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料理を好きであることと、手を加えすぎないこと

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石田伸二|乃木坂しん

7年連続でミシュランガイドの一つ星を獲得し続ける東京・乃木坂にある日本料理の名店「乃木坂しん」の店主・石田伸二さんは、「料理上手」で思いだすのは、三つ星の日本料理店「龍吟」の料理人で兄弟子でもある山本征治氏と母だといいます。そして料理上手になるには、食材や調味料を使いすぎず、少ない材料でバランスをとっておいしさのベースをつくる。その考えを癖づけることだといいます。

調理や料理の意図を言語化できる料理人になりたい

料理上手な人で思い浮かぶのは、兄弟子である「龍吟」の山本征治さんです。三つ星料理人として日本だけでなく、海外でも名前が知られている、日本を代表する料理人ですから、料理上手なのは当たり前なのですかね。でも、それ以上に料理をすることが好きで、食べることも好きな人でした。

山本さんほど、料理を愛して、突きつめて、良い意味で料理しかできない人はいないと思います。休みのときでも食べることを考えているからこそ、あの料理ができるんだと思うんです。

今思いかえしても、まかないがものすごくおいしかったですね。和食でも、中華でも、イタリアンでも、何をつくってもおいしいんです。

「好きこそものの上手なれ」とよくいいます。きっと好きだからこそ、突きつめられることがあります。知りたいという欲求が知識の積みかさねになり、その積みかさねた知識によって具現化できるものがある。そんなことを感じさせてもらえる、尊敬する憧れの兄弟子です。

もう一つ山本さんのすごいところは「料理の説明ができる」ということです。料理の説明ができるというのは、自分でもちろんつくれるし、同じ料理を説明すれば他人でも作れるということです。これはすごいことです。

今回、シェフレピさんのお仕事をお受けしたのも、自分にとっての挑戦で、自分ができるだけでなく、同じように動画を視聴されたみなさまにもつくれるようにすることで、自分自身の料理人としてのステージをあげたいという思いも、じつはありました。

「乃木坂しん」は2016年6月に乃木坂にオープンした。2016年以来、ミシュランガイド東京で1つ星を獲得し続けている。
豚バラ肉のしぐれ煮」。しぐれ(時雨)煮は、佃煮のように醤油やみりん、砂糖などで煮あげた料理だ。
豚バラ肉の脂が甘辛いタレ、さらにゴボウの風味が複雑さと奥行きを与える料理屋のしぐれ煮になっている。

料理上手の母は、手を加えすぎない人だった

料理人以外で料理上手だと思うのは、母です。自分は、徳島県の田舎で生まれ育ったんですが、母がいろいろなものを作ってくれました。ベシャメルソースからつくった蟹クリームコロッケといった洋食はもちろん、魚も自分で卸して料理をつくっていました。

今と昔では、生活環境や食材の流通、調理家電の進化もあって、単純に比べることはできませんが、昔は、自分でなんでもつくる時代だったと思います。出汁もとるし、調味料もつくる。ウチは共働きで、母は料理をつくる時間なんて少なかったと思うのですが、兄貴と自分の分は必ずつくってくれていました。

自分が料理人になって、母の料理上手なところはなにかと考えてみて感じるのは、手を加えすぎないところです。

料理上手とは、行程が複雑な難しい料理をつくれることではなくて、少ない手数でも味を決められるということなのではないかと思います。みなさまのなかにもおいしくするために、食材や調味料をあれこれを足して、結局はまとまらなかったという経験があるのではないでしょうか。味を足すという発想ではなく、必要最小限の材料と行程でまとめていく。母は、きっと無意識にやっているとは思うのですが、そういう点は料理上手だなと思います。

普段の料理で味付けが決まらないと感じているのであれば、食材も調味料も使うものを減らすことを意識してみるとよいと思います。食材や調味料を減らすことで、ベースになる味のバランスがとれるようになるからです。確固たるベースがあれば、上塗りしても変なものにならないはずです。

「食は、お腹を満たすだけのものだけではありません。いろいろなことに繋がっています。日本の食も同様で、食事の作法や食材の知識、歴史、道具の使い方、日本で育まれたものがあります。そういったものが失われようとしているのは、とても残念なことです」と石田さん。
「筑前煮」では出汁のとりかたも学べる。ニンジンやゴボウの風味や食感がしっかり残って、鶏肉もやわらかい。甘辛い煮汁の筑前煮はご飯がすすむ。「出汁からとる」というと難しく感じるが、鍋に水と昆布、鰹節を入れて火にかけて漉すだけ。あとはカットした野菜と鶏肉を炒めて、とった出汁を加えて煮詰めて調味して完成する。

