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AUBE|東 浩司
5月の「ラム肉特集」で発表した、大阪のカウンタースタイルの現代中国料理「AUBE」の東浩司シェフが考案した「水煮羊肉片(スイジュウヤンロウピエン)」は、売り上げ100セットを突破し、たくさんの料理好きに作ってもらえる食材キットになりました。
好評だった理由は、作って食べたときのおいしさはもちろん、美しい盛り付けや動画の教え方などがあげられますが、何より“成功しやすいレシピ”であることが大きな要因ではないでしょうか。
「初めてだけどおいしくできた」「楽しく作れた」といった声がSNS上に多く見られるのも、ベスト・ティーチャーの東シェフのレシピの特徴の一つでした。
疑問が出にくいレシピを考えたい
「一般の方向けのレシピだけでなく、お店で出す料理を考えるときも、同じように“レシピの意味”を考えるようにしていますね。『どうしてこうするのですか?』と質問されたときに、理屈としてしっかり説明できるようにしておきたいと思うんです。たとえば、今回のシュウマイでも、豚肉を練る前になぜ塩と砂糖を入れるのか。粘り気を出して、食べたときにふんわりと軽い豚の餡にするために必要なことなように、一つひとつの工程に意味を持たせる、決して理由なくすることはしないようにしています」
冬の食材としてシュウマイの肉餡に混ぜたゴボウにチンピ(乾燥させたミカンの皮)を合わせたのもお互いに「土系の香り」があるから。「理由を明確にしておくと、そのあとお酒やワインもあわせやすいじゃないですか」と東さん。
ただ漠然と「合うと思います」と提案するのではなく、理由を明確にすること。逆をいえば、「理由がない調理をしない」という東シェフの哲学が見えてきましす。
もともとテレビの料理番組にレギュラー出演をしていたり、一般向けレシピの考案などもする機会があった東シェフは、コロナ禍ではオンライン料理教室など、画面越しに料理を教えるようなことも経験したといいます。
「そういった場面で、媒体を問わずに考えていることは、わかりにくいとか難しいと思われたり、質問がでるようなレシピを出さないように心がけているんです。工程がシンプルであることはもちろん、食材や調味料も少なく、計量もない方がハードルが低い。一方で、今回のようにシュウマイを包むテクニックの部分は丁寧にお教えするようにする。とっかかりのよさや、やってみよう思わせることができたらと思っています」
フキノトウやエダマメ、マッシュルームもシュウマイの餡にシュウマイのレシピも、工程や調味料を入れるタイミングはシンプルでありながら、季節の食材を加えるなどのヴァリエーションを用意して、作り手を飽きさせない構成にしているのは東さんの真骨頂といえます。
さらに食材を変えて何度も作れるような、ベースにある肉餡のレシピなどを用意することで、学びや楽しさをしっかり保障しています。
「肉の切り方や調味料のバランスは、かなり気を配って配分しています。肉餡だけでシュウマイにしてもきちんと肉のおいしさのあるシュウマイができて、さらに季節の食材を入れたら、その食材を下支えするような肉餡になることを目指して作っています。ご自分で材料を揃えて、再度トライしてもらう場合も、肉餡のレシピはそのままで作ってほしいですね。肉のカットの大きさを変えるだけでも、蒸しあがったときの食感や抜け感が変わってしまいますので」
今回作った蟹や春菊、ゴボウ以外にも、「夏野菜のように水分が多い食材以外は合わせられる」というように、どんどん季節の食材を使ったシュウマイを作ってほしいと東シェフはいいます。
春 山菜(フキノトウやウドなど)、葉野菜(菜の花やセリなど)
夏 トウモロコシやエダマメ、ミニトマト(半割を餡にのせる)
秋 キノコ(マッシュルームはおすすめ)
冬 根菜類(ゴボウ、レンコン、ユリ根)、葉野菜(春菊、小松菜)
魚介類 エビ、ホタテ、牡蠣、イカ、タコなど
「食材の火の入り具合を考えて、今回のゴボウのように火が入りにくかったり硬かったりする食材は細かく切って加えてください」
こうした季節のシュウマイは、東さんがオーナーシェフを務める現代料理店「AUBE」でも出すことがあるといいます。
