焼抜きかまぼこ、ちくわ、揚げかまぼこなど、製品の種類によって異なります。

蒸しかまぼこは、練りつぶした魚肉を成形し、蒸煮してタンパク質を凝固させた製品。板付きかまぼこや蒸焼きかまぼこ、蒸しちくわなどが含まれます。焼抜きかまぼこは、焙焼してタンパク質を凝固させたもので、笹蒲鉾や白焼蒲鉾、伊達巻などがこれに当たります。

揚げかまぼこの代表格であるさつま揚げは、すり身を油で揚げることで独特の風味と食感を生み出します。ゆでかまぼこには、なるとやつみれ、はんぺんなどが含まれます。

近年では、すり身を加工したテリーヌ風のかまぼこも登場しており、伝統的な製法を守りながらも、現代の食のシーンに合わせた進化が見られる点は興味深いですね。技巧を凝らした細工かまぼこは、祝儀の席を華やかに彩る芸術品とも言えるでしょう。

まとめ

かまぼこは、千年近い歴史を持つ日本の伝統的な水産加工品であり、魚のすり身を塩とともに練り、成形して加熱するというシンプルな製法から生まれる奥深い食品です。

蒲の穂に似た形から名付けられたその名前の由来、平安時代から続く長い歴史、独特の弾力である「足」の魅力、全国各地で発展した多様な製品、スケトウダラを中心とした原料魚の選定、そして伝統を守りながら進化する製造技術。これらすべてが、かまぼこという食品の豊かさを物語っています。

おせち料理の紅白かまぼこ、板わさ、うどんのトッピング、さつま揚げ。日常の食卓から特別な日の料理まで、かまぼこは様々な形で私たちの食生活を彩ってきました。そのシンプルさの中に、日本人の知恵と工夫、そして食文化への深い愛情が込められているのです。

次にかまぼこを口にするとき、その弾力ある食感と上品な魚の旨味を味わいながら、その歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。きっと、いつもとは違った味わいを感じられるはずです。

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