失敗を恐れない。片手間にやらずにつくることに集中する

今、和食が一番遠い存在になってきています。和食を給食に出さなければいけないのに、なぜかチーズバーガーが出てくる。そんなの出しているから、日本の食がおかしくなっていく。日本人が味噌汁がつくれなくなるのは、おかしなことだと思わないといけません。

「和食は難しい」と感じるのは、そういった現代の生活との距離によることも原因としてあると思います。さらに食事の作法に決まりごとが多いということや、出汁の取り方がわからないということも「難しい」と感じることかもしれません。

しかしそれは、あくまでイメージだと思うんです。今回の出汁のとり方のように、じっさいにやってみるととても簡単なことだと理解してもらえると思います。

和食は、出汁がキーワードです。この出汁がとれるようになったら、和食は無限に広がっていきます。野菜を炊けば煮物になり、ご飯を炊けば炊き込みご飯になります。出汁をクリアできたら、ほかの料理にも意外とすんなり応用できることに気づくはずです。

それに多くの日本人が食べてきた日常的な料理は和食です。親が作ってくれたものも、僕ら料理屋がつくっているのも和食です。そう考えると、和食が難しいと思う気持ちが和らぎませんか? そんな風に考えて恐れずにやってほしいです。

今回のレッスン「和食の基本も学べる ご飯がすすむつくりおき」は、和食の入口になりえると思っています。ご飯のおかずとして、シンプルで簡単に作れることをお伝えできたらと思っています。

動画でもお伝えしていますが、料理は「こうじゃないといけない」と、変な決まり事を自分に課さない方がいいと思っています。今回の「筑前煮」のレッスンでは、和食の基本調味料「さ(砂糖)し(塩)す(酢)せ(醤油)そ(味噌)」で知られる最初の砂糖を、全体のバランスをとるために最後に加えています。

根本的に料理は、おいしいものをつくること。材料や火加減が変わっても、仕上がりの味がおいしければいい。作る前から難しく考えて、一歩前に出られないのではなく、まずはやってみる。怖がらずに、シンプルなものからはじめて料理をつくることに慣れてみるといいと思います。

初めから失敗しない人なんていません。自分も料理人になりたてのころは、失敗ばかりしていました。煮付けを何度焦がしたことか(笑)。最初から今のような料理ができたわけではありません。27年間かけて、失敗しないように意識しながら料理を続けてきました。

そのなかで感じていることは、物事には真摯に向き合うということです。簡単にいえば、ほかのことをしないで料理にだけ集中する。できないことを片手間でしようとしないのも大事です。

それは、自分自身が不器用で、別々のことを同時にできなかったというのもあるのですが、鯛の煮付けをつくるなら、鯛の煮付けをとにかくおいしくできるようになるまでつくる。そして、おいしい鯛の煮付けができるようになったら、出汁巻き玉子をつくるというようにして、レパートリーをすこしずつ増やしていくといいと思います。

鯛の煮付け」。魚を使う料理はハードル高いと思われがちですが、カットした魚や野菜を鍋に入れて煮込むだけで、キッチンも汚れにくく簡単。味付けも、動画をみながら丁寧に味見をしていけばおいしく仕上がる。

石田伸二(いしだ・しんじ)
1976年、徳島市出身。料理人を志し、調理師専門学校を卒業すると、徳島の料亭に入り15年にわたり研鑽を積んだ。その後、銀座の星付き店で5年間の修業。同店がパリに進出した際には、その立ち上げにも参画。フランスでソムリエの飛田泰秀氏と多くの時間を過ごし、将来のビジョンを共有。帰国後、飛田氏とともに、2016年6月に「乃木坂しん」をオープン。料理長としてカウンターに立ち続けている。2016年以来、ミシュランガイド東京で1つ星を獲得し続けている。
乃木坂しんホームページ:https://www.nogi-s.com/
乃木坂しんInstagram:https://instagram.com/nogizaka_shin
石田料理長Instagram:https://instagram.com/shinji.ishida.3975

連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。

関連商品:「和食の基本も学べる ご飯がすすむつくりおき

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