「AUBEのコンセプトは、『中国に日本という町があったら』で、中国料理を日本の食材で作りながら、中国料理を掘り下げていこうとしているレストランです。日本の割烹料理店のような場所なので、今回のような家庭料理然とした仕立てではお出ししていませんが、たとえば蟹の爪の肉にシュウマイの餡をかぶせて蒸しあげたり、スッポンの肉と豚肉でシュウマイを作って、スッポンの出汁のあんかけをかけたり、フキノトウを丸ごと肉餡の中に入れたシュウマイなどをお出ししています」
中国の家庭のおやつだったシュウマイ
「シュウマイ」は、餃子やチャーハン、麻婆豆腐などとともに米食主体の日本の食卓向けに定着した料理の代表といえます。ルーカレーやハンバーグのように、日本人向けにローカライズされた大衆料理ともいえ、いわゆる“本場”とは違った料理として発展してきたといえます。
あえて“日本のシュウマイ”を定義するとすれば「調味料加えた豚ミンチ肉の種を皮で包んで蒸した料理」とすることができます。しかし、本来のシュウマイは、中国では昼夜の食事というよりも間食に位置づけられる軽食「点心」の一つで、さまざまな季節の食材を使って作るものです。
「中国出身だったり、現地のことをよく知る、今50歳から60歳くらいの方は『シュウマイはおやつだ』とおっしゃいますね。子どもの頃に家に帰ったら、シュウマイの肉餡と皮があって、それを自分たちで包んで蒸しておやつとして食べていたそうです。食事という印象はないと聞いたことがあります。餡の包み方は誰から教えてもらうのではなく、こうした日常のなかで自然と身についていく。お好み焼きやたこ焼きのひっくり返し方を誰から教えてもらった記憶がないみたいなものなんじゃないでしょうか」
そんなふうにシュウマイの本来の姿を考えると、気軽でカジュアル、自由にいろいろな食材を使って料理できる料理として身近に感じられるようになります。
ハードルが高く思われがちな蒸し料理、
じつはほったらかしでOK
「日本人にとっては、『蒸す』という調理法が少しハードルになってしまうかもしれないふですね。僕もいろいろなところで料理教室をしてきましたが、『蒸す』ことは敬遠されがち。やはり慣れていないんですよね」
蒸し料理は、ゆでたり、炒めたりして食材に火を通すよりも、食材のうま味や栄養素が溶け出しにくく、かつ食材の全方向から高温の水蒸気で一気に加熱され、さらにしっとりと仕上がるというメリットがあります。
今回のキットには、直径15㎝のミニセイロがセットで届きます。同サイズの直径のたっぷりと水が入る深めの鍋を用意すれば、シュウマイを蒸したときと同じようにクッキングシートを敷いて、適当に切った野菜や肉、魚をのせて蒸すだけで調理ができます。ほっとくだけでいいので、その間にもう1品作ることもできます。
「できあがった蒸し料理は、マヨネーズや市販の各種ソース・ドレッシングをかけて食べるだけでいいんです。火が入りやすいように野菜を切ったり、調味料を考えたりするよりもはるかに簡単だと思いませんか? それでいて調理もほっとくだけでいいし、何より蒸した方が、素材の味が楽しめると思います。とくに季節の野菜は蒸して食べると、おいしさがよくわかると思います」
シュウマイをもっと自由に考えてみるのも、ほったらかしですむ蒸し料理も、「料理を難しく考えない、むしろ料理をしようと思わないでもらいたい」という東シェフならではの思いがあります。シュウマイ作りは、パートナーや家族、友人と一緒に作っても楽しいものです。ぜひ、シュウマイを「作る」ことを楽しんでみてください。
東 浩司●あずま・こうじ
赤坂維新號グループで修業後、2006年、新橋ビーフン東にて料理長に就任。2009年、ソムリエ資格を取得しワインスクールアカデミー・デュ・ヴァン銀座校にて講師を務める。2011年、大阪でChi-FuとAz/ビーフン東の2店を開業し、ミシュランガイド2013でChi-Fuが1つ星を獲得。2014年、台湾で開催された世界中国料理大会で日本人初の3位入賞を果たす。皇室御用達の中華ちまきからモダンチャイニーズと幅広い料理の創作、虎ノ門ヒルズカフェや低糖質カフェをプロデュースするなど、活躍の場は広い。毎日放送「魔法のレストラン HERO’sレシピ」に出演。現在は、2018年に開いた新店「AUBE」でシェフとして腕を振っている。
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