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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は「ドノスティア風グラタン」についてお話ししていきたいと思います。スペイン・バスク地方の美食の都、サン・セバスティアン(バスク語名:ドノスティア)。この街で生まれた「ドノスティア風グラタン」は、新鮮なカニを贅沢に使い、その甲羅を器として活用する独特のスタイルで知られています。カニの旨味と野菜の甘みが織りなす絶妙なハーモニー、そして見た目にも豪華な一品として、現地では特別な日のおもてなし料理として愛されています。
カニの甲羅が器になる、バスクの贅沢グラタン
ドノスティア風グラタンは、スペイン・バスク地方のサン・セバスティアン(ドノスティア)で提供される、カニを主材料とした特別なグラタン料理です。最大の特徴は、カニの身をほぐしてソースと合わせ、そのカニ自身の甲羅を器として使用する点にあります。
この料理は、単なるグラタンではありません。新鮮なカニの旨味を余すことなく活用し、野菜と共に炒めてブランデーで風味付けをするという、バスク料理ならではの調理法が用いられています。見た目の豪華さだけでなく、素材の味を最大限に引き出す技術が詰まった一品なのです。
20世紀初頭に生み出された美食の傑作
ドノスティア風グラタンの起源は明確には記されていませんが、20世紀初頭に生まれたと考えられています。サン・セバスティアンで活躍していたシェフが、地元で豊富に獲れるカニを使い、フランス料理の技法を取り入れた洗練された一品を生み出したようです。
バスク地方は、世界的にも有名な美食の地として知られています。市内には『アルザック』や『アケラレ』といったミシュランの星を獲得したレストランが点在し、無数のバルではピンチョスと呼ばれるタパスが提供されています。このような環境の中で、ドノスティア風グラタンは高級料理として誕生し、やがて地元の人々に愛される特別な一品へと発展していきました。
ビスケー湾に面したこの街は、豊富な海の幸に恵まれ、古くから漁業が盛んでした。特にカニやエビなどの甲殻類は、地元の食文化において重要な位置を占めています。この豊かな食材を活かし、当時としては革新的な調理法で新たな料理を創造したのです。
甲羅を器に、見た目も味も楽しむ芸術品
ドノスティア風グラタンの最も印象的な特徴は、何と言ってもカニの甲羅を器として使用することでしょう。これは単なる演出ではなく、実は味わいにも大きく貢献しています。
まず、カニの身は丁寧にほぐされ、香味野菜と共に炒められます。ここでブランデーを加えてフランベすることで、アルコールの香りが全体に行き渡り、深みのある味わいが生まれます。そして、再び甲羅に詰めてオーブンで焼き上げるのです。
甲羅を使うことで、カニの風味が移り、より濃厚な味わいになります。また、見た目のインパクトも抜群で、テーブルに運ばれた瞬間から特別感を演出してくれるのです。焼き上がりの香ばしい香りと、黄金色に焦げた表面は、まさに食欲をそそる芸術品と言えるでしょう。
地域によって異なる、カニグラタンの表情
スペイン各地には、それぞれの地域性を反映したカニのグラタンが存在します。ドノスティア風は、バスク地方特有のブランデーを使った風味付けが特徴的ですが、他の地域では異なるアプローチが見られます。
例えば、地中海沿岸では、トマトベースのソースを使ったカニグラタンが好まれることがあります。一方、内陸部では、より濃厚なクリームソースを使い、チーズをたっぷりと乗せるスタイルも見られます。
伝統の主役、ヨーロッパイチョウガニの魅力
ドノスティア風グラタンの基本的な材料は、意外とシンプルです。主役となるカニは、伝統的にはヨーロッパイチョウガニ(Spider Crab)が使われます。バスク語で「Txangurro(チャングーロ)」と呼ばれるこのカニは、実はこの料理の名前の由来にもなっているんです。
ヨーロッパイチョウガニは、その名の通り蜘蛛のような長い脚が特徴的で、身は甘みが強く、濃厚な旨味を持っています。甲羅も大きく、器として使うのに最適なサイズです。現在では入手の都合により、他の種類のカニで代用されることもありますが、本場の味を再現するなら、やはりこのカニが理想的でしょう。
野菜は、玉ねぎ、にんじん、セロリなどの香味野菜が基本となります。これらを細かく刻んで炒めることで、ソフリット(香味野菜のベース)を作ります。そして、この料理の隠し味となるのがブランデーです。カニと野菜を炒めた後に加えてフランベすることで、アルコールの香りが全体に行き渡り、深みのある味わいを生み出します。
伝統を守りつつ進化する、本格的な調理法
ドノスティア風グラタンの調理法は、伝統的な技法を守りながらも、現代的なアレンジが加えられています。基本的な流れは以下の通りです。
まず、生きたカニを茹でて身を取り出し、甲羅は器として使うために丁寧に洗浄します。カニの身は大きめにほぐし、食感を残すようにします。次に、みじん切りにした香味野菜をオリーブオイルでじっくりと炒め、ソフリットを作ります。野菜がしんなりとして甘みが出てきたら、カニの身を加えて軽く炒め合わせます。
ここでブランデーを加えてフランベするのが、この料理の見せ場の一つです。青い炎が立ち上がり、アルコールが飛んだ後には、ブランデーの芳醇な香りだけが残ります。その後、塩・胡椒で味を調えます。
最後に、このソースをカニの甲羅に詰め、上からパン粉やバター、チーズなどをかけてオーブンで焼き上げます。表面が黄金色になり、ふつふつと泡立ってきたら完成です。熱々のうちに提供することで、カニの香りと香ばしさを最大限に楽しむことができるのです。
まとめ
ドノスティア風グラタンは、20世紀初頭にシェフのフェリックス・イバルグレンによって生み出された、バスク地方の美食文化を象徴する料理です。伝統的にヨーロッパイチョウガニを使い、その甲羅を器にするという独創的なアイデアは、見た目の美しさだけでなく、味わいの深さにも貢献しています。
新鮮なカニの旨味、香味野菜の甘み、ブランデーの芳醇な香りが一体となって生み出される味わいは、まさに美食の街ドノスティアならではの逸品と言えるでしょう。高級料理として誕生したこの一品は、今では地元の人々に愛される特別な料理として定着しています。
特別な日のおもてなし料理として、あるいは自分へのご褒美として、ぜひ一度この贅沢な一品を味わってみてはいかがでしょうか。カニの甲羅から立ち上る湯気と香りに包まれながら、バスクの美食文化に思いを馳せる時間は、きっと忘れられない食体験となることでしょう。
さいごに
シェフレピでは、バスク料理店ETXOLA(エチョラ)の清水シェフによる「ドノスティア風 カニのグラタン」のレッスンを公開しております!
じっくりと香ばしく炒めたカニと野菜。これらを甲羅に詰め、仕上げにパン粉とバターをかけてオーブンで焼き上げます。凝縮された旨みと香りを存分に味わえるレシピとなっております。
ぜひこの機会にチェックしてみてください!