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はじめに
真っ白で丸い形状、つきたてのお餅のような弾力、そして加熱すると糸を引くように伸びる姿。モッツァレラは、イタリア料理を代表するフレッシュチーズとして、世界中で愛されています。ピザやカプレーゼなど、私たちの食卓にもすっかり馴染んだこのチーズですが、その誕生の背景や製法の奥深さについては、意外と知られていないのではないでしょうか。
この記事では、モッツァレラの起源から製法、特徴、そして地域による違いまで、このチーズの魅力を多角的に掘り下げていきます。
「引きちぎる」から生まれた白い宝石
モッツァレラという名前の由来は、イタリア語で「引きちぎる」を意味する「mozzare」という動詞にあります。この名前こそが、このチーズの製法の核心を物語っているのです。
熟成工程を経ないフレッシュチーズであるモッツァレラは、真っ白で丸い形状が特徴的。断面を見ると、繊維状の組織が層をなしており、これが独特の食感を生み出しています。ミルクの甘みと適度な酸味、そしてマイルドな香りは、クセがなく、そのまま食べても料理に使っても楽しめる万能さを持っています。
加熱すると、あの印象的な「とろ〜り」とした伸びが現れます。ピザやグラタンでモッツァレラが糸を引く様子は、まさにこのチーズの代名詞と言えるでしょう。弾力のある歯ごたえとジューシーさは、フレッシュチーズならではの魅力です。
中世カンパーニア州で育まれた伝統
モッツァレラの歴史は、中世イタリア南部のカンパーニア州にまで遡ります。特にナポリ周辺の土地で、12世紀頃から水牛の乳を使ったチーズ作りが始まったと考えられています。
湿原地帯が広がるカゼルタ県などでは、水牛の飼育が古くから行われていました。水牛がイタリアに導入された時期については諸説あり、6〜7世紀の蛮族侵入時代に持ち込まれたという説や、11世紀にノルマン人がシチリアから持ち込んだという説などがあります。その後修道院で、水牛のミルクを保存するためにチーズ作りが始まったという説が有力です。修道士たちが、水牛の乳を温めてカードをちぎって作ったのが、モッツァレラの始まりだったのですね。
18世紀になると、南イタリアで水牛の飼育が拡大し、モッツァレラの人気が急上昇しました。この時期を経て、モッツァレラはイタリアを代表するチーズとしての地位を確立していったのです。
1996年には、「モッツァレラ」という名称が欧州連合によって伝統的特産品保証(TSG)として認定され、伝統的な製法が保護されるようになりました。同年、特定の土地で生産される水牛乳のモッツァレラは「モッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ」として、原産地呼称保護(DOP)認証を受けています。
水牛乳と牛乳、原料による味わいの違い
モッツァレラには、使用する原料によって明確な区別があります。この違いを知ることで、モッツァレラの世界がぐっと広がります。
本来のモッツァレラは、水牛の乳を原料としています。水牛乳を使ったものは「モッツァレッラ・ディ・ブーファラ」と呼ばれ、濃厚なミルクの甘みと独特の風味が特徴です。一般に、水牛乳を原料とするものの方が良質とされています。
一方、牛乳で代用したものは「モッツァレッラ・ディ・ヴァッカ」、または「フィオル・ディ・ラッテ(ミルクの花)」と呼ばれます。こちらはより軽やかでマイルドな味わいが特徴で、日本で一般的に流通しているのは、この牛乳製のモッツァレラです。
水牛と乳牛では、飼育の難しさも乳の量も大きく異なります。水牛の方が飼育が難しく、乳の量も少ないため、希少価値から水牛乳のモッツァレラは値段が高くなります。しかし、その価格差に見合うだけの味わいの違いがあるのも事実です。
形状にもバリエーションがあり、標準的な丸い形のほか、小さな一口サイズの「ボッコンチーニ」、さらに小さな「チリエジーネ(さくらんぼサイズ)」など、用途に応じて選べるのも楽しいですね。
熱湯で練る、パスタ・フィラータの技
モッツァレラの製法は、「パスタ・フィラータ」と呼ばれるイタリア南部独特の技法によって行われます。この製法こそが、モッツァレラの独特な食感と伸びを生み出す秘密なのです。
まず、水牛乳または牛乳にレンネット(凝乳酵素)を加えると、乳中のタンパク質が凝固します。この凝固した塊を「カード」と呼びます。イタリア語では「パスタ」と呼ばれるこのカードに、熱湯を注いで練り上げていくのです。
熱湯で練ることで、カードは餅のような弾力を持ち始めます。この状態になったところで、職人が手作業で引きちぎって整形します。「引きちぎる(mozzare)」という工程が、まさにモッツァレラの名前の由来となっているわけですね。
二人一組でテンポよく、一つ約250グラムのチーズに引きちぎっていく様子は、まさに職人技。工業化、能率化が進んだ現代でも、伝統的な製法を守る工房では、この手作業が大切に受け継がれています。
成形されたモッツァレラは、塩水に浸されて保存されます。この塩水がモッツァレラの適度な塩分とジューシーさを保つ役割を果たしているのです。フレッシュチーズであるため、熟成工程を経ず、作りたての新鮮な状態で楽しむのが最も美味しい食べ方と言えるでしょう。
そのまま食べるか、加熱するか
モッツァレラの楽しみ方は、実に多彩です。味や香りにクセがないため、そのまま食べても、加熱調理に使っても、その魅力を存分に発揮してくれます。
最もシンプルで、かつモッツァレラの本質を味わえるのが、生のまま食べる方法です。カンパーニア地方の定番前菜「インサラータ・カプレーゼ」は、モッツァレラのスライスとトマトのスライスを交互に並べ、バジルを添え、オリーブオイルと塩で味付けしたもの。シンプルだからこそ、モッツァレラの品質が如実に表れる一皿です。
加熱調理では、ピザやパスタ、グラタンなど、イタリア料理に欠かせない存在となっています。熱を加えることで、あの印象的な糸引きが現れ、とろりとした食感が料理全体を包み込みます。ナポリピッツァのマルゲリータに使われるモッツァレラは、まさにこのチーズの真骨頂と言えるでしょう。
保存方法にも注意が必要です。フレッシュチーズであるため、開封後はできるだけ早く食べ切るのが理想的。保存する場合は、塩水に浸した状態で冷蔵庫に入れ、数日以内に消費するのがおすすめです。冷凍も可能ですが、解凍後は食感が変わるため、加熱調理に使うのが良いでしょう。
まとめ
モッツァレラは、中世イタリア南部のカンパーニア州で誕生した、水牛乳を原料とするフレッシュチーズです。「引きちぎる」を意味する「mozzare」という言葉に由来するその名前は、独特の製法「パスタ・フィラータ」を物語っています。
熱湯で練ったカードを引きちぎって成形するという伝統的な技法は、モッツァレラの弾力ある食感と、加熱時の美しい糸引きを生み出す秘密です。水牛乳を使った本格的なモッツァレッラ・ディ・ブーファラと、牛乳で作られるフィオル・ディ・ラッテでは、風味や濃厚さに違いがあり、それぞれの魅力があります。
そのまま食べても、加熱調理しても楽しめる万能さ、ミルクの甘みと適度な酸味、マイルドな香り。モッツァレラは、イタリア料理に欠かせない存在であると同時に、世界中の食卓で愛される理由が詰まったチーズなのです。
次にモッツァレラを手にする機会があれば、その歴史や製法に思いを馳せながら味わってみてください。きっと、いつもとは違った深い味わいを感じられるはずです。























