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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「食用菊」についてお話ししていきたいと思います。刺身のつまとして添えられている小さな黄色い菊の花。食用菊は、単なる飾りではなく、古くから続く日本の伝統的な食材です。山形の「もってのほか」、新潟の「かきのもと」など、地域ごとに愛称を持ち、秋の食卓を彩る季節の味覚として親しまれています。
初めて食用菊のおひたしを口にしたとき、その独特のシャキシャキとした食感と、ほのかな甘みに驚きました。観賞用の菊とは全く違う、食材としての魅力に目覚めた瞬間でした。今では秋になると、必ず食卓に並べたくなる一品です。
食用菊とは?観賞用との違いを知る
食用菊(しょくようぎく)は、観賞用の菊と同じキク科の植物ですが、食用に特化して品種改良されたものです。標準和名をショクヨウギクといい、食菊、料理菊とも呼ばれています。
最大の特徴は、苦味が少なく、花弁が大きく厚みがあること。観賞用の菊に比べて香りがよく、独特の甘みがあるのも魅力です。これは長年の品種改良により、食材として最適化された結果なのです。
主な品種には、山形で「もってのほか」と呼ばれる延命楽(赤紫色)、青森県八戸市特産の阿房宮(黄色の大輪)などがあります。それぞれに個性があり、料理によって使い分けるのも楽しみの一つです。
奈良時代から続く食用菊の歴史
食用菊の歴史は古く、奈良時代に中国から日本に伝来したとされています。当時は主に薬用として珍重され、延命長寿の花として菊茶や菊花酒として飲まれていました。
江戸時代になると、民間でも食用として広まり始めます。1695年の『本朝食鑑』には「甘菊」の記述が見られ、1803年の『本草綱目啓蒙』には「料理ギク」として記載されています。松尾芭蕉も菊を好んで食したという記録が残っているんです。
シャキシャキ食感と上品な甘み:食用菊の特徴
食用菊の最大の魅力は、その独特の食感と味わいにあります。花びらは厚みがあってシャキシャキとした歯ごたえがあり、噛むとじわっと甘みが広がります。
色によっても特徴が異なり、黄色い阿房宮は香りと甘みが強く、赤紫色の延命楽(もってのほか)は加熱しても色褪せないという特性があります。どちらも苦味はほとんどなく、初めての方でも食べやすいのが特徴です。
栄養面でも優れており、β-カロテンやビタミンC、葉酸などの抗酸化作用の高い栄養素を豊富に含んでいます。また、解毒作用があることから、刺身のつまとして添えられるのも理にかなっているんですね。
地域で異なる呼び名と食文化
食用菊は地域によって様々な呼び名があり、それぞれに独自の食文化が根付いています。
山形県では「もってのほか」「もって菊」と呼ばれ、菊味噌として郷土料理の一つになっています。「もってのほか美味しい」という意味から名付けられたという説もあるんです。新潟県では下越地区で「かきのもと」、中越地区では「おもいのほか」と呼ばれ、新潟市の食と花の名産品に指定されています。
青森県八戸市の阿房宮は、江戸時代に豪商によって京都から持ち込まれたもので、現在も地域の特産品として大切に育てられています。それぞれの地域で、独自の調理法や食べ方が伝承されているのも面白いですね。
食用菊の種類と調理での使い分け
食用菊には様々な種類があり、それぞれの特性を活かした調理法があります。
延命楽(もってのほか)は、赤紫色で加熱しても色が変わらないため、ごま和えや酢の物、汁物に最適です。阿房宮は黄色の大輪で香りと甘みが強く、酢の物や天ぷらに向いています。小菊は刺身のつまや飾りとして使われ、醤油に花弁を散らして香りを楽しむこともできます。
また、「菊海苔」「干し菊」「のし菊」といった加工品もあり、保存性が高く年間を通して楽しめます。これらは水で戻して使うことができ、独特の風味が凝縮されているのが特徴です。
伝統的な下処理と調理のコツ
食用菊を美味しく食べるには、適切な下処理が大切です。
まず、花びらを一枚ずつ丁寧にむしり取ります。がくの部分は苦味があるので取り除きましょう。茹でる際は、沸騰したお湯に少量の酢を加えると、色が鮮やかになり苦味も抑えられます。茹で時間は30秒から1分程度。茹ですぎると食感が損なわれるので注意が必要です。
茹でた後は冷水にさっと取って色止めをし、水気をしっかり絞ります。この基本の下処理をマスターすれば、お椀もの、おひたし、和え物、酢の物など、様々な料理に活用できますよ。天ぷらにする場合は、生のまま衣をつけて揚げるのがポイントです。
まとめ
食用菊は、奈良時代から続く日本の伝統食材でありながら、現代でも十分に楽しめる魅力的な食材です。
地域ごとの呼び名や食文化、品種による特徴の違いなど、知れば知るほど奥深い世界が広がっています。秋の旬の時期には、ぜひ新鮮な食用菊を手に入れて、その独特の食感と上品な甘みを味わってみてください。刺身のつまとしてだけでなく、主役の一品として食卓を彩ってくれることでしょう。