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はじめに:情熱の国メキシコが生んだ絶品ステーキ
アラチェラ。この名前を聞いて、すぐにどんな料理か思い浮かぶ方は、かなりのメキシコ料理通かもしれません。アラチェラは、メキシコでこよなく愛される、牛ハラミ(横隔膜)を使ったステーキのこと。特製のタレにじっくり漬け込まれ、香ばしく焼き上げられたその味わいは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。この記事では、そんなアラチェラの奥深い世界へご案内しましょう。
私が初めてこの料理を知ったのは、シェフレピの撮影で伺った、恵比寿のモダンメキシコ料理店「KIYAS(キヤス)」です。初めてアラチェラを口にした時の衝撃は今でも忘れられません。柔らかい肉質と、唐辛子やスパイスの風味が絶妙に絡み合った複雑な味わい。単なるステーキとは一線を画す、その独特の存在感にすっかり魅了されたのです。
アラチェラとは?:メキシコ国民が愛するハラミの饗宴
アラチェラ(Arrachera)は牛の横隔膜、つまりハラミを指す言葉です。日本では焼肉でお馴染みの部位ですが、メキシコではこれをステーキとして楽しむのが一般的。特に、メキシコ北部のモンテレーなどの地域で非常に人気があり、家庭料理やレストランの定番メニューとして親しまれています。単にハラミを焼いただけではなく、ライムやオレンジなどの柑橘果汁、ニンニク、各種スパイスをブレンドした「マリネ液」に漬け込むのが最大の特徴。これにより、肉が驚くほど柔らかくなり、独特の風味が加わるのです。
そのルーツを探る:アラチェラ誕生の物語
アラチェラの正確な起源を特定するのは難しいですが、メキシコ北部、特に牧畜が盛んな地域で生まれたと考えられています。牛肉文化が根付く中で、比較的安価で手に入りやすかったハラミを美味しく食べるための工夫として、マリネしてから焼く調理法が発展したのではないでしょうか。モンテレーが肉料理で有名なのは、こうした背景があるからかもしれませんね。
メキシコの人々にとって、アラチェラは単なる料理を超えた存在。家族や友人との集まり、お祝い事など、人が集まる場面には欠かせない、いわばソウルフードのようなものと言えるでしょう。
五感を刺激するアラチェラの魅力
アラチェラの魅力は、何と言ってもその独特の風味と食感にあります。
- 柔らかさの秘密: マリネ液に含まれる柑橘系の酸が、筋繊維を分解し、ハラミ特有のしっかりした食感を残しつつも、驚くほど柔らかく仕上がります。噛むほどに肉汁が“じゅわっ”と溢れ出す。たまりませんね。
- 複雑な風味のハーモニー: ニンニク、クミン、オレガノなどのスパイス、そして柑橘の爽やかな酸味が織りなす複雑な香りが、食欲を強烈に刺激します。この香りが、アラチェラを唯一無二の存在にしていると言っても過言ではありません。
- 香ばしい焼き上がり: 炭火や鉄板で焼き上げることで、マリネ液の糖分がメイラード反応を起こし、香ばしい焼き色と風味を生み出します。この香ばしさが、肉の旨味を一層引き立てるのです。
これらの要素が組み合わさることで、ガツンとくる満足感がありながらも、後味は意外にも爽やか。ついつい手が伸びてしまう、そんな魔力がアラチェラにはあります。
地域ごとの個性と進化:タコスからプレートまで
アラチェラはメキシコ全土で愛されていますが、地域や家庭によってマリネ液のレシピには微妙な違いが見られます。ある地域ではチレ(メキシコ原産の唐辛子)を加えてスパイシーに、また別の地域では特定のハーブを強調するなど、そのバリエーションは豊かです。
近年では、アラチェラをタコスの具材として使うスタイルも人気を集めています。トルティーヤに焼いたアラチェラ、ワカモレ、サルサ、玉ねぎ、パクチーなどを乗せて食べるタコス・デ・アラチェラは、屋台やレストランで定番の一品。手軽にアラチェラの美味しさを楽しめるのが魅力ですね。あなたなら、どんな組み合わせで楽しみますか?
美味しさの核:アラチェラを構成する要素
アラチェラの主役は、もちろん牛ハラミです。横隔膜の筋肉であるハラミは、赤身肉に近い濃厚な旨味と、適度な脂肪の甘みを併せ持つ部位。独特の弾力ある食感も特徴です。
そして、そのハラミを至高のステーキへと昇華させるのが、特製のマリネ液。基本的な材料としては、
- 柑橘果汁: ライムやオレンジが一般的。肉を柔らかくし、爽やかな風味を加えます。
- 香味野菜: ニンニク、玉ねぎなどが使われ、深みと香りをプラス。
- スパイス・ハーブ: クミン、オレガノ、コリアンダー、黒胡椒などが定番。メキシコ料理らしい複雑な風味の要です。
- 油: オリーブオイルや植物油が、風味をまとめ、焼き上がりをしっとりさせます。
- その他: 醤油やウスターソース、ビールなどが隠し味として加えられることもあります。
これらの材料の配合バランスが、各店・各家庭の「秘伝の味」を生み出しているわけですね。
撮影で伺ったKIYASの佐藤シェフは、マリネ液には数種のメキシコ唐辛子をベースに、赤ワインビネガーやパプリカパウダーを使用し、サルサには醤油や和三盆といったアレンジを加えていました。マリネ液や仕上げに添えるサルサによって、様々な味わいを表現できるようです。

