🏠 » シェフレピマガジン » 知って楽しむ料理事典 » アクアパッツァとは?ナポリ生まれの豪快な魚介料理の魅力を徹底解説

アクアパッツァとは?ナポリ生まれの豪快な魚介料理の魅力を徹底解説

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は「アクアパッツァ」についてお話ししていきたいと思います。
イタリア料理店のメニューで見かけることも増えてきたこの料理は、実はナポリの漁師たちが生み出した、素材の旨味を最大限に引き出す魚介料理なのです。魚をまるごと使い、トマトやオリーブオイル、白ワインでシンプルに煮込むだけ。それなのに、驚くほど深い味わいが生まれる不思議な料理です。

初めてアクアパッツァを食べたとき、その見た目の豪快さと繊細な味わいのギャップに驚きました。魚から染み出た旨味とトマトの酸味、オリーブオイルのコクが絶妙に調和し、まるで地中海の恵みをそのまま皿に盛り付けたような一品でした。

狂った水?アクアパッツァの正体とは

アクアパッツァ(acqua pazza)は、イタリア語で「狂った水」または「奇妙な水」という意味を持つ、ナポリ地方発祥の伝統的な魚介料理です。正式名称は「ペシェ・アッラックア・パッツァ(pesce all’acqua pazza)」といい、魚介類をトマトとオリーブオイル、水や白ワインで煮込んだシンプルながら奥深い一品です。

この料理の最大の特徴は、ブイヨンやだし汁を一切使わないこと。魚介類から出る旨味だけで勝負する、素材の力を信じた料理なのです。フライパン一つで作れる手軽さも魅力の一つですね。

ナポリの漁師が生んだ「狂った水」の物語

アクアパッツァの起源は、ナポリ地方の漁師たちにあります。彼らは獲れたての魚を、海水を加えてトマトやオリーブオイルと共にソテーして作っていました。新鮮な魚介類の旨味を余すことなく味わえる、まさに漁師ならではの知恵が詰まった料理だったのです。

興味深いのは、この料理名の由来です。トスカーナ地方では、かつて農民たちが領主に納めるワインを作った後の搾りかすを水で煮出し、発酵させて作った安価なワインを「アクアパッツァ」と呼んでいました。このワインの赤い色が、魚を煮込んだときにトマトから染み出る赤い出汁を連想させたことから、この名前がついたという説があります。

少量の白ワインと海水で煮る調理法から来た名称ともいわれていますが、いずれにしても庶民の知恵から生まれた料理であることは間違いありません。

素材の旨味が主役!アクアパッツァの3つの魅力

アクアパッツァの魅力は、何といってもそのシンプルさにあります。

まず第一に、素材の味がダイレクトに楽しめること。余計な調味料を使わないからこそ、魚介類本来の旨味が際立ちます。新鮮な魚から出る出汁、あさりから染み出る磯の香り、トマトの酸味とオリーブオイルのコク。これらが渾然一体となって、複雑で深い味わいを生み出すのです。

第二に、見た目の豪華さ。魚を丸ごと使った場合は特に、テーブルに運ばれてきた瞬間の”わぁ!”という歓声が聞こえてきそうな華やかさがあります。パーティー料理としても最適ですね。

第三に、調理の手軽さ。基本的にはフライパン一つで完成する料理なので、特別な道具も技術も必要ありません。それでいて本格的なイタリアの味わいが楽しめるのですから、まさに理想的な家庭料理といえるでしょう。

地中海から世界へ:各地で愛されるアクアパッツァ

本場イタリアでは、地域によって使う魚介類や調理法に違いがあります。ナポリでは伝統的に小型の魚を丸ごと使いますが、北部では切り身を使うことも。最も古典的なレシピにはトマトが入らず、海水、少量の白ワイン、オリーブオイル、ニンニク、イタリアンパセリだけで作られていました。

日本では、鯛を使ったアクアパッツァが定番となっています。これは日本人にとって鯛が特別な魚であることと、白身で淡白な味わいがこの料理に適しているからでしょう。最近では、サバやイワシなどの青魚を使ったバリエーションも人気です。

