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シーベリー(サジー)とは?ユーラシア原産のスーパーフルーツの魅力を解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「シーベリー」についてお話ししていきたいと思います。鮮やかなオレンジ色の小さな実が特徴的なシーベリー。日本ではサジーという名前で近年話題のこの果実は、極めて長い歴史を持つ驚異的な生命力を誇る植物です。砂漠や高山といった過酷な環境でも生育できる強さを持ち、その実には200種類以上もの栄養素が凝縮されています。本記事では、このユーラシア大陸原産のスーパーフルーツについて、その特徴から食べ方まで詳しく解説していきます。

生命力の塊:シーベリーとは何か

シーベリー(英名:Seaberry)は、グミ科ヒッポファエ属の落葉低木で、日本では「サジー」「沙棘(さじ)」「サジーベリー」などの名前でも呼ばれています。学名の「Hippophae」は「輝く馬」を意味し、古代ギリシアで馬の飼料として使われていた歴史に由来します。

この植物の最大の特徴は、その驚異的な生命力にあります。-43℃から40℃という極端な温度差に耐え、紫外線が強く水分の少ない砂漠や高山でも生育できる。まさに”植物界のサバイバリスト”とも呼べる存在です。雌雄異株で、9〜10月頃に1センチほどの黄色からオレンジがかった色の実をつけ、冬の間も実を落とさないという特性を持っています。

各国で様々な呼び名を持つのも興味深い点です。中国では「沙棘(Shaji)」、英語圏では「Sea-buckthorn」、そして日本では中国語が変化した「サジー」が定着しました。これほど多くの名前を持つ果実も珍しく、それだけ世界中で愛されている証拠かもしれません。

ユーラシア大陸に広がる悠久の歴史

シーベリーの歴史は古く、ユーラシア地域で長い年月をかけて進化してきたと考えられています。現在では広い範囲に分布し、海岸地域から内陸の高山地帯まで、様々な環境に適応しながら生息域を広げてきました。

古代ギリシアでは、「植物学の祖」テオプラストスや薬理学の父ディオスコリデスの著書にも登場し、アジアでは5000年の歴史を持つアーユルヴェーダ医学で伝統的に用いられてきたそうです。8世紀のチベット医学書『月王薬診』や『四部医典』にも薬草としての記述があり、発熱や炎症、咳や風邪の治療に使われていたことが記されています。

20世紀に入ると、旧ソ連が国家プロジェクトとして研究を開始。宇宙飛行士の宇宙食や宇宙線保護クリームにも活用されるなど、その価値が科学的に証明されていきました。中国でも1977年に薬と食物の両用品目として正式に認定され、現在では世界で約300万ヘクタールもの植生面積を誇るまでに広がっています。

極限環境が生んだ驚異の栄養価

シーベリーが「スーパーフルーツ」と呼ばれる理由は、その圧倒的な栄養価にあります。果実には品種や生育環境により異なりますが、200種類以上もの栄養素が含まれているとされ、植物界で最もビタミンが豊富な果実の一つとされています。

この豊富な栄養素は、過酷な環境への適応の結果として生まれました。乾燥や厳寒から身を守るために油脂成分を作り出し、栄養の乏しい土壌でも生きられるよう、自ら豊富な栄養素を生成する能力を獲得したのです。まるで自然界が作り出した”栄養の宝庫”のような存在と言えるでしょう。

特筆すべきは、根に共生するフランキア菌による窒素固定能力です。空気中から栄養素を作り出せるこの能力により、砂漠のような栄養の無い土壌でも生育が可能になっています。さらに、クモの巣状の根系を広範囲に張り巡らせることで、土壌侵食防止や砂漠緑化にも貢献しているんです。環境保全の観点からも、実に興味深い植物だということです。

世界に広がるシーベリーの産地と栽培

現在、シーベリーは中国、モンゴル、ロシア、中央アジア、ヨーロッパ北部など、ユーラシア大陸の広い範囲に自生しています。特に中国では約250万ヘクタール(うち野生種100万、栽培種150万)という圧倒的な植生面積を誇り、内モンゴルの蛮漢山(ばんかんさん)などが主要な産地となっています。

日本では自生していませんが、北海道むかわ町で試験的な栽培が行われています。その他、カナダ、アメリカ、イタリア、ボリビア、チリ、韓国など、世界各地で栽培が広がっているのも興味深いですね。

各地域の気候や土壌によって、実の大きさや味、栄養成分にも違いが生まれます。標高1200〜2000メートルの高山地帯で育ったものは特に栄養価が高いとされ、オーガニック100%の自然栽培が主流となっています。地域ごとの個性を楽しめるのも、シーベリーの魅力の一つかもしれません。

酸味と渋みが織りなす独特の味わい

シーベリーの味は、一言で表現するなら「強烈」です。強い酸味と独特の渋みが特徴で、初めて食べる人は、その個性的な味わいに驚くかもしれません。柑橘系のような爽やかな香りもありますが、レモンやグレープフルーツとはまた違った、野性的な風味があります。

生の実をそのまま食べると、口の中がキュッと締まるような感覚があります。これは果実に含まれる有機酸やタンニンによるもので、まさに過酷な環境で育った証とも言えるでしょう。しかし、この強い個性こそがシーベリーの魅力でもあり、加工することで様々な美味しさに変化します。

実際、現地の人々は昔から、この酸味を活かしてジャムやソース、ジュースなどに加工して楽しんできました。特にヨーグルトとの相性は抜群で、酸味がまろやかになり、とても食べやすくなります。最初は「うわっ、酸っぱい!」と思うかもしれませんが、不思議と癖になる味なんですよね。

シーベリーの美味しい楽しみ方

シーベリーは生食も可能ですが、その強い酸味と渋みから、多くの場合は加工して楽しまれています。最も人気があるのはジュースで、水や他の果汁と混ぜることで飲みやすくなります。

特におすすめなのが、シーベリースムージーです。パイナップルやりんご、豆乳と組み合わせることで、酸味が和らぎ、栄養価の高い健康ドリンクになります。レモン果汁を少し加えると、さらに爽やかな味わいに。朝食代わりにもぴったりですね。

ジャムやソースとしても優秀で、ヨーグルトやパンケーキのトッピングに最適です。肉料理のソースとしても使われ、特に鴨肉やラム肉との相性は抜群。酸味が肉の脂っぽさを中和し、さっぱりとした後味を演出してくれます。

最近では、冷凍果実やパウダー、サプリメントなど、様々な形態で入手できるようになりました。初心者の方は、まずジュースから試してみるのがおすすめです。徐々にその独特の味わいに慣れていくと、シーベリーの魅力にハマってしまうかもしれません。あなたもきっと、この個性的な味の虜になるはずです。

まとめ

シーベリー(サジー)は、ユーラシア大陸で長い歴史を持ち、過酷な環境で育つことで驚異的な栄養価を獲得した、まさに自然界の奇跡とも言える果実です。

その強烈な酸味と渋みは、最初は戸惑うかもしれませんが、適切に加工することで様々な美味しさを楽しむことができます。ジュースやスムージー、ジャムなど、自分に合った食べ方を見つけることで、この古代からの贈り物を現代の食生活に取り入れることができるでしょう。

環境保全にも貢献し、豊富な栄養素を持つシーベリー。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、これからますます注目を集めていくことは間違いありません。ぜひ一度、この個性的なスーパーフルーツを体験してみてはいかがでしょうか。

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