本場の流儀:伝統的なアラチェラの調理法
アラチェラの調理はシンプルながらも奥が深いものです。
- 下処理: まず、ハラミの表面にある薄皮や余分な脂肪を取り除きます。これにより、マリネ液が浸透しやすくなり、食感も向上します。
- 漬け込み: 用意したマリネ液にハラミを漬け込みます。時間はレシピによって様々ですが、数時間から一晩、時には数日間置く場合もあります。冷蔵庫でじっくりと味を染み込ませるのがポイントです。
- 焼き上げ: マリネ液から取り出したハラミの水気を軽く切り、高温に熱した鉄板やグリル、炭火で焼き上げます。焼き加減はお好みですが、ミディアムレアからミディアム程度が、ハラミの旨味と柔らかさを最も楽しめるでしょう。焼きすぎると硬くなるので注意が必要です。
- カット: 焼き上がったアラチェラは、少し休ませてから、筋繊維を断ち切るように薄切りにするのが一般的。これにより、さらに柔らかく食べやすくなります。
付け合わせには、ワカモレ、フリホーレス(豆の煮込み)、焼き玉ねぎ、サルサなどが定番。トルティーヤに包んで食べるのも最高です。
まとめ:メキシコの情熱を味わう一皿
アラチェラは、単なるハラミステーキではありません。メキシコの豊かな食文化、人々のおおらかさ、そして食への情熱が詰まった、特別な料理なのです。マリネによって引き出された肉の旨味と柔らかさ、スパイスと柑橘が織りなす複雑な風味、そして香ばしい焼き上がり。そのどれもが、私たちを魅了してやみません。
もしメキシコ料理店で「アラチェラ」の文字を見かけたら、ぜひ試してみてください。きっと、その力強い美味しさの虜になるはずです。あるいは、ご自宅でマリネ液から作ってみるのも面白いかもしれませんね。メキシコの風を感じる情熱的な一皿を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか?
さいごに
シェフレピでは、恵比寿のモダンメキシカン「KIYAS」の佐藤シェフによる、「マリネしたアラチェラ(牛ハラミ)のステーキのタコス チポトレのサルサ」のレッスンを公開しております!
本場のレシピを踏襲しつつも、醤油や和三盆といった、日本人にも馴染みのある味わいが特徴のメキシコ料理となっています。
またこのレッスンでは、日本ではなかなか目にすることのできない、メキシコの個性豊かな唐辛子を使用します。
「チレ・アルボル」:強い辛みと鮮やかな赤色が特徴
「チレ・チポトレ」:スモーキーな香りと昆布のようなうま味が特徴
「チレ・ワヒージョ」:お茶のような香りとベリーのような酸味が特徴
「チレ・ムラート」:カカオやドライフルーツのような香りとマイルドな辛みが特徴
ぜひこの機会にチェックしてみてください!

マリネしたアラチェラ(牛ハラミ)のステーキのタコス チポトレのサルサ/KIYAS 佐藤友子

パーティーにもぴったりなタコスのレッスンです。牛ハラミを漬け込むマリネ液には、「チレ・アルボル」や「チレ・ムラート」といったメキシコ原産の数種の唐辛子を使用。特有のスモーキーな香りがハラミの強いうま味を引き立てるので、タコスの具材にピッタリ。