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セート風とは?南仏の港町が生んだイカの煮込み料理の魅力

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「セート風」についてお話していきたいと思います。フランス南部の地中海に面した港町セート。この美しい漁師町から生まれた「セート風」という料理をご存知でしょうか?正式には「イカのセート風煮込み( Calmar à la sétoise)」と呼ばれるこの料理は、新鮮なイカをトマトソースで煮込んだ、地中海の恵みを存分に味わえる一品です。

地中海の恵みが詰まった郷土料理の真髄

セート風とは、フランス南部ラングドック地方の港町セートに由来する調理法を指します。主にイカを使用し、ニンニクをベースにしたルイユソースやアイオリソースで食べるのが特徴的な料理です。

この料理の最大の特徴は、何と言ってもニンニクの存在感です。すりつぶしたニンニクをオリーブオイルで乳化させたソースは、まるで地中海の太陽のような力強さを料理に与えます。

漁師町セートが育んだ食文化の歴史

セートは「ラングドックのヴェネツィア」とも呼ばれる美しい運河の町です。17世紀に築かれたこの港町は、地中海貿易の要衝として栄え、豊かな漁業文化を育んできました。

セート風煮込みは、まさにこの土地の歴史と密接に結びついています。漁師たちが水揚げしたばかりの新鮮なイカを、保存が効くように煮込んで調理したのが始まりと考えられています。当時は冷蔵技術もなく、獲れたての魚介類をいかに美味しく食べるかが重要でした。そんな中で生まれたこの調理法は、素材の味を最大限に引き出す知恵の結晶だったのです。

時代と共に、この素朴な漁師料理は洗練され、現在では南仏を代表する郷土料理として愛されています。

ニンニクとイカが織りなす味わいの特徴

セート風料理の魅力は、シンプルながらも奥深い味わいにあります。主役のイカは、火を通しすぎると硬くなってしまうため、絶妙な火加減が求められます。プロの料理人は「イカが踊るような火加減」と表現することもあるそうです。

そして、この料理の要となるのがルイユソース。ニンニクをベースに、サフランやパプリカを加えることで、鮮やかなオレンジ色と複雑な風味が生まれます。このソースがイカに絡みつき、口の中で渾然一体となる瞬間は、まさに至福の時と言えるでしょう。

地域ごとに異なる「セート風」の解釈

興味深いことに、セート風という調理法は、地域によって微妙に異なる解釈がされています。本場セートでは、イカを使うのが定番ですが、近隣の町では他の魚介類を使うこともあります。

例えば、マルセイユ近郊では小ダコを使った「プルプのセート風」が人気です。また、ニースに近づくと、トマトの比率が高くなり、より濃厚な味わいになる傾向があります。さらに、内陸部では川魚を使ったアレンジも見られ、それぞれの土地の食材を活かした工夫が凝らされています。

このような地域差は、フランス料理の豊かさを物語っています。同じ「セート風」という名前でも、その土地の風土や歴史が反映された、まさに生きた料理なのです。

本格的なセート風に欠かせない食材たち

セート風煮込みを作る上で、欠かせない食材をご紹介しましょう。まず主役のイカですが、新鮮なものを選ぶことが大切です。身が厚く、透明感のあるものが理想的です。

ニンニクは、できれば新ニンニクを使いたいところ。香りが強く、辛味がマイルドなので、ソースに深みを与えてくれます。オリーブオイルは、エクストラバージンオイルを惜しみなく使いましょう。南仏料理の基本は、良質なオリーブオイルにあると言っても過言ではありません。

その他の重要な食材:

  • サフラン(ルイユソースの色と香り付けに)
  • パプリカパウダー(風味と色合いに)
  • 白ワイン(煮込みのベースに)
  • トマト(フレッシュまたは缶詰)
  • フェンネル(香り付けに)

伝統が息づく本場の調理法

本場セートで受け継がれている伝統的な調理法をご紹介します。まず、イカの下処理から始まります。内臓を丁寧に取り除き、皮を剥いて輪切りにします。この時、切り方一つで食感が変わるので、厚さは1センチ程度が理想的です。

次に、ルイユソースの準備です。ニンニクをすり鉢でペースト状になるまですりつぶし、卵黄を加えながら、少しずつオリーブオイルを注いで乳化させていきます。まるでマヨネーズを作るような要領ですが、ニンニクの香りが立ち上る瞬間は、料理人にとって至福の時でしょう。

煮込みの工程では、まずイカを軽く炒めてから白ワインを加えます。アルコールが飛んだら、トマトを加え、弱火でゆっくりと煮込みます。この時、決して沸騰させないことが重要です。静かに”ことこと”と煮込むことで、イカは柔らかく、ソースは濃厚に仕上がります。

まとめ

セート風煮込みは、フランス南部の港町セートが生んだ、地中海の恵みを凝縮した郷土料理です。新鮮なイカとニンニクの効いたルイユソースが織りなす味わいは、一度食べたら忘れられない魅力があります。

この料理の素晴らしさは、シンプルな食材から生まれる奥深い味わいにあります。漁師たちの知恵から生まれ、時代と共に洗練されてきたセート風は、まさに生きた食文化の証と言えるでしょう。地域によって異なる解釈や、伝統的な調理法の継承など、この料理には語り尽くせない魅力が詰まっています。

もし機会があれば、ぜひ本場セートを訪れて、港町の風を感じながらこの料理を味わってみてください。きっと、地中海の太陽と海の恵みを、五感で感じることができるはずです。

さいごに

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剣先烏賊とイカスミのラグー クスクス添え/フランス料理人 ロドゥラ

ロドゥラシェフの料理の原型になっているのは、南フランス・ラングドック地方の港町・セートにあるイカを輪切りにしてトマトで煮込んだ伝統料理です。セートは、地中海沿岸ではフランス最大の漁港で、良質な魚介類を使った料理が特徴です。さらに17世紀後半に国王のルイ14世の勅命によって建設されたミディ運河の地中海側の終着港として発展、ヨーロッパとアフリカや中東、アジアを結ぶ国際港として発展した歴史を持ちます。 そうした背景を持つセートの料理らしくロドゥラシェフは、スペイン・バスク地方や北アフリカ、東南アジアの食材を取り入れてオリエンタルな香りをまとったモダンな料理に仕立てなおしています。

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