レストランでは「カレイとアサリのアクアパッツァ」「真鯛とムール貝のアクアパッツァ」といった具合に、使用する魚介類を明記したメニュー名で提供されることが多く、季節の魚を使った創作的なアレンジも楽しめます。

基本の材料と味の決め手

アクアパッツァに使われる基本的な材料は実にシンプルです。

魚介類は、タイ、スズキ、タラ、カサゴ、メバル、ハタなどの白身魚が定番。青魚ならサバも美味しく仕上がります。骨から良い出汁が出るので、できれば尾頭付きの小型の魚がおすすめですが、切り身でも十分美味しく作れます。

貝類は、アサリやムール貝が王道。これらから出る磯の香りと旨味が、料理全体の味を引き締めてくれます。好みでイカやタコを加えても良いでしょう。

野菜とハーブは、トマト(ミニトマトがおすすめ)、ニンニク、イタリアンパセリが基本。オリーブやケッパーを加えると、より本格的な味わいになります。

調味料は、エクストラバージンオリーブオイル、白ワイン、塩、こしょうのみ。この最小限の調味料で、素材の味を最大限に引き出すのがアクアパッツァの真髄です。

漁師直伝!本場の調理法の秘密

伝統的なアクアパッツァの調理法は、実は驚くほどシンプルです。

まず、フライパンにオリーブオイルを熱し、ニンニクの香りを立たせます。ここで魚を皮目から焼き、表面に焼き色をつけるのがポイント。これにより魚の旨味を閉じ込め、煮崩れも防げます。

次に白ワインを加えてアルコールを飛ばし、水(本場では海水)を加えます。ここであさりなどの貝類、トマトを加え、蓋をして煮込みます。火加減は中火から弱火。じっくりと魚介類の旨味を引き出すのです。

仕上げにイタリアンパセリを散らし、エクストラバージンオリーブオイルを回しかければ完成。煮汁をスプーンで魚にかけながら煮込む「アロゼ」という技法を使うと、より美味しく仕上がります。

残ったスープは捨てずに、パンにつけて食べたり、パスタやリゾットに活用したりするのが本場流。最後の一滴まで楽しむのが、この料理の醍醐味なのです。

まとめ

アクアパッツァは、ナポリの漁師たちが生み出した、素材の力を最大限に活かす魚介料理です。「狂った水」という不思議な名前の由来には、イタリアの庶民文化が色濃く反映されています。

シンプルな材料と調理法でありながら、魚介類の旨味、トマトの酸味、オリーブオイルのコクが絶妙に調和し、深い味わいを生み出すこの料理。フライパン一つで作れる手軽さも魅力で、家庭でも本格的なイタリアンの味を楽しめます。

魚を丸ごと使えば豪華な一品に、切り身を使えば気軽な普段のおかずに。あなたも、地中海の恵みが詰まったアクアパッツァを、ぜひ一度作ってみてはいかがでしょうか?きっと、その奥深い味わいに魅了されることでしょう。

さいごに

シェフレピでは、アクアパッツァをアレンジした「ハタと海の幸のシャラティエッリ」のレッスンを公開しております!
ぜひこの機会にチェックしてみてください!

ハタと海の幸のシャラティエッリ/Cantina Arco 清水美絵

毎年南イタリアに渡っては、地元のマンマ(お母さん)に家庭料理を学びに行くなど、現地のレシピをそのまま再現することを目指す清水美絵シェフは、南イタリアで実際に学んできたショートパスタ「シャラティエッリ」の作り方を教えてくれます。
さらにハタと貝類の蒸し煮をパスタソースにする「ピアット・ウニコ」スタイルの豪快な食べ方も提案。この魚の蒸し煮は、パスタを入れなければイタリアの漁師料理「アクアパッツ」にもなる、汎用性の高いレシピです。ぜひ本場イタリアのレシピを学んでみてください。

🏠 » シェフレピマガジン » 知って楽しむ料理事典 » アクアパッツァとは?ナポリ生まれの豪快な魚介料理の魅力を徹底解説