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溝渕由樹|ovgo Baker(オブゴ ベイカー)
東京・小伝馬町の江戸通りに面して建つ「ovgo Baker」は、アメリカ・ニューヨークスタイルのベイクショップです。「NO BUTTER NO EGG」や「AMERICAN VEGAN BAKE SHOP」と書かれているとおり、プラントベース(植物由来)でヴィーガンにも対応したクッキーを販売しています。
窓際にあるイートインスペースで買ったクッキーを食べて過ごしていると、周辺のビジネスマンや住民が次々とovgo Bakerのクッキーを求めてやってきます。年齢も幅広く、若者から年寄りまで、さらには外国人の利用客も多く、多様な人が暮らす日本橋小伝馬町ならではの光景を目にすることができます。
プラントベース(植物由来)やヴィーガン(完全菜食主義者)といった食のトレンドワードに注目が集まりがちですが、しっかりと地域の人に愛されるローカルさがあるのも、ovgo Bakerの魅力の一つといえるでしょう。
菓子は味や素材はもちろん、見た目や大きさもおいしさのひとつ
中学生の頃から菓子作りが好きだった溝渕さんは、インターネットで調べたレシピを見ながら独学で菓子作りをはじめました。中学生の頃に訪れたアメリカ・ニューヨークで体感したカルチャーに魅了されて日本でも「ハードロックカフェ」や「TGI フライデーズ」「シェイキーズ」といったカフェに通っては、甘いデザートを食べていたといいます。
「親がカフェ巡りが好きだったのもあります。大学生のときには、1年間ロンドンに留学していたこともあって、その時は、サッカーばっかり観てましたけど、ロンドンのカフェ文化やパン屋さんにも惹かれていました。日本とは違って、大きくて背徳感のあるお菓子を食べながら、味や素材、機能性はもちろん、質感とかたとえばチョコチップの大きさとかのアウトプット(見た目)に、そもそもの大きさ、店内の雰囲気もあわせて『おいしい』になっていることを実感しました」
大学を卒業後は商社に入社した溝渕さん。3年ほど法務関係の部署で働いた後、自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できるような仕事をしようと退社し、ブラジルやアメリカを旅しながら将来を考えていたといいます。
「もともと気候変動による食糧問題や子どもの教育支援に興味があったので、それを活かしながら、自分が大好きな食べることも仕事にできたらと考えていたときに、環境負荷をおさえることができるプラントベースのカルチャーに触れたんです」
帰国後は、フードビジネスの基礎を学ぶために「DEAN & DELUCA」に勤めたのち、2020年から小学校の同級生2名と大学の先輩1名と共にovgo Bakerを設立します。
似ているようで違うヴィーガンとプラントベース
世界で、ヴィーガンの食生活を送る人の数は、世界人口70億人のおよそ3%、2億以上にもなるといわれています。またヴィーガンの食生活をしている人のうち2年以内に始めた人は62%と、近年の注目度の高さを示しています*。
一方でヴィーガンは、日本では、動物性食品をいっさい口にしない「完全菜食主義者」と訳されますが、溝渕さんは「動物をリスペクトすることが根底にある」といいます。そのため食品以外にも動物の皮や毛を使わない衣服や、動物実験をしていない化粧品などのヴィーガン製品があります。
「ヴィーガンは、動物の権利を守ろうという考えがあるので、植物性の食品だけを食べようとするのは副次的なもの。一方で、プラントベースは環境問題などを解決したいというもので、もともとの出発点がちがうんです」
そのため溝渕さんは、「ヴィーガンにも対応したプラントベースのお菓子」ということをできるだけ丁寧に伝えるように気を付けているといいます。
たとえば溝渕さんがバレンタインデー用にシェフレピに提供してくれた「ダブルチョコレートのヴィーガンスコーン」では、卵もバターも使用していないプラントベースのスコーンであると同時に、てんさい糖やヴィーガン対応のチョコレートを使うことで、ヴィーガンにも対応した菓子だと説明しています。
というのも、精製された砂糖は、家畜等の動物の骨を原料にした骨炭で精製するからです。今回のようなてんさい糖のほか、キビ糖やココナッツフラワーシュガーなどの未精製糖であれば骨炭を使いませんので、ヴィーガン対応になるからです。
