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ブランダードとは?鱈(タラ)が主役、南仏の伝統料理の魅力と歴史を徹底解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「ブランダード」についてお話ししていきたいと思います。地中海の恵みを受けた南フランスで生まれたこの郷土料理は、塩漬けのタラとジャガイモを混ぜ合わせた、素朴ながらも奥深い味わいを持つ一品です。今回は、このブランダードの魅力について、その歴史から調理法まで詳しくご紹介していきます。

「かき混ぜる」が生み出す南仏の味わい

ブランダードという名前には、実は興味深い由来があります。フランス語で「かき混ぜる」という意味を持つこの言葉は、プロヴァンス語の「かき混ぜたもの」に由来するとも言われています。その名の通り、この料理の最大の特徴は、材料をしっかりと混ぜ合わせてペースト状にすることにあるんですね。

基本的には、塩漬けのタラ(干し鱈)を牛乳で煮込んで臭みを取り、茹でたジャガイモと一緒に混ぜ合わせて作ります。この「混ぜる」という工程が、実は料理の成否を左右する重要なポイント。じっくりと煮込んで乳化させながら、なめらかなペースト状に仕上げていく過程は、まるで職人技のようです。

地中海に面した南フランス、特にラングドック地方やプロヴァンス地方で愛されてきたこの料理は、グラタン風にオーブンで焼いたり、バゲットに塗って前菜として楽しんだりと、様々な食べ方で親しまれています。

地中海の恵みが育んだ郷土料理の歴史

ブランダードの起源については諸説ありますが、一説によるとプロヴァンス地方で生まれたとされています。地中海沿岸地域では、古くから漁業が盛んで、保存の効く塩漬けのタラは重要な食材でした。内陸部への輸送も可能な干し鱈は、冷蔵技術のない時代において貴重なタンパク源だったのです。

本来の伝統的な作り方では、干し鱈を1〜2日ほど水に漬けて戻し、塩抜きをしてから調理に使います。この手間のかかる下準備も、実は料理の味を決める大切な工程。時間をかけて丁寧に塩抜きをすることで、タラ本来の旨味を引き出すことができるんですね。

フランスの食文化において、ブランダードは単なる家庭料理を超えた存在となっています。現在では高級レストランでも提供される一品となり、シェフたちがそれぞれの解釈で新しいアレンジを加えながら、伝統を受け継いでいます。

クリーミーな食感と深い旨味の秘密

ブランダードの魅力は、何といってもそのクリーミーな食感と、タラの旨味が凝縮された深い味わいにあります。一見シンプルな料理に見えますが、実は絶妙なバランスの上に成り立っているんです。

まず、主役となるタラの塩気と旨味。これがジャガイモのまろやかさと混ざり合うことで、優しい口当たりが生まれます。そこにオリーブオイルの香りが加わり、地中海らしい風味が広がります。さらに、ニンニクやハーブを加えることで、味に深みと複雑さが生まれるのです。

食感の面でも、なめらかなペースト状にすることで、口の中でとろけるような感覚を楽しめます。でも、あえて少し粗めに仕上げることで、タラやジャガイモの存在感を残すという選択肢もあるんです。これは作り手の好みや、地域による違いでもありますね。

地域ごとに異なる個性豊かなアレンジ

フランス国内でも、地域によってブランダードの作り方には違いがあります。例えばニームでは伝統的にジャガイモを使わず、タラとオリーブオイル、牛乳だけで作ることもあります。一方、現代的なアレンジでは、ドライトマトやオリーブを加えて、より地中海らしい味わいを強調することも。

また、「ブランダードファルシ」と呼ばれる料理もあります。これは、ブランダードを詰め物として使った料理で、野菜やパイ生地に詰めて焼き上げたりします。サクサクのパイ生地の中から、クリーミーなブランダードがとろりと出てくる様子を想像するだけで、お腹が空いてきそうです。

日本でも、フレンチレストランを中心に独自のアレンジが加えられています。例えば、和風の要素を取り入れて、味噌や醤油で隠し味をつけたり、日本の干物を使って作ったりすることもあるようです。

素材が織りなす地中海の味

ブランダードの基本的な材料は、実にシンプルです。主役となるのは塩漬けのタラ(または干し鱈)、そしてジャガイモ。これに牛乳、オリーブオイル、ニンニクが加わります。このシンプルさこそが、素材の良さを引き立てる秘訣なんですね。

タラは、白身魚特有の淡白な味わいながら、塩漬けにすることで旨味が凝縮されます。ジャガイモは、ホクホクとした食感と自然な甘みをもたらし、全体をまとめる役割を果たします。オリーブオイルは、地中海料理には欠かせない要素で、料理全体に豊かな香りとコクを与えてくれます。

現代的なレシピでは、これらの基本材料に加えて、ドライトマトやオリーブ、ハーブ類を加えることも多いです。ローリエやタイムなどのハーブは、魚の臭みを和らげるだけでなく、料理に奥行きのある香りを添えてくれます。レモンの皮を少し加えると、さわやかな香りがアクセントになりますよ。

伝統を守りながら進化する調理法

本格的なブランダードを作るには、まず干し鱈の下準備から始まります。24時間ほどかけて水に浸し、途中で何度か水を替えながら塩抜きをします。

塩抜きが終わったタラは、牛乳やローリエ、タイムなどと一緒に優しく煮込みます。ここでのポイントは、決して沸騰させないこと。静かにコトコトと火を通すことで、タラの身が固くならず、ふっくらと仕上がります。

一方、ジャガイモは皮付きのまま茹でるか、蒸すのがおすすめです。皮付きで調理することで、水っぽくならず、ホクホクとした食感を保てます。茹で上がったら、熱いうちに皮をむいて、マッシャーやフォークで潰していきます。

最後の仕上げは、まさに料理名の由来となった「かき混ぜる」工程です。タラとジャガイモを合わせ、オリーブオイルを少しずつ加えながら、木べらやホイッパーで混ぜ合わせていきます。この時、オリーブオイルをゆっくりと加えることで、マヨネーズを作るときのように乳化させ、なめらかなペースト状に仕上げていくのがコツです。

まとめ

ブランダードは、南フランスの地中海沿岸で生まれた、タラとジャガイモを混ぜ合わせた郷土料理です。「かき混ぜる」という意味を持つその名前の通り、丁寧に混ぜ合わせることで生まれるクリーミーな食感と、塩漬けタラの深い旨味が特徴的な一品となっています。

伝統的な製法では干し鱈を使い、時間をかけて塩抜きをしてから調理しますが、現代では様々なアレンジも加えられ、各地域や料理人によって個性豊かな解釈がなされています。グラタンにしたり、バゲットに塗ったりと、楽しみ方も多彩です。

シンプルな材料から生まれる奥深い味わいは、まさに地中海の恵みを凝縮したような料理。フランス料理の奥深さと、郷土料理が持つ温かみを同時に感じられるブランダードは、一度味わえば忘れられない魅力を持っています。機会があれば、ぜひ本場の味を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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