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インド料理・フランス料理におけるペッパーの使いこなし

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スパイスは、料理の幅を広げる上で重要な存在として近年最も注目されている食材ジャンルの一つです。
エリックサウス総料理長の稲田俊輔さんと枯朽オーナーシェフの清藤洸希さんをお招きし、基本的なスパイスの使い方からスパイスを使う上で重要な考え方などをお話しいただきました

本日は『インド料理・フランス料理におけるペッパーの使いこなし』と題して、エリックサウスの稲田俊輔シェフと、枯朽の清藤洸希シェフにお話を伺っていければと思います。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

インド料理・フランス料理におけるペッパーの使い方

ーーフランス料理とインド料理で、どのようにペッパーを使っているか教えていただけますでしょうか?

清藤シェフ:その昔、流通が現在ほど発達していなかった頃、フランス料理ではお酒とともに腐敗臭を覆い隠すためにスパイスが使われていました。その流れで現在のフランス料理でも、臭みを消すために使用されることがあります。しかし、私の中では、臭み消しというよりも、料理のアクセントとして香りを付け加えるためにスパイスを使用しています。

稲田シェフ:インド料理では、全般的に多種多様なスパイスを使うことを重視します。フレンチでは塩コショウを特に使用している傾向があるかと思いますが、インド料理の場合はコショウを特別扱いすることはありません。あくまでも、コショウはガラムマサラのようなミックススパイスの一部として使われるというケースがほとんどですね。

インド料理では、コリアンダーやターメリックといった土台となるようなスパイスを使用したうえで、そのアクセントとしてミックススパイスが使用されるというイメージです。そのミックススパイスを構成する一つに、ブラックペッパーを中心とするスパイスがあるという位置付けです。なので、「コショウをアクセントとして使う」という側面は、インド料理もフランス料理も共通しています。

南インド料理ではコショウの役割がさらに重要になるなど、地方によって若干の違いはありますが、インド料理全般でいうとこうした傾向がありますね。

ーー具体的に、枯朽ではスパイスをどのように使っていらっしゃいますか?

清藤シェフ:枯朽ではコース料理を提供していますので、スパイスの使い方が他の料理と被らないよう意識しています。例えば、複合的にスパイスを使う料理や特定のスパイスを目立たせる料理など、スパイスの使い方はさまざまありますが、コース内でなるべく被らないよう考えています。

ーーインド料理では、一つのスパイスを全面的におし出すような料理ってありますか?

稲田シェフ:基本は複合的に使いますが、そういう料理もありますね。複合的に使ったとしても、ベースとなるスパイスを大人しい状態にさせておき、アクセント付けのスパイスを目立たせるといった料理も多くあります。ただ、こうした料理は日本ではマニアの方以外だとなかなかウケにくいこともあり、なかなかできません(笑)。

日本では、やっぱり「インド料理=カレー」という強いイメージがあります。カレーはスパイスを複合的に使用する料理ですので、そうではない「スパイスの種類を絞って使うような料理」は、どうしても私が作ることをお客さんにあらかじめ知られているようなコース料理などの場面に限定されてしまいますね。

ペッパーの使い分け〜ブラックペッパーとホワイトペッパー〜

ーーホワイトペッパー、ブラックペッパーなど使い分けはどのようにしていますか?

清藤シェフ:主に私は、ブラックペッパー・ホワイトペッパー・グリーンペッパーの3つを使っています。これらの使い分けは、単純に料理の内容だけでなく、シチュエーションやお店のタイプなどでも判断していますね。

これは私の中のイメージですが、ブラックペッパーはお客さんみんなが想像するコショウの香りだと思っていて、例えばビストロ料理などと相性が良いですね。

その一方で、高価格帯のお店で提供するような料理を作るときにブラックペッパーを使うと、その香りでお客さんにジャンキーな印象を与えてしまうのではないかと思っていて、これを避けるためにホワイトペッパーを使うことがあります。もちろん「食材に適したスパイスを使う」という考えが前提にはあるのですが。

稲田シェフ:インド料理の場合、一般的にはブラックペッパーを使用します。ただ、ホワイトペッパーを全く使わないわけではなく、「宮廷料理」と呼ばれるようなジャンルの料理では使います。例えば、コルマカレーを作るとき、白く仕上げるためにホワイトペッパーを使いますね。ただ、これはインド料理の伝統的な考えではなく、西洋から来た文化なのではないかと解釈しています。

私個人としては、コース料理を作るときなどには、ブラックペッパーを使うというインド料理の基本からあえてズラして、グリーンペッパーやブラックペッパーの塩水漬けを使うことがあります。

スパイスをドリンクなどに活かす方法

清藤シェフ:枯朽では、ペアリングのドリンクを自分たちで作って出しています。ペアリングのドリンクは提供する料理の1パーツとして捉えていますので、「その料理に対して適切なアクセントとなるもの」「その料理に不足しているものを補うもの」「その料理に同調するもの」といった観点からドリンクを作っています。

この考え方は、まさに料理に合うスパイスを選ぶときと共通するものですね。枯朽では、コーヒーやお茶、杉の木なども香り付けをするスパイスだと認識しています。実際にウェルカムドリンクとして杉の木を使ったドリンクを提供していますが、これは杉を一つのスパイスと捉えて、それをベースに作っています。

スパイスを選ぶ基準

ーースパイスを選ぶときに基準や見極め方などありますでしょうか?

