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タリアータとは?トスカーナ生まれの牛肉料理の魅力を徹底解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「タリアータ」についてお話していきたいと思います。イタリア料理の中でも、シンプルながら奥深い味わいで人気を集める「タリアータ」。焼き上げた牛肉を薄くスライスし、削りたてのパルミジャーノチーズと新鮮な野菜を添えて楽しむこの料理は、トスカーナ地方の食文化が生んだ傑作です。

シェフレピの撮影で、関口シェフのタリアータを食べた時の感動は忘れられません。口に入れた瞬間、肉汁がじわっと溢れ出し、ルッコラの苦味とチーズの芳醇な香りが絶妙に調和していました。付け合わせがまた絶品で、これでもかというくらい、一皿に美味しい要素が詰まっていました。

タリアータが語る「切る」という美学

タリアータという名前には、実はイタリア料理の本質が隠されています。イタリア語で「tagliata(タリアータ)」は「切った」「薄く切った」という意味。つまり、この料理の最大の特徴は、焼き上げた牛肉を薄くスライスして提供するという、そのシンプルな調理法にあるのです。

トスカーナ地方の名物料理として知られるタリアータは、正式には「tagliata di manzo(牛肉のタリアータ)」と呼ばれ、イタリア料理のコース構成では主菜(セコンド・ピアット)に分類されます。焼いた牛肉の塊を薄切りにし、削ったパルミジャーノ・レッジャーノチーズをたっぷりとかけ、ルッコラなどの野菜と共に供されるのが基本スタイルです。

1973年、ピサで生まれた革新的な一皿

タリアータの誕生には、興味深いストーリーがあります。1973年、トスカーナ州ピサのシェフ、セルジオ・ロレンツィが、伝統的なビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを再解釈して考案したのが始まりとされています。

ミラノで修業を積んだロレンツィは、1970年に独立してレストラン「セルジオ」を開業。そして1973年、「tagliata di manzo」と名付けた新しい料理を初めて提供しました。この革新的な一皿は瞬く間に評判を呼び、1978年にはミシュランの星を獲得。1980年代初頭には、トスカーナ地方のほぼすべてのレストランがメニューに加えるほどの人気料理となりました。

ただし、より古い時代にタリアータの起源を求める説もあります。アレッツォの貴婦人が馬から落ちて手首を脱臼し、カット済みの肉を求めたという逸話や、マレンマの牛飼いたちが大きな肉片を調理して切り分けていたという説も。これらの真偽のほどは定かではありませんが、タリアータという料理が持つ文化的な奥深さを物語っているのではないでしょうか。

薄切りが生み出す、絶妙な食感と味わいのハーモニー

タリアータの最大の魅力は、何と言ってもその独特な調理法と提供スタイルにあります。牛肉の表面を高温でさっと焼き上げ、中心部はロゼ色に仕上げる。この絶妙な火入れによって、肉の旨味を最大限に引き出すのです。

そして、焼き上がった肉を薄くスライスすることで、一口ごとに異なる食感を楽しめるのも特徴的。外側のカリッと香ばしい部分と、内側のしっとりとした柔らかな部分が口の中で混ざり合い、複雑な味わいを生み出します。

さらに、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノチーズが加わることで、塩気と旨味が増幅。バルサミコ酢のソースが全体をまとめ上げ、付け合わせの野菜が爽やかなアクセントを添える…。まさに、イタリア料理の真髄とも言える組み合わせですね。

地域ごとに花開く、タリアータのバリエーション

基本のタリアータから派生した、さまざまなバリエーションも魅力的です。代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

「タリアータ・コン・ルッコラ」は、ルッコラをたっぷりと乗せたスタイル。ルッコラ特有のピリッとした苦味が、肉の脂の甘みと絶妙にマッチします。一方、「タリアータ・コン・フンギ・ポルチーニ」は、香り高いポルチーニ茸を添えた贅沢な一品。秋の味覚を存分に楽しめる組み合わせです。

地域によっては、トリュフを削りかけたり、季節の野菜を添えたりと、シェフの創意工夫が光るアレンジも。結局のところ、どんなバリエーションも「薄切りにした牛肉」という基本は変わらない。それがタリアータの面白さかもしれません。

シンプルだからこそ奥深い、タリアータの素材と調理法

タリアータに使われる牛肉は、サーロインやリブロースなど、適度な脂肪分を含む部位が理想的。肉の厚さは2〜3センチ程度が一般的で、これを強火で表面を焼き固め、中はレア〜ミディアムレアに仕上げます。

焼き上がった肉は、5分ほど休ませてから薄切りに。この「休ませる」工程が実は重要で、肉汁を落ち着かせることで、切った時に旨味が流れ出るのを防ぐのです。スライスの厚さは5〜7ミリ程度。薄すぎず厚すぎず、ちょうど良い食べ応えを残すのがポイントです。

仕上げには、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりと。そして、上質なエクストラバージンオリーブオイルと、熟成バルサミコ酢をかけて完成です。シンプルな調理法だからこそ、素材の質と調理の技術が如実に表れる…それがタリアータという料理の醍醐味なのです。

ステーキでもローストビーフでもない、タリアータという選択

よく「タリアータってステーキとどう違うの?」という質問を受けます。確かに、どちらも牛肉を焼いた料理ですが、決定的な違いがあります。

まず、ビステッカ(イタリア風ステーキ)は肉を切らずにそのまま提供されますが、タリアータは必ず薄切りにして提供されます。また、ローストビーフとの違いも明確で、ローストビーフは低温でじっくりと中心まで火を通すのに対し、タリアータは表面を高温で焼いて中心部はレアに近い状態を保ちます。

つまりタリアータは、ステーキの豪快さとカルパッチョの繊細さを併せ持った、まさに”いいとこ取り”の料理と言えるでしょう。薄切りにすることで食べやすく、かつ肉の旨味をダイレクトに感じられる。これぞイタリア人の知恵ですね。

まとめ

タリアータは、「切る」というシンプルな調理法に、イタリア料理の美学が凝縮された一皿です。1973年にピサで生まれたこの料理は、今や世界中で愛される存在となりました。

焼き上げた牛肉を薄切りにし、パルミジャーノチーズと野菜を添えるというシンプルな構成ながら、素材の質、火入れの技術、切り方のセンスなど、あらゆる要素が調和して初めて完成する奥深い料理。それがタリアータの魅力です。

次にイタリアンレストランを訪れた際は、ぜひタリアータを注文してみてください。薄切りにされた牛肉の断面から溢れる肉汁、チーズの芳醇な香り、バルサミコの酸味…。きっと、トスカーナの風を感じることができるはずです。

さいごに

シェフレピでは、関口シェフによる「牛肉のタリアータ パイナップルのモスタルダとローストポテト」のレッスンを公開しております!
定番のタリアータの作り方はもちろん、付け合わせのローストポテトや、パイナップルモスタルダも絶品です。ぜひこの機会にチェックしてみてください!

牛肉のタリアータ パイナップルのモスタルダとローストポテト/イタリア料理人 関口幸秀

イタリア語「薄く切った」を意味するタリアータは、塊肉で焼いてからサラダと一緒に食べるのがイタリア流です。ソースは王道の赤ワインとバルサミコ酢。付け合わせのパイナップルのモスタルダとローストポテトもよく合います。フライパンだけで焼きあげるテクニックを習得すれば、家庭でもおいしいステーキが食べられるようになりますよ。

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