「わたしにとっては、100%プラントベースであるのは絶対だけど、お砂糖を気にすればヴィーガンの人にも食べてもらえるし、もちろん乳製品や卵のアレルギーの人にも食べてもらえるものでもあるので、私の考えを押し付けるのではなくて、いろいろな人に食べてもらえるお菓子を作りたいと思っているんです」
* 出展:「Ipsos MORI, An exploration into diets around the world. Ver. 1, 2018」
会社員時代は、鞄のなかに自分で焼いたクッキーを入れていた
2022年春に新しくなったovgo Bekerのタグライン(ブランドメッセージ)は、「Doing Good Tastes So Good」で、日本語にすると「いいことするってこんなにおいしい」という意味になります。それは、作っている溝渕さんにとっても「いいこと」であるとともに、食べた人にとっても「いいこと」にもなるポジティブさに溢れたメッセージです。
「楽しいことは大事で、それが続ける方法でもあると思います。自分に無理のない範囲でやっていくのも。でも、お菓子作りは反復で覚えていくもので楽しむにはちょっと難しいかもしれないですね。材料の違いやきちんとした計量だけでなく、温度管理や行程も決まっていますから。でもクッキーもスコーンも、レシピによって材料がちょっとだけ分量が違うこともあるんです。そのちょっとの違いが増えると、完成に違いができるし、そこを面白がれるようになると、一気に楽しめるようになると思います」
「ダブルチョコレートのヴィーガンスコーン」でも使っているオーツ麦から作った「オーツミルク」なども、メーカーによって状態が異なるので、レシピ通りに作っても、出来あがりに違いができてしまうこともあります。そんな時は、スマートフォンのメモ帳などに、失敗したことを書き残しておくとよいでしょう。どうして失敗したのかも合わせて書いておいて、次に作るときの参考にしてほしいと溝渕さんはいいます。
さらに溝渕さんは会社員時代、作ったお菓子をまわりの人に配っていたのも菓子作りを続けるモチベーションになったといいます。たとえ失敗しても人に渡す。ひとに食べてもらうと、また作ろうという気持ちになるのです。
「毎日のように焼き続けていたから、自分では食べきれないというのもありましたけど(笑)。いつも鞄に作ったお菓子を入れていたときがあって、街中でばったり会った同期にあげてたりしました。でもいまでも思いますが、お菓子を渡すことがコミュニケーションになっていたと思うんです」
バレンタインデーもチョコレートを作ることはひとつのきっかけで、渡す相手を思って作ることや渡した相手との良いコミュニケーションのきっかけになるのです。
「今回のレシピでは1度に8ピースが焼けるので、人にあげやすいと思います。気を付けるとしたら、生地の焼き加減。オーブンには一つひとつクセがあって、動画のようにいかない可能性もあります。それでもスポンジケーキを焼くのに比べてスコーンは失敗しにくいですすから、ぜひ挑戦してみてほしいですね」
溝渕由樹●みぞぶち・ゆき
1993年、東京都生まれ。大学卒業後、三井物産に入社、3年ほど法務関係の部署で働く。自分の仕事が誰かの役に立っていることを実感できる仕事がしたいと退社。ブラジルやアメリカを2カ月間にわたり一人で旅し、環境問題や食糧問題を知る。帰国後、フードビジネスの基礎を学ぶためDEAN & DELUCAにストアの社員として勤務。2020年から小学校の同級生2人と大学の先輩とともにovgo Bakerを設立。2021年6月に、東京・日本橋小伝馬町に初の路面店「ovgo Baker Edo St.」をオープン。2022年3月には東京・原宿に「ovgo Baker Meiji St.」店を、同年12月には京都に「ovgo Baker Nijo St.」を出店した。
ovgo Baker:https://ovgobaker.com/
Twitter:https://twitter.com/ovgo_official
Instagram:https://www.instagram.com/ovgo_official/
photos by さいだー
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
関連商品:「ダブルチョコレートのヴィーガンスコーン【ラッピングキット付き】」