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素材の香りと風味を活かす新しい時代の中国料理を体験してほしい

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東 浩司|AUBE

ラム肉(羊肉)は、四川料理を含め、中国全土にわたってなじみ深い食材です。中国・清代の文人・袁枚(えん・ばい、1716~1798)が、晩年の1792年に刊行した料理書の『随園食単』には、牛と鹿とともに「南人の家に常時ある物ではないが、しかし製法は知っておかねばならぬ」と記され、炒羊肉糸(チャオヤンロウスウ)や焼羊肉(シャオヤンロウ)などのメニューとともに紹介されています。

「四川のクラシックな料理ですけど、うま味と風味を大切にしたいと考える僕らしい現代的な中国料理になっています」という東シェフ。現在、「AUBE オーブ」を含め大阪に3店の店を持ち、東京でも実家の「ビーフン東」や監修店をもつ人気実力派シェフにモダン中国料理について聞きました。

北京や上海、四川などに並ぶ中国料理のなかの”日本地方料理”

東シェフは、大阪生まれの東京育ち。実家は、1946年に大阪に創業した「ビーフン東」で、ビーフンとちまきで知られる「新橋駅前ビル1号館」2階の店を知る食通も多いのではないでしょうか。東シェフは、ビーフン東の3代目です。

中学生の頃から東京で育ち、20代は都内の中国料理店、そして実家の「ビーフン東」の料理長を務めました。31歳の年に2011年に大阪に移り、1992年まで営業していた大阪のビーフン東を復活させます。さらに、同じ建物に”フランス料理人が中国料理を作ったら”というコンセプトのレストラン「Chi-Fu シーフ」を同時にオープンし、翌年に早々とミシュランガイドで一つ星を獲得。現在は、「Chi-Fu」を若い世代に託し、2018年に開いた「AUBE」で大阪しかできない現代中国料理を深化させています。

自身がオーナーを務める店以外でも、さまざまな店舗の監修・プロデュースをする東シェフが、大切にしているのは「うま味と風味を大切にした中国料理」です。

「中国料理では、一つ、または二つの食材の相性の良さを活かすような料理、たとえば日本でいえば菜の花のお浸しだったり、筍と若布の若竹煮のような料理はあまりないんです。とくに肉料理などは、3つか4つの食材を一緒に使ってバランスをとる料理が多いですね。これは、儒教の4つの教えの一つにもされている『過不足なく偏りのない』という教えの『中庸』という考え方があると思います」

一方で、近年、健康思考やライフスタイルの変化によって、塩分や油脂分を控えるようになったり、より素材を活かすような料理が好まれるようになります。フランス料理ではその流れからヌーベル・キュイジーヌという現代料理が生まれ、世界の料理の潮流を作りました。

日本から見れば同じ外国料理の中国料理も、フランス料理にように現代の生活に適した料理を作らないといけない。そんな強い決意をもって東さんが開いた「Chi-Fu」は、テレビ番組「料理の鉄人」で知られる脇屋友詞氏が持ち込んだ「ヌーベル・シノワ(新しい中国料理)」を次の時代に推し進める料理として注目を集めました。

「Chi-Fuでは中国料理の食材を使いながら、火入れをフランス料理に置き換えたようなコンセプトでした。しかし今のAUBEではコンセプトを変えて、たとえば大阪南部の朝採れの筍を一度も陽の光を当てずにお店に運んで料理する、日本料理とも言えそうな料理をお出ししています。そこには、中国料理を大きくアジアの料理として、北京や四川、上海といった地方と同じ中国料理のなかの”日本地方料理”と考えるようになったことがあると思います。中国の中国料理人に対して『日本の中国料理どうだ、すごいだろ!』ということではなくて、お互いに尊敬できるような料理をしたいと思うようになったことがが大きいです」

素材のうま味と風味を活かした「現代の中国料理」

現代に求められる中国料理とは何か――。そんな問いに答えるかのように中国料理の新しい道を切り拓いてきた東シェフがシェフレピで作ってくれた「水煮羊肉片」は、四川料理の定番です。しかし、このクラシックな料理のなかにもシェフが考える”現代の中国料理”を感じることができます。

「現代の中国料理は、ある意味で労働者の料理として塩味を利かせていた味付けから、塩味を抑えるかわりにうま味と風味を活かす、より素材を活かす調理法にことだと思います。今回のレシピでいえば、塩味は最初にラムのスライスにした塩くらいで、あとは鶏ガラの出汁と野菜や肉の風味や食感でまとめ上げています」

唐辛子や花椒といった香辛料は事前にゆっくり低温で香りを引き出す。豆もやしやセロリといった野菜は、食感を損なわないように注意しながらスープでさっとゆで上げる。牧草の香りが特徴のラム肉は粉を振ってから煮込むことで、うま味と香りを閉じ込める――。

中国料理にありがちな全部まとめて煮込んで塩味で調整するという方法ではなく、それぞれの食材に対して最適な調理を施す方法は、まさに中国料理の現代的に解釈した手法といえます。それぞれに最適な調理をするという考え方は、「過不足なく偏りのない」という中庸の教えが意味することでもあるのではないでしょうか。

東 浩司●あずま・こうじ
赤坂維新號グループで修行後、2006年、新橋ビーフン東にて料理長に就任。2009年、ソムリエ資格を取得しワインスクールアカデミー・デュ・ヴァン銀座校にて講師を務める。2011年、大阪でChi-FuとAz/ビーフン東の2店を開業し、ミシュランガイド2013でChi-Fuが1つ星を獲得。2014年、台湾で開催された世界中国料理大会で日本人初の3位入賞を果たす。皇室御用達の中華ちまきからモダンチャイニーズと幅広い料理の創作、虎ノ門ヒルズカフェや低糖質カフェをプロデュースするなど、活躍の場は広い。毎日放送「魔法のレストラン HERO’sレシピ」に出演。現在は、2018年に開いた新店「AUBE」でシェフとして腕を振っている。

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