清藤シェフ:以前は特別意識していなかったのですが、最近では自分でカレーを作るようになってから、スパイスの鮮度を意識するようになりました。といっても難しいことはなく、単純に買いすぎず、使う分量だけ買い、すぐに使い切るということを意識するだけで良いと思います。

スパイスの中でも、香りが飛びやすいものと飛びにくいものがあると思っていて、例えば本日のテーマのコショウやトウガラシ、ローリエは香りが飛びやすいと思っていて、特にこれらのスパイスは買いすぎないよう注意しています。
ちなみにローリエはGABANのものが一番フレッシュ感があって、香りを液体に移しやすく好んで使っています。

稲田シェフ:エリックサウスのお店を始めてからは、普段使うスパイスは基本的にインド系のお店が取り扱う業務用のスパイスを現地から直輸入して使ってきました。数年前から家庭用のレシピを作る仕事が増えてきましたので、久しぶりにスーパーにある小瓶のスパイスを使ったのですが、非常に品質が良くてビックリしましたね(笑)。

品質でいえば、現地のスパイスよりも遥かに優れています。なので、品質を重視するのであれば、スーパーで売られている国産メーカーのスパイスを選ぶと良いと思います。フレッシュさを重視するのであれば、ホールスパイスでストックし、料理するタイミングで使用する分だけ粉砕して使うことをおすすめします。粉砕直後じゃないと味わえない香りはあると思います。

注目している食材・料理

ーー最近、注目している食材や料理はありますか?

稲田シェフ:最近はあらためて味噌に面白さを感じています。特に江戸味噌に注目しておりまして、簡単にいうと「八丁味噌のスーパーライト級」のようなイメージです。八丁味噌にはない「粋な軽やかさ」があって、どこか都会的な味がするような気がしています。

清藤シェフ:私は、先ほど挙げた木やコーヒー、お茶ですね。中でも最近は特にコーヒーについて勉強しています。枯朽では、コーヒーをスパイスとしても使っており、コーヒーの産地や製法などを日々学んでいる最中です。

ペッパーがこの世から消えたらどのように料理をするのか?実際に困るのか?

ーー最後の質問になりますが、ペッパーがこの世から消えたら料理にどのような変化があると思いますか?

稲田シェフ:この質問が成立するのは、基本の基本である「塩コショウ」の片側であるコショウがなくなったら大変なことになるのではないかという想定があるのだと思います。しかしコショウがベースになっている国はヨーロッパ文化圏くらいではないでしょうか。

それ以外の国には基本的に「塩チリ」の文化があります。なので、この質問に素直に答えるならば、「塩コショウ」がなくなったら「塩チリ」に変わるのだと思います。しかし、これに抵抗して何かでコショウを補おうと考えてみるのも面白いですね(笑)。

昔風にいうなら、コショウの香りって、洋食の香りであり、ごちそうの香りであり、心がウキウキする華やかな香りだと思います。それでいて薬っぽい香りもしない。これらを考えると、私は「塩ナツメグ」でしょうかね。

清藤シェフ:コショウを砕いてすぐに加熱したときの香りって、コーヒーやカカオの香りと近いです。なので、コショウがなくなったら、私はまずコーヒーやカカオの使用を考えると思います。

今回は、シェフ対談「インド料理・フランス料理におけるペッパーの使いこなし」の内容から抜粋してご紹介いたしました。
※こちらの対談動画はシェフレピプレミアム会員様限定で視聴可能です

登壇者

稲田 俊輔

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て、友人が起業した「円相フードサービス」の設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗の展開に尽力。事業立ち上げやメニュー開発などを手掛ける。2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理ブームをけん引する人気店のひとつになる。料理人、プロデュース業のかたわら、Twitter(@inadashunsuke)などで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』、『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(ともに柴田書店)がある。

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清藤洸希 (h.b.)

福岡県生まれ。高校卒業後、大阪の調理師専門学校に入学。卒業後は大阪市内のミシュラン一つ星のフランス料理店に勤務し、フランス料理から料理人の基礎を学ぶ。その後、東京に移り、ビストロで料理長兼店長を務めた。2022年8月に東京・押上、九坪の倉庫に在る、食の実験室「枯朽」をオープンした。

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